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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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マーナヴィクラマ

“彼は僕のことをおぼえているだろうか”、マーナが思った。彼とはヴァスコ・ダ・ガマのことだ。

 二人が会ったのは、カレクトザモリンとヴァスコの面会のあとの歓迎会だった。その時一度だけ会っている。

 その時ヴァスコは主賓しゅひんだったので、マーナの方は彼を憶えている。しかし、歓迎会でのマーナは多くの王族の一人という位置だった。

 ヴァスコがマーナのことを憶えているとは思えない。


 もしヴァスコがマーナのことを憶えていたら、その立場を利用して片田商店に何かの代償だいしょうを求めるだろう。人質ひとじちということだ。


 ヴァスコが何か命令を下し、ポルトガル兵六十名が少しずつ前進する。ヴァスコ本人は動かない。マーナは上げた右手を降ろさない。


 ポルトガル兵が『ヤシノミ隊』から銃を奪い、後手うしろでに縛っていく。マーナは銃を持っていなかったので、後回しにされた。

 その時、マーナが発煙筒を発火させて斜め前に投げた。武装解除前に投げることも出来たが、それではポルトガル兵が発砲する恐れがあった。


 発煙筒が崖の近くに落ち、赤い煙を吐き出した。ヴァスコが何か叫ぶ。ポルトガル兵の一人が素早く発煙筒を拾い、湾に投げ込む。

 つつが煙を吐きながら落ちていき、海中に没した。発煙が止む。


 巡洋艦『妙高みょうこう』に危機を告げる手段を失った。


 銃を奪ったところでヴァスコが近づいてきた。マーナに向かってポルトガル語で話しかける。

「●×!▲◇、■□、マーナヴィクラマ、×▽△□……」

 マーナにはヴァスコの言葉は理解できなかったが、一言だけ理解した。自分の名前だ。

“こいつは、僕のことを憶えていた!”


 ヴァスコは、このように言ったのだ。

「おまえ、カレクト王子のマーナヴィクラマだろう。若造のくせに兵を指揮しているので思い出した」


 ポルトガル兵が『ヤシノミ隊』の身体検査をし、銃弾を発見する。

「これはなんだ」銃弾を取り上げて尋ねる。

「といっても、言葉が通じないんだから、どうしようもないな」


「見せてみろ」ヴァスコが兵に言う。

 片田商店のボルトアクション・ライフルと小銃弾を見比べる。ヴァスコがボルトを回して引く、開いたところに小銃弾を装填し、ボルトを戻す。そして銃口を『ヤシノミ隊』の一人に向けた。男が目を丸くして叫ぶ。

「ふむ、間違いなさそうだな。これは銃弾だ」ヴァスコがそう言って海の方に銃口を向けて引鉄ひきがねを引く。

 銃声が響いた。

「なるほど、火縄を使うより便利なようだ。銃弾はすべて回収しろ」


 ヴァスコ達が『馬の背』に戻り、『イチジクの谷』を降り、入り江に揚げてあった連絡艇バテルで彼らの船『フロール・デ・ラ・マール』に戻る。

 途中、巡洋艦『妙高』に出会うことはなかった。『妙高』は東の入り江でマーナ達の帰りを待っている。




 日が西に傾き始める。マーナ達は昼までには帰ってくることになっていた。それがもどらない。

『妙高』艦長が日本人で構成された捜索隊を編制して上陸させた。

 島内をいくら探してもマーナ達はいなかった。

 捜索隊とは別に『妙高』も島の周りを何度も周回してマーナ達の姿を探し、声をかけてみた。

 神隠しにあったようだった。


 その間ポルトガルのナオ『フロール・デ・ラ・マール』は、洞窟に潜り込んだままだ。彼らは夜を待っている。



夜が迫った。『妙高』が『第二戦隊』旗艦の『榛名』に顛末てんまつを報告して、指示を仰ぐ。『妙高』は現在地で待機せよ、とのことだった。

 明朝、『第四戦隊』の四隻の砲艦をベルレンガス島に差し向けるとも言ってきた。


 当面一週間の捜索期間を設けるという。友好国の王子が失踪したのだから、一大事だ。


 その夜、『フロール・デ・ラ・マール』がバテルに曳航えいこうされ、洞窟から静かに出て来る。星明りだけを頼りにした慎重な作業だった。

 船尾灯すら点けていない。そして湾を出て、西に向かって去っていった。




 翌朝、『第四戦隊』がやってきて大規模な島の捜索がおこなわれた。遺体もなければ、銃もない。なんの痕跡もない。


 島の南部海岸線を調べていた砲艦『秋月あきづき』が湾の奥になにかがあるのを見つける。連絡艇を降ろして近寄ってみると発煙筒だった。

「発煙した跡が残っています」

「と、いうことは何かを知らせたかったのだろう」

『秋月』から『妙高』に問い合わせる。

「発煙があったことに気付いていたか」

『妙高』からは心当たりがない、と返って来た。


「湾の中を捜索してみろ、何かあるかもしれん」

 銃も、遺体も出てこなかった。その代わり洞窟の奥に入った連絡艇が生ゴミを見つけて来た。牛や豚の切断された骨、塩漬け肉に使った香草、タマネギやニンジンをいた皮などだ。

 日本人の出す生ゴミではない。


 発煙筒の落ちていた位置から、マーナ達が捕虜になったのは島の南部の湾あたりだろう、ということになる。

 改めてそのあたりの陸上を調べると、片田商店製の薬莢やっきょうが一つだけ落ちていた。周囲に血痕はなかった。

 おそらく、全員がポルトガルの捕虜になったのだろう、という結論が出て捜索が終わった。


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