26 声優の卵
あの決闘の日から数日が過ぎた。
「ケイト様。また、例の方から荷物が届いています‥‥」
「あー‥‥」
とある平和な昼下がり。テラから話を受けて、私は呻き声を上げた。例の方とは、他でもない彼である。そこに、アデルがやって来て溜息をついた。
「本当、よくやりますよ‥‥‥‥‥ロイド様は」
皆さま、忘れてはいないだろうか。ロイド・ビリアンという人物を。
ビリアン家の次男で、アデルの元主人・ルークのライバル。ルークの不正に関する情報を私たちに流した食えないチャラ男だ。
実は、その彼から定期的に贈り物が送られてくるのだ。メッセージカードと共に。
曰く、「この間は協力してくれてどうもありがとう。よろしければ、我が家にお茶をしにきませんか?」と。
彼の魂胆が見え隠れする。つまり、これからも協力関係を築きましょうと言いたいのだろう。いや、それも違うか。
彼は、私たちを都合のいい捨て駒にしたいだけだ。私たちが公爵邸に侵入したのをだしに、いいように使うつもりなのだと思う。
全く。そんな手に引っかかるほどチョロくないっての。
という訳で、いつも「身に覚えがないので頂けません」との旨をお伝えして、贈り物は送り返しているのだが‥‥
この男、なかなかめげそうにない。寧ろ、贈り物はグレードアップさせてくるのが恐ろしい。
「どう致しましょうか」
「送り返すわ。これからも、そうして頂戴」
「承知致しました」
いたちごっこ感は否めないが、仕方がない。どちらかが根負けするまで、このやり取りは続くのだろうけど。
「気分転換に、書庫に行ってくるわ」
「では、お飲み物をお持ちしましょうか」
「おねがい」
私は、侯爵家にある書庫へと向かった。あとから、アデルが飲み物を持ってきてくれると言うので、テラと一緒に歩いていく。
我が家には、書庫という名の図書館がある。貴族なら、多かれ少なかれ、あるとは思うが、うちの書庫は特にすごいと思う。
なんと言っても、五階建て。建物自体は丸く、360度全方位に本が置かれている。木製の棚に、金色の装飾をなされているのがレトロでお洒落でたまらない。
更に、驚くことには、風魔法を利用した簡易エレベーターもあるのだ。サザンジール家と提携している研究所がつくってくれたんだって。
ここに来ると、異国風の空気感が味わえてとても楽しいのだ。
「それじゃあ、私は少し勉強するから」
テラは私の言葉に会釈をして、後ろに下がっていく。私は語学の書を開き、羽ペンを取り出した。
サイモンの訪問は、あれから全くない。そもそも、手紙すらこない。彼からの返事を待っているときに、ロイドからのいらない手紙がくると、余計苛つく。
ダメでもいいから、さっさと返事をよこせ、と。
ラジオのプランも作っているのだが、イマイチ決まりきらないところがある。
もちろん家庭教師もいるが、このように自分でも語学の勉強を重ねている。
「ん?なんで、ここの文法がこうなるんだろ」
一人で勉強をしていると、わからない部分も出てくる。そういった時は、自分で調べなければならない。テキストのページを開いて調べようとした時、後ろから手が伸びてきた。その手は元々開いていた教科書を指差して、説明していく。
「ここは、未来文だから、こうはならない。過去文だから、ここを変えなきゃいけないんだよ」
「ふむ」
「例えば‥‥ここが現在型になると、こうなる。だから、未来文の場合はこうしなきゃいけないんだ」
「あ、なるほ‥‥‥‥‥‥ど?!」
納得して、お礼を言おうと振り向くと、そこにはサイモンがいた。
「え、あんた‥‥どうしてここに?」
「いると、問題でもあるのか?」
サイモンは不機嫌そうに眉根を寄せた。しかし、私が首を振ったことによって、目をそらして聞いてきた。
「で、お前はなんでこんなこと必死で勉強してるんだ?」
「そ、それは。この間言った事業に必要だからよ」
「そんなの、俺がやるから必要ねーよ」
「え?」
え?今、なんて?
私は驚きで、すぐに口を開くことが出来ない。
「だから、俺が声優?になってやるって言ってんだよ」
ええー。なにそのツンデレ。テンプレすぎて逆にびっくりだよ。でも、彼が協力してくれるのなら、これ以上のことはない。
「ありがとう、サイモン!!」
私が笑顔で伝えると、彼はそっぽを向いた。そして、私の髪をぐしゃっと撫でた。
「何するのよ!」
「別に」
サイモンはぶっきらぼうに、答えた。それが照れ隠しだと分かるので、ニヤニヤとしてしまう。
聞いてみると、サイモンはこの数日間スティール家で決闘をしてきたんだって。
父と弟と、妹の婿に。
結果は、全敗。
だけど、それで踏ん切りがついたんだって。
父親にも、自分のしたいことを話し、これからの身の振り方について相談したのだそうだ。私のお父様も交えて話し合った結果、便宜上、サイモンは私の専属護衛騎士になるとのこと。
お父様は何も言ってくれなかったので、全然知らなかった。
これからスティール家の家督は、弟が継ぐことになるそうだ。
サイモンは、その話をする時、自分のことを「カッコ悪い」と卑下して言っていたが、そうとは思わなかった。
彼の顔は晴々としていて、寧ろ、今までの自分を捨ててその選択をしたことはカッコいいことだと思う。誰にでも出来ることではない。
ムカつくので、そんなことは言ってあげないけれど。
こうして、2人目の声優の卵が、仲間に加わったのだった。
明日の更新はお休み致します。




