エピローグ
先の女王の喪もまだ明けない頃、ハイジャの森に三人の人影が立っていた。
「ルーイ、本当に一緒に来なくていいの? これまで通り、一緒に暮らしていこう」
ひとりはアルノルト。心臓を取り戻したその額には、立派な角が四本生えていた。
「安心しろルーイ、こいつの世話には俺も慣れてる」
もうひとりはフェルディナント。ヘルガを殺し損ねたと悔しげに帰ってきた彼はあちこち傷だらけである。
「ディナじゃあ髪を編めないでしょう」
二人のやり取りにクスクスと笑ったのはルーイ。旅支度をすっかりと済ませたその顔は、ずいぶんと大人びたものになっていた。
「ごめんなさい、ルトさま。でも僕は、自分の足で、行きたい所へ行こうと思います」
その決意の固さは揺らぎない。彼の姿に目を細めたアルノルトは、ため息をひとつ吐き出し頷いた。
「分かった。でもたまには、私の所にも顔を見せに来ておくれ」
はい、と返事は朗らかに。でもその前にと続けたルーイに竜は首を傾げた。
「これから旅へ向かう愛弟子に、加護をくれはしませんか?」
そのおどけた口振りに、まあるく輝いた金色はくしゃりと細まった。それからアルノルトは小さな子どものようにルーイを引き寄せ、額にキスをする。
「お前の行く先に幸多からんことを」
そう心からの、願いを込めて。
「ルトさまも、どうかお元気で」
その日、その国からは二頭の竜が飛び立った。別れを惜しむように鳴いたその声に空を見上げた者は多いだろう。しかし竜が見つめる先はただひとり。
寂しげなその声にクスリと笑った青年は、新たな道へとその一歩目を踏み出していた。
ハイジャの森の奥深く。
そこには竜が住んでいた。
深く、深く眠り続けた。
竜がそこに住んでいた。
この国のよき隣人。
決して留めてはいけないよ。
竜は繁栄を齎すもの。
その逆もまた然り。




