第28話:“ドキドキノコとヴェレーノ牛のホットサンド”
「いらっしゃいませ。空いているお席にどうぞ。窓際だと森が見えてキレイですよ」
『はぁ……』
「別に森なんか見えても嬉しくないっつーの」
狼男さんと赤ずきんさんは、気だるそうに窓際の席に着いた。
また印象深いお客さんたちだ。
とりあえず、お水とメニューを持っていく。
「ご注文はいかがいたしましょうか」
「別にぃ~」
赤ずきんさんは、とにかくだるそうだ。
全然こっちを見ないし、メモ帳を取り出して何かを描いている。
体調が悪いわけではないらしいので、そこは安心できた。
とはいえ、“カフェ・アンチドート”に“別にぃ~”というメニューはない。
「し、しかし、ご注文をいただけないと何を出せばいいのかわからず……」
「なんでもいいしぃ~」
こ、怖い。
怒鳴られたり殴られるようなことはないのだけど、なぜかとても怖い。
今までにないタイプのお客さんだ。
静かに冷や汗をかいていると、狼男さんが助け舟を出してくれた。
『ほ、ほらっ、店員さんも困っているからっ……! お料理は軽い食事がいいです。できたら刺激のある物が』
「軽くて刺激のあるお料理ですね……でしたら、ピリ辛のホットサンドなどはいかがでしょうか」
『それでお願いします』
「ウチも~」
どうにかメニューを聞けたので、キッチンに戻る。
注文を聞くだけでこんなに疲れるとは思わなかった。
案の定、ロールちゃんは警戒心MAXだ。
「狼男と赤ずきんなんて、特段怪しい組み合わせだよ。昼間なのに変身しているのも怪しい……」
『きっと、ホットサンドは前菜なんだニャ。メインディッシュは赤ずきんで、ペロリと一口で食べてしまうんだニャ』
ネッちゃんは色々と想像を膨らませ、プルプル震えていた。
赤ずきんさんが食べ物だとは思いたくないけどな。
キャンデさんは今朝早くからクエストで不在だ。
本人には悪いけど不在でよかった。
狼男だ! 討伐だ! 冒険者の血が騒ぐ! という展開が容易に予想できる。
「赤ずきんさんが食べられないためにも、おいしいお料理を作らなくちゃね……」
「さっきから、あの人は何をやっているんだろう。怪しい……」
『可憐な乙女の命が救われるか否かは、レベッカの腕にかかっているんだニャ!』
冗談のつもりだったのに、ネッちゃんは本気になってしまった。
真剣な顔でうまいご飯を作れ、と訴えかけてくる。
もちろん、そんなに力強く訴えられなくても、おいしいお料理を私は作る。
私にとって料理は、もはや仕事を通り越して至上命題だ。
至上命題なのだけど、改めて気合を入れ直しましょう。
冷静に調理すべし。
そう、冷静に。
もう何度目の決心かわからないけど、強く強く念じた。
自分に言い聞かせるように。
よし…………いける!
「まーずは<トキシン小麦>でパン焼くよー! こねこねこねこね! こねりんがる!」
「そういえば、レベッカが落ち着いて料理できたことないね……」
『これもまた昔からの光景なんだニャ……』
ロールちゃんもネッちゃんも声が小さいなぁ。
パンを練る音で何も聞こえないよぉ。
「お湯を混ぜて~! 混ぜ合わせ~! むっちり、ぷにぷに、しっとりパ~ン!」
「う、歌……?」
『無論、レベッカ自作の歌だニャ……』
心の中でパン作りの歌を歌いながら、小麦粉をこねる。
徐々にまとまり生地ができてきた。
表面はつるんつるん、ぽんっと叩くとぷるんと揺れる生地……。
ああ、素晴らしい。
ちぎって丸めて、型にイン。
<トキシン小麦>は従来の小麦より熱がよく伝わる。
だから、かまどで十分も焼けばほかほかのパンになってしまうのだ。
「その間にぃ! 具材の用意ぃ! <ヴェレーノ牛>のローストと<ドキドキノコ>のパリパリ炒めぇ! まずはお肉から焼いてくよぉ!」
「見てると楽しくなっちゃうのはどうしてだろー! うわーい、お肉が焼かれるよー!」
『ネッちゃんも楽しくってしょうがないニャー!』
フライパンに<ヴェレーノ牛>のスライスを入れる。
ジュゥウ! っという心地良い音と、芳ばしい香りが漂った。
お肉から迸る油がパチパチ跳ねる。
焼いているだけでお腹が空くねぇ。
「片面が焼けたところで<ドキドキノコ>を投入ぅ! キノコの風味を味わい尽くせぇ! お肉の味も染み込むぞぉ!」
「森の香りが良い匂い~!」
『お肉とキノコは相性抜群に決まっているニャー!』
<ヴェレーノ牛>の油でキノコを一緒に炒める。
からめるように炒めて、互いに素材を活かし合うのだ。
火が通ったらお皿に上げて余熱を取ろうね。
「お次は<ホットマト>を切ってくよ~! サクサクサク、トントントン! うす~く、うす~く、スライスにぃ!」
「切っただけで口の中が辛くなってきた~! これはいったいどういうこと~!」
『なんだかネッちゃんは喉が渇いてきたニャー!』
<ホットマト>は切るだけで実の辛い成分が噴き出してくる。
思った通り、充分に熟していたようだ。
これは期待できますぞ~。
かまどの状態をチェック。
<トキシン小麦>のパンはふっくらと焼き上がっていた。
「いい感じに焼き上がっているぅ! 少し冷ましてから切るよぉ! 最後の仕上げは<毒ゼンマイ>ぃ! こいつは生のまま食べられるぅ~! しっかり洗ってパンにイン!」
「もうじき完成だー! こんなおいしそうなホットサンドは見たことないー!」
『ネッちゃんは冷ましてからいただくニャー!』
型から食パンみたいに四角いパンを取り出す。
耳の部分はカット。
<ヴェレーノ牛>、<ドキドキノコ>、<ホットマト>、<毒ゼンマイ>の順番に食材を乗せていく。
対角線上にサクッと切る。
例のごとく、みんなで味見。
『「うぅ~ん、超美味ハイパーデリシャ~ス(ニャ)!」』
うむ、今回も美味しくできた。
食堂に運ぶ。
「お待たせいたしました。“<ドキドキノコ>と<ヴェレーノ牛>のホットサンド”でございます」
「マジうるさいんだけど」
「……申し訳ございません」
ドストレートなご感想をいただいてしまった。
本当に申し訳ない。
もちろんのこと、ロールちゃんとネッちゃんは壁際で待機。
……ずるくない?
素知らぬ顔で佇んでいるけど、二人とも騒ぎまくってたじゃん。
「ウチ、うるさいのマジヤバなんだけど?」
「……はい」
『ま、まぁ、賑やかで良いお店じゃないか』
マ、マジヤバってなんだ?
いや、良くない評価なのはわかる。
狼男さん優しいな。
というか、この二人はどういう関係性なんだろう。
さりげなく様子を伺うも、はっきりとした答えはわからなかった。
「こ、こちらがホットサンドでございます」
『赤ずきん、見てごらん。美味しそうだよ』
「ふ~ん、意外とオシャレじゃ~ん」
お料理を出すと、赤ずきんさんはようやくメモ帳から目を離してくれた。
入店時よりはリアクションが上がってホッとする。
「あ、温かいうちにどうぞ」
「『じゃあ、いただきま~す』」
狼男さんと赤ずきんさんは、あ~んとホットサンドを口に運ぶ。
ひいい、お口に合ってくれ~い!
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