49 変なサイモン
グレート新聞社。
三大新聞社に数えられるほど影響力があり、私も以前にラジオの宣伝をして欲しいと頼みに行ったことがある。
結果、新聞には私やアデルたちのことが悪く書かれただけであった。
しかし、それはビリアン公爵家のノーマンという男が指示を出していただけであった。そのことが判明した後、ルークが権力を存分に使って圧力をかけてくれたお陰で、ラジオの宣伝もしてくれたし、それなりに名誉挽回は出来たと思う。私の対応をした編集者も別の部署に異動になり、私の対応をしてくれるのは別の人だった。
「ならば、問題ないのでは?」
「それが、問題ありありなのよ」
実は、等の問題の編集者の異動先は、文芸出版部だったのだ。万が一もないだろうが、もしもソイツと鉢合わせてしまったら‥‥
「気まづいのよね‥‥」
私がはあとため息をつくと、テラとアデルは顔を見合わせた。
「気まづいだけで済めばいいのですが‥‥」
「まったく同感です」
テラとアデルはやれやれと首を横に振る。二人の息がぴったりで少しだけ面白い。それを指摘すると、テラはものすごく嫌な顔をしそうだから言わないけれど。
「うーん。でも、このままグレート社だけ行かないのも問題だし、連絡入れてみるわ」
「僕もついて行きますよ」
「ありがとう」
「私もついて行きたいのですが‥‥」
「テラは屋敷内の仕事が多いでしょう?」
だから大丈夫と告げると、彼女は渋々ながらも頷く。テラもアデルも過保護過ぎるのだ。
「よし。じゃあ、頑張るわ!」
私が手紙を出すとすぐに返事がきた。日程も決定して、
やはり、向こうとしては気まづい思いがあるらしく、丁寧に素早く決定することができた。あとは、当日の交渉次第。
だったのだがー‥‥
「なーんで、俺がお前と行かなきゃいけないんだよ」
「仕方ないでしょう。アデルが来れないのだから」
グレート新聞社へ行く当日。私はサイモンと馬車に乗っていた。アデルではなく、サイモンと。
何故、サイモンが来ることになったかと言うと、アデルにビリアン家から招待状が届いたのだ。
新聞社へ行く日が、丁度ルークの誕生日であり、そして、ロイドから久しぶりに誕生日を祝わないかと誘われていたのだ。アデルはいい大人が、と断ろうとしていたけれど、私はそれを阻止した。
だって、仲直りしてから初めて3人で会う機会なのだ。
アデルは私から離れようとしないが、公爵家との確執が無くなった今、私の庇護はいらない筈だ。
私のそばにいるのは、義務とか責務とかそれだけではないだろうけれど。それでも、恩を感じて離れづらくなっているのは確かだと思う。
もちろん、声優事業のこともあるし、彼に離れて欲しい訳ではない。
離れて欲しいわけではないが、自由になって欲しいとは思っている。
うーん。我ながら、なかなかのわがまま。
とは言っても、アデルもなかなか引いてくれなかった。
『トラブル自動製造機を一人で行かせる訳には‥‥』
と、アデルはサイモンのことを心配しているようだった。確かに短気かもしれないけれど、そこまで言うほどではないと思う。ということを理路整然と伝えたのに、ため息をつかれた。
なので、新聞社に行く日は別日にすると嘘をついた。本当ですね、と何度も念を押されたけれど、どうにか騙すことができたと思う。
精神年齢は私の方が上だからね。何とかなったのだ。
「はあ。本当に別日にすればよかったじゃねえか」
「ダメよ。なるべくなら、あっちに貸しを作りたくないの」
これは戦だ。相手は、大手の会社。前回、問答無用で追い出されたことも考えると、弱みは見せられない。それに、私にはどうしてもラジオで使わせてもらいたい作品があった。その為にも、あちらに借りはつくりたくなかった。
こころなしか顔が強ばるのを感じる。そんな私の頬をサイモンはみょーんと引っ張った。
「何するのよ!」
「別に。珍しい顔してるなと思っただけ」
「なに、ブスだって言いたいの?」
私は、サイモンを上目遣いで睨み付ける。すると、サイモンは「ちげーよ」と首を振った。
「というか。俺、お前にブスなんて言ったことねーだろ」
「そうだっけ?」
そう言われれば、そのような気もするが、普段から口喧嘩ばかりで思い出せない。喧嘩の応酬で流れるように言われているような気もする。
「いわねーよ。そういう言葉は駄目だって親父から口酸っぱく言われているからな」
「ああ。伯爵はそういうところ、きちんとされているわよね」
私が頷くと、サイモンは「そうじゃなくて」と言葉を続けた。
「お前、緊張してるのか?」
「そうね‥‥‥」
私は少し考える。
私は今、人気声優さんの出演するイベントチケット予約開始前に、スマホを手にスタンバイしている時並みに緊張している。つまり‥‥
「全然大丈夫よ!」
「‥‥‥‥」
チケットは、時間と運があれば勝ち取れるから!天さえ私に味方さえしてくれれば、どうにでもなるのよ!それに、今日は勝負服も着てきた。この日の為にあらかじめ買っておいた、大きいリボンのあしらわれた赤いワンピースだ。私が可愛い洋服にほくほくしていると、その様子をサイモンが見ていることに気づいた。
「なに?」
「いや。今日の、その格好‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「なによ」
まさか変とか言うんじゃないでしょうね、と私は身構えた。
「‥‥‥‥‥‥い」
「え?」
「な、なんでもねーっ」
「はあ?」
変なサイモン。いつもなら、すぐに罵ってくるのにさ。
次話投稿は日曜日です。明日は番外編を投稿するかもです。




