表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/60

25 決闘




「それでは、ルールを決めましょうか」


訓練場に着いて、アデルは上着を脱ぎ、白い手袋を外した。


「手から剣を離す、もしくは怪我を負わされる方が負け、でよろしいでしょうか?」


「早い話、戦闘不能になった方が負けっつーことな。それでいい」


その言葉に、その場にいたギャラリーは沸いた。アデルが決闘をするということで、うちの騎士団員たちは、その勇姿を見届けようと集まってきた。かなりの人数が集まっていて、人口密度は高い。あれだね。前世の満員電車を思い出すよ。


2人は剣を鞘から抜き、構える。もちろん、うちにある模造刀を使用しているため、大事には至らないようにはなっている。が、体格の良い10代男性が鉄の塊で叩き合うのだ。まともに受けたら、無事ではいられない。

アデルが心配だ。サイモンは、こういった訓練もやってきてるのだろうけど。アデルがいくら強いとはいえ、慣れてないだろうから。それに、普通に戦ったら勝てないと彼は言っていた。


この勝敗は、私にかかっているのだ。


「それでは‥‥‥」


審判が声を上げる。


「始めっ」


カキンッと剣と剣がぶつかり合う。数秒の競り合いののち、サイモンがアデルの剣を弾いた。アデルは、剣を持ち直し、少し距離を取って構え直した。

そして、もう一度剣を振りかぶり、サイモンの頭上に切っ先を落としていく。が、それもサイモンは楽々と止めた。


その後、何度か打ち合いをしたが、アデルが劣勢に見える。やはり、ここは私も力を貸した方がいいだろう。


アデルがチラリと私を見た。私はうなずく。アデルが劣勢。戦局は中盤。予定通りプラン執行!!


「サイモン!!そのまま聞きなさい!」


私は、サイモンに向かって話しかけた。観覧していた人たちの視線がビシバシ刺さってくる。対して、サイモンは私の方をチラリとも見ない。聞こえているとは思うが、知らぬふりをされる。


こんな大勢の前でこんなこと言うのは恥ずかしい。

が、やるしかない。ええい、ままよ!


「私は、貴方の乱暴さの中に潜むその色っぽい声が大好きよ!!」


ガ、コッ。

剣のぶつかり合う音が急に鈍くなった。


そう。アデルの作戦とは、これだった。戦ってる最中にサイモンを誉め殺し、照れさせて油断させよう大作戦。

私の書いたファンレターに基づいて、それの内容をアデルが要約してくれた。それをサイモンに言えばいいだけ。超簡単。


今の私の一言で、一瞬ではあったが、サイモンは明らかに動きを鈍くしていた。

よし、この調子だ。私は大きく息を吸った。


「サイモン、貴方の声は他人を魅了する力が確かにあるわ」


ドゴっ


「あれほど素晴らしいものを持っているのに、それに気づかないなんて、宝の持ち腐れにも程がある!」


バコンッ


「その声で世界中の女性を恋に落としたいとは思わないの?!」


スカッ


よし、いい感じに動揺している。あと少し‥‥アドリブも入れよう。


「詳しく説明すると、『うるせーよ』と言う時の"せ"から"よ"に発音が上がっていく感じが堪らな‥‥」


「うるせえええええええええ」


そこで初めてサイモンが声を上げた。その隙を見逃さず、アデルが大きく剣を振りかぶった。


「チッ」


サイモンはすんでのところで、それを受け止める。

惜しかった。けれど、この調子で誉め殺していけば、勝てるかも!私は嬉々としてアデルの方を見た。のだが‥‥‥

あれ?なんか、怒ってる?こっち見ようとしないし、笑顔が黒いオーラに塗れているよ。よし、見なかったことにしよう。

競り合いをしていた2人だったが、サイモンはそれを弾き、声を上げた。


「くそっなんで、お前は、俺にこだわるんだよ」


私に聞いているらしい。サイモンの剣が苛々とアデルを容赦なく攻撃する。アデルは、防戦一方だ。


「声優は、人を助ける仕事よ」


「はあ?」


私は、静かに告げた。


「直接、命に関わりがあるわけではない。けれど、その声を聞くことで、確かに明日生きる勇気をもらう人がいるの」


カンッと鉄の弾ける音がする。


「貴方は、せっかくもらった命だから、人を助けたいと言った。けれど、それは騎士という職業でしか成し遂げられないことかしら?」


「‥‥‥‥」


「貴方は、語学が好きなのでしょう?『声優』なら、それを利用ことが出来るわ。自分の好きなことも、目標も、同時に達成できるのよ」


違う。それは、建前だろう。私が、サイモンにこだわる理由。それは。それは‥‥‥



「他でもない、あなたの力が必要なのよ!サイモン!!」



サイモンは、目を見開き、動きを止めた。そして、至近距離にいたアデルは、下から剣を振り、サイモンの剣を弾く。


クルクルと空中を舞う剣。


それが、地面に落ちた。サイモンが手を離したのだ。


勝敗は決した。周りから歓声が上がる。アデルは、肩で息をしていた。かなり厳しい勝負だったらしい。

サイモンは‥‥‥‥

膝をついて、項垂れている。私は彼に近寄って行った。


「サイモン」


「‥‥‥‥そんなに、いいものなん?『声優』ってやつは」


「世界一よ」


間髪入れずに答えた言葉に、サイモンは「ふーん」と興味なさそうに言った。そして、立ち上がる。


「ま、俺は帰るわ」


「は?!ちょっと待ちなさい!約束は‥‥」


私が帰ろうとするサイモンを追いかけると、急にデコピンをかまされた。地味に痛い。


「またな」


私がおでこを押さえていると、彼は小さく手を振り、行ってしまった。

振り返ることはなく、置いてきぼりだ。


「どうするのよ‥‥‥」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ