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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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馬の背 (うまのせ)

「司令、カタダの船が一隻、この島に向かって来るようです」マストの上にいる見張りの男が甲板上のヴァスコ・ダ・ガマに向かって叫ぶ。

「船の大きさは」

「大きいです。最大のナオよりも大きいです」

 『第二戦隊』の巡洋艦『妙高みょうこう』の事だった。


甲板こうはん長、バテルを降ろせ。操帆そうはん長、トップ・マストを収納せよ。本艦を『フラド・グランデ』に隠す」ヴァスコが命じる。ヴァスコはナオを島の洞窟に隠そうとしていた。

 彼の船『フロール・デ・ラ・マール』は『海に咲く花』という名前だった。ナオとしては、やや小型だ。なので、マストの一番上の部分を引き抜いてしまえば、高さ二十メートルの『フラド・グランデ』洞窟に隠すことが出来る。


 彼は自分の艦に一艘のバテルを搭載し、二隻のバテルを曳航えいこうしてきた。バテルとは二十人乗りくらいの大きさの小艇だ。

 これらのバテルは遠目には漁船に見える。密かに本土側に上陸するために連れて来た。


 三隻のバテルでナオを牽引し、洞窟の中に入れて隠す。


 外からナオが見えなくなったところで三隻のバテルに二十人ずつを載せて命じた。


「やつらの目的はこの島の偵察だろう。必ず上陸するはずだ。上陸兵を人質ひとじちにとる」ヴァスコがそう言って自らもバテルに乗り込んだ。


「島の反対側、『イチジクの入り江』の奥に向かう。そこから『馬の背』の下まで登る。進め」ヴァスコが命じた。

 三隻のバテルが二十人ずつの兵を乗せ、島の西側を北上して『イチジク入り江』に向かう。




『妙高』が島を左回りに一周する。ヴァスコと三艘のバテルは『イチジク入り江』の最も深い所に漕ぎ寄せていた。この入り江は途中で左に曲がっているので、外洋からは奥まで見えない。

 『フロール・デ・ラ・マール』も巨大な洞窟の奥に投錨していて、見つからなかった。

 そして、マーナ達が砂浜に取り付いた頃、ヴァスコも『イチジクの谷』を登り始めていた。


 ヴァスコと、彼の部下六十人が『馬の背』の北側直下の日陰部分に潜む。そして、時々わずかに頭を出して、上陸してきたマーナと『ヤシノミ隊』十人の様子をうかがう。

 こちら側の斜面は、反対側より傾斜が緩やかで登りやすい。


 マーナ達が東側の頂上に達し、下山する。その様子がヴァスコたちの所から見えた。


 彼らが戻って来て、『馬の背』の稜線をたどる。

会話がかすかに聞こえ始める。ヴァスコ達が稜線のすぐ下の岩陰に貼り付いているからだ。『ヤシノミ隊』の誰かが右下の急斜面をのぞき込めば、見えるかもしれない位置だ。


 ポルトガル兵が影の中で息を潜める。


 彼らの頭上をマーナ達が通り過ぎてゆく。

ヴァスコが思った。聞いたことのある言葉だ、カレクトの連中の言葉に似ている。なぜ、やつらがこんなところにいるのだ。


 しばらくして、ヴァスコが『馬の背』から顔をだす。右手かなたに西山を登っていく十一人の背中が見えた。念のため、反対側も見る。どうやら上陸してきたのは、あの十一名だけのようだ。

 これならば、やれる。そう思った。


 十一人が山のを越えて、向こう側に消えた。

「よし、全員上に登れ、やつらを追跡するぞ」ヴァスコが命令した。彼らは『馬の背』の左手から登って来た。なので、退路は絶っている。まちがいなく捕獲できるだろう。


 六十人のポルトガル兵が、手に火縄銃を持って『ヤシノミ隊』を追いかける。




 マーナが西山の頂上に立って、周囲を双眼鏡で見回す。ここから見た限りでは、こちらも誰もいない。

 ただ西山は『馬の背』近くが頂上で、そこから先に長く延びている。その先はここからでは見えない。

「海岸が見下ろせるところまで行こう」マーナが言い、一行はさらに西に進んだ。


 西に延びる尾根が終わったところで、海岸まで見おろすことが出来た。左側に小さな湾がある。湾の奥に大きな洞窟がある。

 そして、その洞窟から、ポルトガルの帆船が顔を出していた。外海からは見えないが、マーナの立つ位置からは、洞窟の奥が良く見える


“これは、どういうことだ”、緊張したマーナが後ろを振り返る。


 彼らの背後に五十人から六十人ものポルトガル兵がいた。銃を構えてこちらにやってくる。

「みんな、後ろを見ろ」マーナが叫ぶ。


 彼我ひがの距離は百メートル程だった。周囲は岩場というよりは、枯草が地面を覆っている。

 マーナが思った。足場はよくないが、それでも三十秒もあれば、彼らはここまで来ることが出来るだろう。その間に何発の弾丸を発射できるか、五、六発というところだろう。『ヤシノミ隊』は、あまり射撃練習をしてこなかった。

 六十発撃てたとして、百発百中でなければ敵を全員倒せない。実際には、おそらくその三分の一も当たらないだろう。

 撃ち合って捕まった場合、皆殺しにされるかもしれない。多勢たぜい無勢ぶぜいだ。ここは捕虜になった方がよい。

 奴隷にされるかもしれないが。それでも、生き残れる。


 マーナが皆を制止し、銃を空に向けさせる。


 その様子を見た敵の指揮官が兵達を割って前に出て来た。

 マーナには見覚えがあった。カレクトの歓迎会で会っている。


カレクトに災厄さいやくをもたらした男――ポルトガル艦隊の司令ヴァスコ・ダ・ガマだ。


『馬の背』とは、両側が切り立って崖になっている狭い尾根のことを言う登山用語です。

遠くから見ると、馬の背中に似ているから、このような名前になりました。


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