女王への謁見
※流血、暴力表現などあり
「顔を上げなさい、ウィルマ。久しぶりなのだから、もっと良く見せてちょうだい。今さらこの場に、儀礼など必要ないでしょう」
王城の一室、謁見の間で女王イリスは厳かに娘へそう話しかけた。多くの人々を率いるに相応しい、静かに威厳のある声である。
「いいえ、イリス女王陛下。私は再会を懐かしむ為にここへ来たのではございません。いつまで私の意見を子どもの我が儘とするおつもりでしょうか。これは親子の喧嘩などではございませんよ」
凛と張ったヴィルヘルミナの発言もまた、上に立つ者の声色だ。互いに胸の内の見えない微笑みを浮かべている。親子は、彼女らの味方をする多くの貴族が列席する中で、毅然と向き合っていた。
「なら聞かせてもらおうかしら、ヴィルヘルミナ。あなたがその竜を連れて来た意味を」
宣言通り、一日で対話の場を作り上げた王女は、キッと顎を上げ上段の母親へ進言を始めた。要約すればそれは、竜の恩恵を得ずにこの国を豊かにしようという話だ。
ルーイは、フェルディナントと共に彼女らから数歩後ろの位置でその対話を眺めていた。
国政には疎いので詳しくは分からないが、話し合いの優勢は女王イリスにあるようだ。元より勝ち目の少ない戦いである。対話で解決するならばそれで良し。それが無理ならば強引な手法を取るだけだ。
と、ぼんやりとは理解していた。自ら望んで来た場所だということも、分かっている。分かっているが、気持ちは周囲の傍観者に近かった。
事があまりにも大き過ぎるのだ。この場に居るだけでも、明らかに自分の許容量を越えている。けれどアルノルトだけをこの場に行かせるわけにもいかなかった。離れたら、きっと後悔するのだろう。盗み見た師の穏やかな笑みに、心臓が冷えるような思いを抱え続けていた。
なら、お前がやるしかないだろう。耳元で囁くのはあの夜の自分だ。もう一線は越えてるんだ。今さらひとり増えたところで何が変わると、煮え切らない己を叱咤した。
それでもやはり恐ろしいのだと怯むのは、冷たくなった肌を知ってしまったからだろう。どっちつかずの心は、うまく呼吸も出来ないままに立ち尽くしていた。
「あら、面白い集まりをしているのね」
足音も高らかに黒髪の女性が割り込んできたのは、そろそろ負けを認めざるを得ないといった雰囲気が漂ってきた頃のことである。
――あぁ、この、魔力は。
まっすぐに玉座へと近寄り体を凭れさせたその人は、場の空気を汲む素振りも見せず傍若無人に振る舞った。咎める者もいないということは、それが許されているのだろう。
フェルディナントが高く舌を鳴らした。
「お久しぶりね、フェルディにメヒティルト。アルノルトもご機嫌よう。それから……竜の子かしら? 初めまして、古代竜のヘルガよ」
「お久しぶりねヘルガ。申し訳ないけれど、今は女王陛下との謁見中よ、席を外してもらえないかしら」
「嫌よ、あなたの話はつまらないもの。ねぇそれよりイリス、きっとあの子がそうなのよ」
王女が咎めようとどこ吹く風。まるで無邪気な子どものように振る舞う細い指先は、真っ直ぐにルーイを指差した。自然と周囲の視線も向けられる。けれどそんなこと、何も気にはならなかった。楽しげに笑む青い瞳が持つ魔力に、全身の血が沸き立ったのだ。
――あぁ、この、魔力だ。
思い出したのは、心臓を貫かれた瞬間のヴェルナーの姿である。胃から這い上がりそうになる何かを押さえた。足がぐらつく。
「この子がなにか?」
大きく揺らいだ魔力を隠すようにアルノルトは目の前に立ち塞がった。
「関係ない奴まで巻き込むな」
フェルディナントには軽く頭を小突かれ、諌められる。落ち着けと言うことだろう。浅い呼吸を繰り返し、魔力を収める。そっと触れた額は、まだ人と同じ形をしていた。
「ねぇその子、ハイジャの子でしょう。それにあなたといるってことは、何と言ったかしら。そう、竜のお手付き。人でありながら、竜に近い魔力を持って生まれた人間なんでしょう。少し前に似たようなのを捕まえて実験をしていたんだけどね、どこかの誰かに壊されてしまったから、新しいの探してたのよ」
楽しげにそう話す、彼女の口振りに背筋がぞっとする。まるでお気に入りだった玩具の話でもしているように思えたのだ。
「それは……随分と、物々しい話だね」
アルノルトもまた、彼女の話に思うことがあったのだろう。穏やかな声音に反して揺れた魔力は、それだけで周囲の人間を一歩後ろへと下がらせた。
その様子に、舌なめずりをしたヘルガはまだ満足してないらしい。
「実は私たち前から欲しかったのよ。竜の力を持った人間が。最初から知ってれば手間が省けたんだけどね。残念ながらそんな人間がもういるなんて知らなかったから。いっぱい実験して、全部失敗しちゃった」
「そんなもの、作ってどうするつもりだ」
眉をひそめ、低い声で尋ねたフェルディナントに向けるのは満面の笑みである。
「そうね、第一は兵器。あとは人工的に魔石を増やす道具にもなれば最高。そうそう、アルノルト。あなたの角じゃ、永久には魔石が採れなかったのよ」
「兵器とは、どういうことですか女王陛下」
会話を遮り、声を張り上げた王女の声は僅かに震えていた。自国を含め、今周囲で戦争を起こしている国などないのだから当然の反応だろう。ここ暫くは友好関係を築いているのだから尚更だ。
どこかつまらなそうに応じた女王も、もちろんそんなことは知っているだろう。なのに、答えは違った。
「そんなに慌てた声を出すことじゃないでしょう。簡単な話よ。国を富ませるなら、人を、土地を増やすのが一番早い。その為には、他国よりも優れた兵器がいる。それだけよ」
「隣国に攻め入ろうとお考えということですか。そんな大それた事をする為の大義名分があるとは思えませんが」
「侵略に、意味が必要?」
「多くの民が命を落とすのですよ!」
ヴィルヘルミナは、全身を震わせそう叫んだ。
「分からない子ね。そうならない為に、竜人を作ろうとしているんじゃない。まさに竜の恩恵よ」
その姿に、ケタケタと冷笑したヘルガの演述には言葉を失った。やはりそれを咎める者もいないのだから狂っている。
だって、ここにいるのは、この国を動かす大人たちのはずなのだ。なのに、何を当然のように言っているのだろうか。
ずっと、森で過ごしてきた自分でも分かることじゃないか。彼らに分からないはずがない。人を兵器にすることも、他国への侵略も。それがどれ程馬鹿げたことなのか、きっと小さな子どもだって分かる。こんなもの、どう考えても愚策だ。――しかもそれを、竜の恩恵と呼ぶのか。
あまりにも、馬鹿馬鹿しい。彼女らの会話に、ルーイは心が冷めていくのを感じていた。
その隣で静かに魔力を高めていたのは、フェルディナントである。
「フェルディ?」
呼び掛ければ、青色の瞳が笑みを浮かべた。
「よく見ておけよ、ルーイ。俺がどうやってあの女を殺すのかを」
そうしてどこまでも冷静に、凪いだ口調は彼女に問いかけたのだ。
「ヘルガ、以前お前にした忠告は覚えているか?」
魔術の使用者を制限されたこの場で、術式を編むのは古代竜だからこその力技だろう。
「さぁ何だったかしら」
現れた剣は、美しく装飾のなされた彼の国の王からの授かり物。
「人に紛れて生きるのならば、自ら争いを起こすな。争いを先導することもしてはいけない。これは、我ら竜の存在価値を守る為の決まりだと、そう言ってあったはずだ」
「なにそれツマンナイ。平和なんて大っ嫌いよ。って私、たしかその時も言わなかったかしら?」
「竜と人を争わせるつもりか」
鞘から抜き払われたそれに、ヘルガは高らかに笑声を上げる。
「そうなったら、万々歳だわ!」
「そうか、分かった」
静かに頷いたフェルディナントの動きは速かった。一飛びでヘルガの目の前へと移動してそのまま、手にした剣で彼女の胸を貫いたのだ。あまりに唐突な展開に、誰もが息を飲んで彼らを見つめた。
「いつまでも、親父さまがお前の蛮行を許すと思うなよ。必要とあれば殺せと命ぜられている」
「ふざけんじゃないわよ、クソやろう。誰があんたみたいなヒヨコに殺されるものですか」
血反吐を吐きなお笑う、ヘルガはその額に角を現していた。二頭の竜の対峙だ。溢れ出る魔力だけで人間など簡単に怪我を負うだろう。殺伐とした空気を、メヒティルトは軽やかに切り裂いたのだった。
「城を囲っている魔法障壁に、二人分の穴を作りました。どうぞ続きは外でお願いします」
「あぁ、助かる」
言った直後、彼らの魔力は頭上高くへと転移した。同時に聞こえてきたのは竜の咆哮だ。それもやがて遠くなってゆく。室内は、緊迫した静けさを取り戻していた。
「騒がしいのが、消えたわね。どちらかの死骸が落ちたら回収しておきなさい。竜はいい素材になる。……それで、ウィルマ。竜がいなくともこの国は強い、だったかしら」
その静寂の中で、何事も無かったかのように発語した女王は、泰然とした笑みを浮かべ空を指差した。
「でも見てのとおりよ。竜がいれば、この国はもっと強くなる」
「それは、何の為の強さでしょうか」
比べて、怒りに声を震わせながら申し述べる王女の後ろ姿は、負け戦を匂わせた。
「私たちが、豊かに暮らす為の強さよ」
「私たちとは、誰のことです?」
それでも食らいつく彼女を無力だとは思わない。
「私たち王候貴族以外に、誰がいるのかしら」
「今既に、食糧難に苦しむ臣民がいるのですよ」
けれどこれ以上。彼女に期待を持てる気もしなかった。それは、この国に対しても同じこと。冷め凍てついた心臓は、その奥に暗く重い感情を抱えていた。
「ここら辺では余っているくらいよ。貴女が手配して分けて差し上げたら?」
「恐れながら女王陛下!」
「もういいわ。同じ話の繰り返しよ。それよりも、そこの竜」
案の定、娘を無下にあしらった女王は、話の矛先をアルノルトへと移してしまった。こうなってしまえば本当に、対話での解決など叶いはしないだろう。スカートの上に重ねられた手を握り締める、王女の姿からルーイは目を逸らした。
「その竜の子はどうやって作ったの? あなたが人間の女を孕ませたのかしら?」
クスクスと忍び笑う貴族らの様子からも分かることだが、やはり彼らにとって竜はもう、守り神ではないのだろう。その理解に、またひとつ、黒液が心の内に雨垂れた。
「あまり、この子の両親を侮辱するようなことは言わないでほしいな。この子の母親は命をかけてこの子を生み、この子の父親は苦渋の思いでこの子を手放したんだ。私はもう、そんな親子を生み出したくはない」
耳の奥から心臓が鳴る音が聞こえる。
「小娘の戯れ言ではなく、貴方の意思でこの国を出ようと言うの?」
あぁ、こんな奴らの為に。
「そうだよ。だから、心臓を取り戻しに来た」
「ほう、どうやって」
「あなたを、殺して」
こんな奴らの為に、ヴェルナーは死んだと言うのか。こんな奴らの為に、ビアンカは愛する人を失ったのか。こんな奴の為に――アルノルトは、自ら命を投げ出そうとしているのか。
考えれば、考えるほどに馬鹿馬鹿しく、あまりに愚かしい。あの女の心臓に、師を縛り付ける術式が施されていることすら、もう許せそうになかった。
しかし決め手となったのは、この直後の女王の発言。
「魔道具風情が、生意気な。ならばその手足切り落として、二度と自由には出来なくしてやろう。あぁ、私と番ってみるのもいい。王族の血を引く竜人ならば、いい旗印になるでしょうからね」
そのあまりにも侮辱的な物言いに、己の内側からプツリと何かが切れる音を聞いたのだった。
――あぁ、殺そう。
それはまるであの夜の繰り返しのように。ただ激情のまま飛びかからんと魔力を編み出した。その、刹那。
「だめだよ、ルーイ」
ルーイをアルノルトが押し留めた。なぜ、なぜ、なぜ! 言葉にならない思いは魔力として溢れだす。なれど振り払おうとした手はびくともせず、そのまま後ろへと引きずられていく。離せと、喚き声が舌に乗る直前。頭上に現れた、複数の魔方陣に息を飲み込んだ。
「さぁ拘束せよ。ついでに、その竜の子に本物の竜の血を混ぜてみましょうか。ただの人間には耐えられなかったが、うまくいけばより竜に近い人間が出来るかもしれない」
女王の号令に、王宮魔道士たちの束縛魔法が放たれたのだ。
あのまま飛び出していたらどうなっていたことか。己の視界の狭さに、目を伏せた。
「アルノルト、あなたは手を出したらダメよ。何がツィリィの術式に引っ掛かるか分からないんだから」
王女派全員を囲った障壁を瞬時に展開した、メヒティルトの技量はさすがのものだろう。叫ぶように会話する二人のやり取りを半分聞き流しながら息を整える。
「大丈夫、分かってる。それより、こんな状況でもまだツィリィの術式を壊す気にはならない?」
「あの子を愛していたのが貴方だけだなんて思わないで! 馬鹿みたいでしょうけど、それでも私には壊せないのよ」
それでも波打つ心は更に羨望と苛立ちをかき混ぜ、魔力を乱れさせていく。強く噛み締めた唇から血が滲んでいた。
「馬鹿だとは思わないよ。それから、ルーイはもう少し落ち着きなさい。魔力が溢れてる。ここには王女殿下もいるんだよ」
「やってる、けど」
「怒りに任せて、人を殺しちゃあいけないよ」
唇に触れた親指は噛み傷を癒したのだろう。今度こそ振り払う。その手に笑った師の、余裕のある姿に八つ当たりは投げつけられたのだった。
「殺さなきゃ殺される。そう言ったのはあなたじゃないですか」
「言ったよ。でも、殺すなら、冷静に理性を持って殺しなさい。感情に任せて殺したら獣と変わりないでしょう」
「そんなこと! どうせもう、僕は人じゃあない」
だからもうどうでもいいのだと、喚いた諦念をアルノルトは否定した。
「いいや。人だよ、ルーイ。お前は、人だ」
その言葉に、見開いた両目に雫が浮んだ。あの夜からずっと抱えていた不安がその一言に呆気なく溶けたのだ。そんなことしている暇はないというのに、泣きそうになる。息を、深く吐き出した。
そうして眼裏に浮かんだのは、フェルディナントの凪いだ瞳である。よく、見ておけよと言ったあの言葉も、今考えればそういった意味が込められていたのだろう。
少し冷静さが戻った。その頭で、なら本当に女王を殺す以外の道はないのか、考えてみた。
けれどどれ程考えようと結局は、殺さなければ殺される、その思いに行き着いた。
例えばフェルディナントたちが去った際の女王の言葉だ。ヘルガが死のうが構う様子もなく、あまつさえその亡骸さえ利用しようとする彼女はきっと、アルノルトが死のうが気にはしないだろう。
「竜よ、お前の心臓が私の手の内にあることを忘れるなよ」
抵抗するなら殺すと同義の恫喝を、ためらいもなく口にしてみせる。そんな者のために、彼が命を賭す意味も欠片も見当たらない。なのに。
「あぁ、これが私たちの選んだ結果か」
左胸を握り締めそう囁く当の本人が、自らその命を捨てる覚悟をしてしまっているのだ。
彼に死んでほしくない。その思いに突き動かされ今ここにいるというのに、それじゃあ意味がないだろう。
だから、殺される前に、殺さなければならないのだと。今度はルーイが、その腕を引き留めた。
「なら人として、僕があの人を殺します」
その決意を、悲しげな顔をしたその人は許さなかった。
「ルーイ、だめだよ。そんなこと、お前がする必要はない」
「いいえ、ルトさま。この国に、あなたが命を賭す意味こそありません。これ以上あなたの自由を奪う権利だって、この国にはない」
「だとしても、させたくない」
「そう言うのなら、先に僕を殺してください。殺せないのなら、自害します」
どうせ、と続けた言葉は図星だったのだろう。困ったように笑う師の顔に苦笑した。
「どうせ、ツィリィさまの元へ行けるならそれでもいいと思っていたんでしょう。でも、もう会えない人より、生きた僕を選んでください。この国を、一緒に出ましょう」
ね、アルノルトさま。大好きな金色の瞳に、目を細めて告げる。
「――この国に、竜なんてもういらない」
その、静かな決別に、誰よりも早く決断を下したのはヴィルヘルミナであった。
「私は今日この場に、協力を仰いだ貴族らと共に女王陛下への謁見に来たのです。そこへ、竜が現れた。その結果、女王陛下は亡くなりました。竜は豊かさの元であり、災いの元でもあります。そんな人の手に負えないものを、どうやって防ぎましょう」
その毅然とした姿に、金目を揺らし、迷いを見せていたアルノルトもまた白旗を上げたようだ。
「分かった。じゃあルーイ、今から三つ数を数えたら私がこの王宮にかけられた術式を壊すから。そしたら後は、好きに動きなさい」
「壊すって、また簡単に言ってくれるわね。これ作るのもけっこう大変なのよ!」
「怒らないでよ、壊すなら解くより簡単ってだけだから」
「これだから竜は」
高く鳴らされたメヒティルトの舌打ちには、思わず喉の奥を震わせた。集中しなさいと嗜めるアルノルトの柔らかな声に、魔力を高めていく。見つめる先はただひとり。玉座に座る女王と視線を合わせた。
「さぁ行くよ。いち、にの、さん」
合図と同時、辺りからは硝子が砕けたような音が鳴り響く。音につられ上を見上げた女王の目前までは、移転魔法でひと跳び。飾り気のない、銀の剣を手元に編み上げた。
見開いた深緑の瞳は何を思っていたのだろうか。ふっと笑んだその表情に、今さら迷うこともない。
「あなたの行く先が、どうか地獄でありますように」
切っ先が、女王の心臓を貫いた。
そうして少し触れただけでも分かる。なるほど。それは、美しい文様だった。けれど解呪など試みもしない。溢れる魔力を注いで、その全てを破壊した。
剣を抜き取り、飛び散った色は赤。きっと、額から角も生えているだろう。全身を血で濡らした姿で振り返った先では、高い衣服で着飾った大人たちが呆然とこちらを見上げていた。
そのうちの、誰かが呟く。「竜だ」「竜が災いに転じた」とさざ波のように広がるその声は、どれもこれも怯えていた。
「イリス女王陛下は崩御なされました」
そこに、凛と響いたのは女王の声。
「長い眠りから覚めた竜ももう居ません。ですが、竜などいなくとも、この国は豊かで強い国となるでしょう。それを証明するために、どうか力を貸してはくれませんか」
この状況を上手く使った演説は大したものだろう。ヴィルヘルミナの見つめた先で、人々は順に膝を折ってゆく。
もう誰も竜を求めようとはしない。この国の新たな始まりの姿に、ルーイはひとり、王宮の天井の向こうに広がる青空を仰ぎ見ていた。




