番外編、さがしもの 其の一
誘拐騒動からはや数日……。屯所に帰ってきた私たちは、前よりそこそこ増えた依頼をぼちぼち解決し、ふたりと一匹でそれなりに頑張っていたところだった。
これは、ようやくこの世界――、しゃんばらでの私の日常が戻ってきた頃の話である。
*
寄席、茶屋、芝居小屋など、いろんな店が連なる紫の傘の下。
「…………」
そこには、見知った二人組が並んで腰かけていた。いつもなら別に、見かけたとしても気づかないふりをするところだけど、今日はそういうわけにもいかないので、私は彼らの前でピタリと足を止めるほかなかった。
やあ虎美ちゃん、と、こちらに気づいたスーツがにこやかに片手をあげた。
「良かったら君もこっちでみたらし団子、食べていかないかい? いま巷で美味しいって評判なんだってよ。……ああもちろん、雄心くんのおごりでね」
「ほざけ、海外かぶれ。先刻も言ったはずだが機関員として大切なお役目を仰せつかっている以上、戸外でいたずらに婦人と会話するなど言語道断。そもそも貴様はもう少し任務中であることの自覚をだな……」くどくど言いながら、すかさず私をキッと睨む軍服。
「えぇー? 雄心くんってば、口を開けばガミガミガミガミ、姑みたい」
「何を……っ、」
誘拐騒動からはや数日。変わったことといえば、こんなふうにひとりで外を出歩いている時に、ほとんどの確率でスーツたちと出くわすようになったことくらいか。沖田さんの管理下にあるとはいえ、私やコタローが灯籠機関の要観察対象になっているというのはどうやら事実のようだった。
「雄心くんは相変わらずこんな調子だけれど――女の子が遠慮なんかしなくていんだからね。ハイ、あーん♡」
できたてのみたらし団子が、私の口元へと近付けられる。
まだほこほこと湯気が立ち上っている甘く香ばしいしょうゆの香りにつられ、ついよだれが出そうになる。
でも、前回みたいに毒や睡眠薬の類が入っていたらそれこそシャレにならないので、食べたい気持ちをグッとこらえ…………丁重にお断りさせていただいた。
瞬時に残念そうな顔を浮かべるスーツ――この間、まったく興味はないけれど、会話の流れで彼らのフルネームを聞いたところによると、役者じみててキザったらしいスーツのほうは柊 透夜、歩く正義感こと軍服のほうは、雄心 誉というらしい。
いや本当に、冗談抜きでまったく興味はないけれど。今後もしまた何かあった時のために、ある程度の弱みを握っておきたいから、とりあえず情報収集したまでにすぎないんだけど。
軍服あらため雄心誉が、絵に描いたような不遜な態度で腕を組む。
「……ふん。いつもは陰でこそこそしているくせに、貴様のほうから出向いてくるなんて珍しいじゃないか狩野虎美。頭でもぶったか?」
「こら雄心くん。そんな冷たいコト言わない」
「……あー。実は柊さん、と雄心さんに、折り入ってお願いがありまして」
一体なにを言い出すんだと、ふたりの視線が一斉に私のほうに集まる。
……いや私だって、あなた方とはできればあんまり関わり合いになりたくないんですよ? この間の誘拐騒動の主犯だってことはもちろん、沖田さんとはまた違った独特の空気感があってなんとなく苦手だし。
それでも、こうやってわざわざ話しかけているのは――。
「このあたりで、小さな男の子を見かけませんでしたか?」
何を隠そう、ちょっと捜査に協力してほしかったからである。




