50 推しに言って欲しい言葉ってあるよね?ね??
グレート社文芸部門。
そう書かれたプレートの前にやって来た。係の人に案内されて、個室に入る。
その部屋は5畳ほどの大きさで、2つの赤いソファに挟まれるようにしてローテーブルが置かれていた。
私とサイモンは隣り合ってソファに座る。こういう時、アデルは私の後ろに立つと言って聞かないので困るが、サイモンはすぐに座ってくれるので楽だ。
「前回もこんな感じの部屋だったのか?」
「いいえ。もっとお粗末だったわ」
「へぇ」
サイモンは興味なさそうに答えるが、その目は不機嫌そうに細められた。私自身も前回は舐められていたことが分かり、気分は良くない。
私たちの言葉数は少なくなる。そして、かなりの時間が経過した。
「まだ来ないのか」
「そうね‥‥」
約束の時間はもう過ぎている筈だ。私は立ち上がって受付に行こうとした。その時、ようやく待合室の扉が開いた。そこから出てきたのは。
以前、私とアデルの対応をしたー‥‥
「どうも〜クリンです」
ボサボサの髪。やる気のない口調。見覚えのある顔。
お前かよ!!!!!
私は思わず声をあげそうになったが、寸でのところで我慢をした。相手は取引先。相手は取引先。
ここで愛想をよくしなければ、いつするのか。
「クリン様。お久しぶりでございます」
「ん?あー、そうですね」
「‥‥‥」
彼はポリポリと頭をかく。私はその姿に眉根一つ動かさない。取引先だから!
「それより、今日は何でしたっけ?」
「はい。ラジオ事業に貴社の文学作品を使わせていただきたく思い、訪問をさせて頂きました」
「ラジオ‥‥?」
「はい」
彼は目線を彷徨わせ、首を傾げる。私と初めて目を合わせて、手を叩いた。そして、私に向かって指をさす。
「ああ!あの時の!!世間知らずの令嬢か!」
「はい。世間知らずで貴方に追い返されて、挙句の果てに新聞で悪く書かれたあの時のケイト・サザンジールです」
サイモンの「うーわ」という呟きが聞こえた。流石にドン引きしているらしい。しかし、目の前の男はこちらの嫌味にびくともしない。
「いやー、あんたのせいであのあと大変だったんですよ?上司には怒られるし、異動にはなるしで」
「‥‥‥」
気まずい表情をするのかと思えば一転、ベラベラと自分のことを話し始めた。
曰く。あの新聞は公爵家の人間に脅されていたと。
曰く。それにも関わらず、異動を強制されたこと。
曰く。それでも自分は優秀だから、この部署で上手くやっていること。
ああ‥‥‥なんて無駄な時間。更に彼は、話の途中で大きな爆弾を投げつけてきた。
「いやでも、お嬢様にとって。あの新聞もいい社会勉強にはなりましたよね?」
こう言われた時、サイモンがいきり立った為、止めるのが大変だった。足の脛を蹴り飛ばしたので、サイモンは痛みで後半の話は聞けていない。
そろそろ本題に入りたい。
「あ、それで。今日は何でしたっけ?文学作品を使いたい?」
「はい」
「それは難しいですね。というか、無理です」
彼はスパッと私の言葉を切った。隣に座るサイモンが肩を揺らす。しかし、私は動揺を見せなかった。
「成功実績もないのに、そんな偉大な文学作品を使うなんて持っての他なんですよ」
その返答は、なんとなく予想していた。この世界では「著作権」の認識が曖昧だ。だから、「作家の許可も取れないのに」という言葉で断られることも視野に入れていた。なので、すぐさま私は別の言葉を投げかけた。
「それなら、女性向けの恋愛小説はどうでしょうか?」
「恋愛?」
はい、と私はうなずいた。女性向けの恋愛小説、つまりロマンス小説のことだ。
私は前世オタクだった関係から、ロマンス小説を読み漁っていた。その中でも、私は特に好きな作家さんがいた。
リリアン・レイバーという作家さんだった。
私は、彼女の小説の「天界姫と王子様」という本が好きだった。元にいた世界の「竹取物語」に似ているのだが、切ない悲恋にキュンキュンとしたのだ。
なによりも、私は。その物語のラストシーンで、ヒーローが天界から戻ってきたヒロインに言う「もう二度と離さない‥‥‥」というセリフが大好きなのだ。
中村さんに言って欲しいよね!!召されるね!!
しかし、それはここで許可を取らなければ始まらない。私は、覚悟を決めて真っ直ぐと彼の目を見た。
「私は、リリアン・レイバー先生の作品を使わせて欲しいと思っていて」
「リリアン・レイバー先生だって?」
しかし。途端にクリンの顔が180度変化した。そして、ハンと鼻を鳴らした。
「リリアン先生は忙しくていらっしゃるんだ」
「そうですが、お時間を取らせることは‥‥」
「それでも、リリアン先生はダメだ」
取りつく島もない態度に、言葉に詰まる。が、私は諦められなかった。それがいけないとは気づかずに、言葉を続けた。
「それなら、別の作者さんでも‥‥」
「ダメだって言ってるだろう」
急に発せられた低音の声に、私の肩は震えた。と同時に、サイモンが立ち上がる。
「おい」
「サ、サイモン」
私が袖を引っ張ることで、彼は言葉をすぐに止めたが、時は既に遅かった。
「とにかく。そのような態度なら、こちらも考えがあるので」
「申し訳‥‥」
彼は私の言葉も聞かず、さっさと出て行ってしまった。急な態度の変化に、しばらく茫然自失としていたが、受付の人がやって来て、私たちは丁寧に出版社から追い出された。
出版社から出て、私は天を仰いだ。
失敗した、と‥‥‥‥‥
テラの本音を書いた番外編を、第一部すぐ後の部分に割り込み投稿致しました。読まなくても物語の本筋を理解するのに問題はありませんが、よろしければ是非。
来週は水曜日に投稿するのが難しそうなので、木曜日と土曜日に投稿しようと思います。よろしくお願いします。




