第35話:あたくしは死刑になるの!?(Side:ワガマリア⑤)
「王様の容態は一向に良くならないぞ! 意識を失ってからもうすぐ一日だ!」
「非常に強い毒に侵されていることしかわからん! 秘薬も回復魔法もまるで効果がない!」
「ポーションの専門家を連れてきました! 先生、こちらにお願いします!」
衛兵や医術師たちの激しい声や足音が、扉を抜けて聞こえてくる。
あたくしはお母様、お義父様と一緒に小さな部屋に閉じ込められていた。
ここは王宮にある収容施設。
あろうことか、あたくしたちサンデイズ家は王様を殺そうとした罪に問われているのだ。
あり得ないでしょ、いい加減にしなさいよ。
「ワガマリア、どうにかしなさい。私たちをここから出すの。全ての罪はあなたが被りなさい、一番若いんだから」
「そうだ、そうだ。罪を肩代わりしろ。ワガマリアはこの中で一番若いんだぞ」
鬱々としていたら、お母様とお義父様が意味のわからない主張を始めた。
「罪を被れって、子どもをなんだと思っているの!」
「親の言うことはちゃんと聞きなさい、ワガマリア」
「そうだ、そうだ。言うことを聞くんだ、ワガマリア」
「……ぬあああああ!」
「「こ、こら、やめなさい! 引っ掻くんじゃない!」」
狭い室内を互いに追いかけ回す。
今日という今日は許さないわよ。
散々好き勝手言いやがってぇえ。
「「おい! 王様に何を食べさせた!」」
内側からは開かない小窓が、バンっ! と激しく開けられた。
衛兵たちのキツイ視線が突き刺さる。
途端に、お母様とお義父様は静かになった。
このお調子物がぁ!
仕方がないので、清楚な雰囲気を演じるようにして話す。
「た、たぶん、<ポイズンフグ>って魚かしら?」
「「たぶんってなんだ! よく分からない食材を食べさせたのか!」」
怒鳴られた。
人がせっかくお淑やかに話してやってるというのに。
「早くここから出しなさい! あたくしたちは男爵家なのよ! こんな狭い部屋に閉じ込めるなんて、無礼にもほどがあるでしょう!」
怒鳴り返してやると、衛兵たちは静かになった。
やれやれ、この人たちは叫ばないとわからないんだから。
「出すわけないだろ! お前たちは王様の殺人未遂罪に問われているんだぞ!」
「今すぐ処刑されても文句は言えないんだ! 毒の詳細が不明だから生かされているだけだ!」
「もし王様が死んだら、我が国初の死刑になってもおかしくないからな!」
告げられた言葉はあたくしの……いや、あたくしたちの胸に鋭く突き刺さった。
さ、殺人未遂罪……?
し、死刑……?
あまりの衝撃に呆然とする。
お母様とお義父様も、あたくしと同じように唖然と佇むばかりだった。
衛兵は激しく小窓を閉じると、乱暴な足音を立てて去る。
あっという間に不気味な静寂が訪れた。
お母様が絞り出すように言葉を呟く。
「ワ、ワガマリア、さすがに死刑はまずいわ。このままじゃ殺されちゃうじゃないの。どうにかしなさい……」
「そ、そうだ、そうだ。し、死刑になったら私たちは死ぬんだぞ。ワガマリア、どうにかしろ……」
「そんなこと言ったって……あたくしにも、どうにもできませんわ……」
いつものように怒鳴り返す気力もなく、呟くように言うことしかできなかった。
□□□
もう何時間、何日経ったのだろう。
あたくしは膝を抱えて、ずっと床に座り込んでいた。
死刑になるんじゃないのか……死ぬんじゃないのか……あたくしの人生はここまでなのか……。
そんなことばかり考える時間を送っている。
緊張感と不安と罪悪感と、色んな感情が入り混じった感情が頭の中に渦巻く。
挙句の果てには、悩み過ぎて疲れ果ててしまった。
お母様とお義父様も何も話さない。
虚ろな目で床の一点を見ているだけだ。
あたくしたちは、ただただ己の処遇を待つのみ。
こんな時間がいつまで続くの?
いっそのこと殺してほしい……。
眠ることもできず、互いを責めても何も変わらず、無の時間を淡々と過ごしているときだ。
扉の外から響いた歓声が、鬱屈とした空気を切り裂いた。
「「王様が回復されたぞー! 意識を取り戻したー!」」
……え?
今……なんて言ったの?
「お、お母様、お義父様。今の聞こえました?」
「え、ええ、もちろんよ。回復したってハッキリと」
「王様が回復……つまり……治ったってことか!?」
暗い気持ちは徐々に打ち消され、心の中に光が差し込む。
あたくしたちの顔にも笑みが零れる。
浮足立つような気持ちでいると、ガシャンと小窓が開かれた。
衛兵の顔が覗く。
そのブサイクな顔も、今のあたくしにとってはどんなハンサムボーイより素敵な顔に見えた。
「ねえ! 王様が回復されたってほんと?」
「ああ、本当だ」
……素晴らしい。
やっぱり、さっきの歓声は王様が復活したことを祝う声だったらしい。
悩みが吹き飛んだ明るい気持ちでこの世の全てに感謝していたら、衛兵の言葉が耳に届いた。
「行方不明のレベッカ嬢が見つかったのだ。その【毒消し】スキルで、王様の毒を無毒化してくださった」
「……お義姉様?」
「ああ、そうだよ。王様の毒を消して治してくださったのは、お前の姉――レベッカ・サンデイズ嬢だ」
レベッカ・サンデイズ嬢だ……サンデイズ嬢だ……嬢だ……。
衛兵の言葉が頭の中に残響する。
「お、お義姉様が……? 治した……王様を……?」
呟くように聞き返すも、衛兵は嘘など吐いていないことは明白だ。
じわじわと言葉の意味を実感する。
つまり、あたくしは家から追い出したお義姉様に……外れスキルだと馬鹿にしたお義姉様に……助けられたってこと?
「…………ぬあああああ!」
屈辱に耐えかねて、腹の底から怒号を上げた。
まさか、お義姉様にこの窮地を救われるなんて!
こんなことあってはならない。
絶対に認めてなるものか。
屈辱と怒りに苛まれていると、衛兵が淡々と告げた。
「王様は無事回復されたが、これからお前たちの処遇を決める」
その言葉とともに扉が開かれ、さらに何人もの衛兵が部屋に入ってきた。
有無を言わさず、あたくしたちを外に引っ張る。
「ちょ、ちょっとやめてよ。痛いじゃないっ」
「離しなさいっ。私は男爵家の妻なのよっ」
「私は当主だぞっ。離せっ」
抵抗するけど、誰も何も言わない。
しょ、処遇って、まさか死刑じゃないわよね。
衛兵たちに連行されていく中、あたくしの心は不安で満たされていった。
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