34話:王宮からの使者と実家
「ロールちゃん、金貨も砂金もレア魔石も宝石もダイヤも水晶のナイフも真珠のネックレスも“天使の涙”もしまおうね~」
『そこら辺のダンジョンより高価な品物が集まっているんニャよ。もっと自覚持ってほしいニャ』
「んああ~」
お母さんたちが天界に帰ってからも、私の日常は変わらない。
ロールちゃんから貴重品を回収し、食材を集め、料理を作る。
キャンデさんも相変わらず“カフェ・アンチドート”を出入りしているし、ネッちゃんも元気に過ごしている。
昨日だって、お風呂から逃れるためお店の中を何周も逃げ回るほどだった。
いつもの毎日が送れる幸せを噛みしめている。
色んな宝物をしまったところで、キャンデさんがクエストから帰宅した。
「「お帰りなさい、キャンデさん」」
「ただいま。今回のクエストでは、毒食材は入手できなかった。すまんな」
「いえ、お気になさらないでください。まだまだ保管している食材がありますから」
キャンデさんはクエストのついでに食材を集めてくれる。
でも、お忙しいときだってあるのだ。
感謝の気持ちを込めて<ポイズンハーブ>のお茶を出したとき、お店の外から大きな声が聞こえてきた。
「「レベッカ・サンデイズ嬢……レベッカ・サンデイズ嬢はいらっしゃいますかー!?」」
何人かの男性の声だ。
誰だろう。
声だけでも切羽詰まった様子が伝わってくる。
ただ一つ、お客さんではないことだけわかった。
今までにないパターンで、店内に緊張感が生まれる。
「レベッカ、誰だろうね」
『ずいぶんと慌ててるっぽいニャ』
「わ、わからない。聞いたことない声だよ」
「念のため、私も一緒に出る」
みんなに付き添われながら、そっと扉を開けた。
お店の前には、武装した数人の男性が集まっている。
あ……この人たちは……。
挨拶しようとしたけど、彼らの武器を見た瞬間キャンデさんが飛び出した。
「貴様ら何者だ! 盗賊か!? この店を襲うつもりなら容赦はしない!」
「「ち、違います、我々は……」」
「キャンデさん、大丈夫です! この人たちはフリーデン王国の衛兵の皆さんです!」
誤解から争いが始まる前に、慌てて彼らの間に入った。
武装した人たちはフリーデン王国の衛兵。
その証に、胸には国の紋章である剣と斧が交差したプレートをつけている。
説明すると、キャンデさんも剣を下ろしてくれた。
「……ったく、そうならそうと先に言え」
「「申し訳ございません……」」
キャンデさんがSランク冒険者の“惑乱の凶星”であることを知ると、衛兵の皆さんも恐縮していた。
「あの、レベッカ・サンデイズは私でございますが、どうしたんでしょうか?」
「「ああ、お会いできて良かった……。実はですね、今国王陛下が大変なことになっています。サンデイズ食堂にて食事をしたら、非常に強力な毒に襲われてしまったのです」」
「「えぇ!?」」
驚く私たちに、彼らは事の詳細を話してくれた。
実家は私の追放を隠したこと……、冷凍保存されていた<ポイズンフグ>をそのまま出したこと……ワガマリアの【キュアヒール】は愚か、国中のどんな医術師でも治せないこと……。
要するに、実家の面々は私が注意したことを何も聞いていなかったというわけだ。
「……サンデイズ家がご迷惑をおかけして申し訳ありません……本当に……」
「「い、いえ! レベッカ嬢のせいではないですから!」」
頭を抱え謝罪した。
家族が本当に申し訳ない。
「「それでですね、レベッカ嬢。ぜひ、あなた様のお力を貸していただきたいのです。聞くところによると、どんな毒も無毒化してしまうとか」」
「ええ、もちろんです! すぐにでも行きます! 私の【毒消し】スキルなら無毒化できると思います」
こうしちゃいられない。
急いで王宮へ行かないと。
「「それを聞いて我々も安心しました。王宮の専属魔術師から転送プレートを預かっています。さあ、こちらへどうぞ」」
衛兵の皆さんに連れられ、お店前の広々としたスぺースへ。
プレートを落とすと、地面に魔法陣が刻まれた。
私が転送される前に、ネッちゃんが急いで飛んできた。
「ネッちゃん……」
『一緒に行くニャ!』
「あの、猫妖精も一緒に行けますか?」
「「……え? は、はい、構いませんよ。さあ、行きましょう」」
ネッちゃんとともに魔法陣の中心へ立つ。
「レベッカ、気を付けてね!」
「毒なんかさっさと解毒して戻ってこい!」
ロールちゃんとキャンデさんが応援してくれる。
ありがとう、二人とも……。
温かい声を背に笑顔で答えた。
「「<テレポーテーション>! 我らをフリーデン王国の王宮へ転送せよ!」」
衛兵の皆さんが呪文を唱え、徐々に白い光が私たちを覆う。
これが転送魔法……目を開けたときは王宮に着いているのかな。
そう思っているうちに、白い光に包まれた。
□□□
「レベッカ嬢、どうぞ目を開けてください。着きましたよ」
「『うっ……』」
光に包まれて数秒後、衛兵さんの声が聞こえた。
そっと目を開ける。
石造りの廊下に、私とネッちゃんは立っていた。
「お身体に異常はありませんか? 人によっては軽いめまいを起こすことがあります」
「私は大丈夫です。ネッちゃんは平気?」
『全然平気だニャ!』
「良かったです。それでは、さっそくですが国王陛下の毒消しをお願いします。陛下はその扉の中にいらっしゃいます」
私たちの目の前には大きな扉がある。
あの奥に、毒で苦しんでいる王様がいるのだ。
グッと気合を入れた。
「はいっ、お願いしますっ」
衛兵さんたちが扉を開き、私たちを案内する。
入ってすぐのベッドに……王様は寝ていた。
見ただけで体調の悪さがわかる。
お顔も唇も真っ青で、呼吸も非常に浅い。
息を吸えてないんじゃないか、と思うくらいだ。
苦しんでいる表情から、私の胸まで痛くなった。
ベッドの周りには医術師や薬師のような格好をした人たちがいる。
みな、緊張した面持ちで私を見ていた。
どうやら、すでに話は伝わっているようだ。
「王様……今、治しますからね」
気持ちを落ち着けながらベッドの傍に行く。
いくら強力な毒でも、所詮はただの毒。
私のスキルで無毒化できるはずよ。
王様の胸に手を当て魔力を込める。
「【毒消し】!」
いつものように、私の手が白く光る。
何度も私を助けてくれた優しくも力強い光。
今度は王様を助けて……!
一生懸命魔力を込める。
魔力を込めて、何分も何時間も経った気がする……いや、実際には数十秒だったかもしれない……。
そして、その瞬間は突然に訪れた。
「はぁ……はぁ……がはっ! げほっ、ごほっ! はぁはぁ、ワシはどうなったんじゃ……? ……生きているのか?」
王様は咳込みながらガバッと起き上がり、何度も不思議そうに胸をさすっていた。
慌てて周りの人たちが駆け寄る。
「「国王陛下! ご無事ですか! 体調は問題ありませんか!?」」
「ああ、地獄のような苦しみに襲われておったが、キレイサッパリ消えてしもうた。不思議なこともあるもんじゃの……おや? こちらのお嬢さんは?」
「「そちらはレベッカ・サンデイズ嬢です! レベッカ嬢が類まれな【毒消し】スキルで国王陛下を解毒してくれました!」」
「なんと!」
王様はガシッと私の手を握り、笑顔でお礼を言ってくれた。
「そなたがレベッカ嬢だったか! 会えて嬉しいぞよ! ありがとう……ありがとう、レベッカ嬢! 貴殿は命の恩人じゃ!」
「は、はい、私も治せて良かったです」
王様の言葉を皮切りに、室内のみなさんがいっせいに叫ぶ。
「「お…………王様が回復されたぞー!」」
歓喜の叫び声が轟き、何人もの衛兵さんがなだれ込んできた。
「王様が治ったって本当ですか!? ああ、ベッドに起き上がられている! 顔色も良い!」
「レベッカ嬢! あなたならどうにかしてくださると思いました!」
「ありがとうございます、レベッカ嬢! あなたはこの国を救ってくださったのです!」
静寂とは打って変わった室内で、私とネッちゃんと顔を見合わせる。
無事、王様が元気になってくれて良かった。
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