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48 頑張って



『みんなー!1週間お疲れ様!!今日もはりきって配信するよ!』


そんな中村さんの第一声と共に、1週間に1度の生配信は始まる。それと同時に、視聴者コメント欄には「わこつです!」の文字が次々に現れては消える。

「わこつです」とは、「枠取りお疲れ様です」の略で、配信する際にはファンがこれをコメントするのが定型になっていた。

かくいう私も、「わこつです」の文字を打ち、送信。沢山の人が送信しているため、私のコメントは1秒もたたずに消えていく。が、このファンの間で共有できる一体感がたまらなかったりする。


日曜日。午後9時。明日から「学校だな」「会社だな」という憂鬱な気分の時に、忙しい合間を縫って配信してくれている中村さんは本当に神だと思う。


「みんな、今日も配信に来てくれてありがと!」


こちらこそ、人間界に降り立ってくれてありがとうございます。ありがとうございます。


リクエストに合わせて歌まで歌ってくれた。あまりの美声に昇天しかけたし、中村さんがリアコ製造機すぎた。


「それじゃあ、また会えるのを楽しみにしているよ!明日からまた頑張ってね!」


中村さんは必ず最後にこの言葉をかけてくれる。「がんばってね」と。


この言葉があったから、ずっとずっとめげずに頑張ることが出来ていた。


例え、日々の勉強が辛かろうとも。

例え、親との折り合いが悪かろうとも。

例え、「彼氏いないとか寂しくないの〜?」とクラスの女子にマウント取られようとも。


うるせえ!私には中村さんがおるんじゃけん!!!と謎の広島弁を発動させて、頑張ることができた。


だから、今だって‥‥今だって‥‥‥‥‥‥





「もう無理だ〜〜〜〜!!!」


私は叫んだ。と同時に、窓の外の小鳥がバサバサと飛び立つ音が聞こえた。


私、ケイト・サザンジールは机に突っ伏して、足をバタバタさせた。すると、側に控えていた侍女のテラが「ケイト様」と窘めるような声を出す。なので、私は足を振ることだけはやめた。突っ伏するのは、是非とも許してほしい。


「どうされたのですか?」


しかし、なんだかんだと私に甘いテラは、事情を聞いてくれる。大好き。


「全滅だったのよ!全滅だったの!!」


「何がですか?」


私の部屋に執事のアデルが入ってきた。手にはトレイを持っており、その上に冷たい飲み物が乗っている。トロピカルジュースだった。

私は彼らに何があったのか説明するために口を開いた。


私の名前はケイト・サザンジール。

私は、ある日突然、ここが乙女ゲームの世界であることに気づく。そして、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまっていることにも。


悪役令嬢の結末には、死の断罪しか待っていない。ここで、普通ならきっと、断罪回避のために奮闘するんだと思う。

けれど、根っからの声優オタクだった私は、別の発想に至った。


供給がなくて死にそう‥‥と。


そう思った私は、声優という新しい仕事を作ることを決意した。それから、私の最推し声優・中村さんがCVを務めていた執事のアデルを声優に引き込み。騎士だったサイモンを声優に引き込み。公爵家に誘拐されたり、色々、色々あったが‥‥‥


結果、この世界に元々存在したラジオで、声優をデビューさせることに成功した。



ラジオの評価はそれなりに良かったと思う。ルークとロイドが積極的にラジオの宣伝をしてくれている効果もあって。

アデルが以前仕えていたビリアン公爵家とは色々あったが、2人とは良い関係を築けている。顔の広い2人のお陰で、貴族社会の中でラジオの存在も段々と認められるようになってきてはいる。


しかし、それでも俗物という認識は抜けきっていない。


新聞を読む企画、言語を教える企画、共に順調である。なので、ここで古典文学を音読する企画を提案したのだ。


「うまくいかないわ‥‥」


「今のままでは駄目なのですか?」


「ダメということはないけれど、いいという訳では決してないわ」


新しいことをしなければ、やがて廃れていってしまう。

それに、私がつくりたいのは「声優」だった。決められたものを正確に聞き取りやすく読むのは、本来、アナウンサーの仕事である。

私は、是非とも彼らに役柄の演技をして欲しかった。


けれど、現実はうまくいかない。


私はゆらりと頭を持ち上げて、アデルの方を虚ろな目で見つめた。


「ねえ。アデル‥‥‥嫌だったら言って欲しいんだけど‥‥‥‥」


「いいですよ」


「早いわよ。要求もしていないじゃない」


まったく、イエスマンじゃないんだから。アデルは基本、私に甘過ぎる。私の要求に嫌だと断る時は、必ず私の身に何か危険なことがある時だけだ。


私としては、彼には嫌なことは嫌だと言って欲しいと思っている。


けれど、今回は。今回だけは‥‥‥‥


私はもじもじとアデルを見上げて口を開いた。


「あのね‥‥‥『頑張って』って言って欲しいの」


「はい?」


「そしたら、頑張れる気がするから‥‥」


はあ。言ってしまった。言ってしまった。

前世でも中村さんが「頑張って」と言ってくれたから、頑張ってこれた。

今世は、史上最高の萌え声であるアデルに言ってもらえれば、絶対に頑張れる。死んでもいいくらい。


「嫌ですね」


「え?」


アデルはにっこりきっぱりと答えた。そしてもう一度、さっくりと言った。


「嫌です」


「ど、どうして‥‥?」


「ケイト様は充分、頑張られているということですよ」


アデルはクスリと笑って、私の髪を一房だけ持ち上げる。しかし、テラが注意しようとしたので、すぐに離してしまった。

手持ち無沙汰になった彼の手は代わりに、私の目の前に置いてあった紙を一枚持った。


「それよりも、まだ当たっていない出版社があるようですが」


「‥‥‥‥」


ペラリと、玉砕した出版社にチェックを入れてある紙をこちらに向ける。そう、ひとつだけチェックの入っていない出版社があったのだー‥‥


「グレート社、行ってみましょうか」


そう。彼が提示したのは、私やアデルたちを悪く書いたグレート新聞の出版社であった‥‥‥



お久しぶりです〜!!いよいよ第二部の始まりです!第二部は騎士団編・迷いの森編・イベント編を予定しています。新キャラも出します!


第二部は3日に1度更新というゆっくりなペースで進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。



追加

次の投稿は木曜日になります。あらすじの方にも随時記載していきますのでよろしくお願いします。

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