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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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岩登り

 現在のペニシェ半島は砂州で陸続きになっているが、片田たちの時代には島で、干潮の時だけ砂州が顔を出して、短時間だけ半島になっていた。


 内陸と接続する島の東側斜面に仮設の土塁どるい防柵ぼうさくを築く。ところどころに見張り塔を立て、松明たいまつ台を設けた。

 そして、その内側には補給船から上陸させたMLRS(多連装噴進砲)、大小の迫撃砲を置く。

 そのようにして、当座の防衛線を敷き、次には本格的な要塞建設の準備を始めることになる。

 ひとまず一段落した。


 ペニシェ島の西側は二十メートルから三十メートルの断崖だ。ほぼ垂直の崖なので、こちら側から上陸することは不可能だ。

 その断崖の上に『第二戦隊』司令とマーナが立っている。


「マーナ、あの島だ。見えるだろう」司令が正面を指さす。日が西に傾いているので、逆光のなか、細長い島が見える。彼らが立つところからは十キロメートルほど離れている。

「見えるよ、テーブルみたいになっていて、右に離れて小さな島もあるね」

「ああ、そうだ。ここから見ても岸が崖になっていて、取り付きにくそうな島だ」

「そうだね」


「ほれ、この双眼鏡で見てみろ」そう言って、首から下げていたものを渡す。

「ホントだ。あれじゃあ船で上陸するのは難しそうだ」マーナが双眼鏡をのぞきながら言う。

「島民が言うには、島の東側に入り江があり、その奥が砂浜になっている。上陸するとしたらそこがいいらしい。しかし上陸できても、そこから登るのも、不可能ではないが、難しいそうだ」

「それで僕たちが行くんだね」

「そのとおりだ、『ヤシノミ隊』ならば登れるだろう。中ほどまで登れば緩やかになるそうだ。木の生えていない島なので見通しがいい。一回りして異常なものが無いか調べてきて欲しい」

「ポルトガルのやつらがいないか、見てきてほしい、ってことだね」

「うむ。岩場が多いので、靴を用意する。それと真水が無い島だそうだ。水筒を忘れないことだ」

「わかりました。行きます」




 そのベルレンガス島に第二戦隊の巡洋艦『妙高みょうこう』が近づく。


 まず、正面に上陸予定の砂浜を発見する。そこから右旋回して、反時計回りに島を一周した。ポルトガル船はいないようだ。


あらためて上陸予定地点までもどってくる。岩場が多いので、少し離れた所にいかりを降ろし、連絡艇を使ってマーナと十人の『ヤシノミ隊』が上陸した。

 砂浜の奥に流木を組んだだけの避難小屋があった。入口の脇に大きなかめがあり、これに屋根からといを伝って落ちる雨水を貯めている。


中に入ってみると幾つかの壺がある。中には干したイチジクやブドウなどの果物、小麦粉などが入っていた。

まさに避難小屋だ。嵐や強風で本土に近づけない漁船が、島の風下に回り込んで避難するための小屋だろう。


外に出て、砂浜両側の斜面を見る。右側は到底登れない。左側の方が、まだ登れそうだ。

「こっち側から行ってみるか」マーナが言う。

「じゃあ、俺が先頭を務めましょう」『ヤシノミ隊』の一人が言う。

 事前に誰が一番の木登り名人か、相談し(言い争いし)、ペニシェ島の岩場で腕試し競争もしていた。

「ああ、頼むよ」


 その男がロープの端を胴体に巻き付け、岩登りを始める。

「ロープが宙に浮いたら、声をかけてくれ」登りながらそう言った。


 残りの男達が登っていく男を注視する。砂の上のロープがからまないように手繰たぐる。


 男の姿が見えなくなった。でも、ロープが動いているので、彼が登り続けていることはわかる。


「もうすぐ、ロープが終わる。いったん止まってよ」マーナが声をかける。ロープが止まる。

 崖の途中にいる男が下を見る。すでに砂浜は小さくなっていた。止まっていると岩を掴んでいる手に汗がにじんでくる。


「二本目を結んだ。もう登ってもいい」マーナが再び声をかける。ロープが動き出す。


「もう二本目のロープだ。かなりの重さになっているだろう。やつ、大丈夫かな」そんな声がした。

 皆が、落ちないように、落ちないように、といのる。


「おーっ、上に着いたぞ」男の声が聞こえた。下にいる男達がホッとする。

「ちょっと待ってろ。杭を打って、ロープを巻き付ける」


「よし、一人だけ登ってこい、途中で杭を打ちながらだ」上の男が叫ぶ。


 二番手の男が三本の鉄杭と金槌かなずちをぶら下げて登り始める。途中三か所に杭を打ち、そこにロープを二重回しにする。その下のロープを折って、二重廻しの内側をくぐらせ、杭の頭をまたいで固定する。

これでロープにかかる力を分散できる。


 二番目の男も上の台地に着いた。それから一人ずつ登る。最後から二番目がマーナの番だった。彼は王子だったので慎重な位置に置かれている。


 台地に着いて見回す。上は岩だらけだった。普段から強風が吹いていて、木が育たないのだろう。マーナが立っているところより下は草に覆われている。風下の部分なのかもしれない。


「ここで、改めて持ち物点検をする」マーナが言った。

「小銃」

「おうっ」十人が応える。

「銃弾二十個」これにも皆が応えた。

「短剣、水筒」

 そして最後にマーナが自分自身に言った。

「双眼鏡、発煙筒」

 下に置き忘れている物はなかった。


「よし、左手の、少し低くなっているところが『馬の背』だろう。あそこで島は細くなっている。右手が島の東部、左手が西部になる。まず東部から調べていこう。右手の頂上を目指す」

 皆が「おうっ」と言って、登り出す。


 島の東部頂上に着く。岩だらけの場所で、岩の隙間に小さな草が生えている。その草が豆粒のような白い花を咲かせていた。

 ときどき、岩の間からごま塩模様のトカゲが顔を出す。陸上の動物はトカゲしかいないようだ。

 ただ、空にはたくさんの鳥が舞っている。カモメ、腹の白いウミスズメ、真っ黒なウなどが乱舞する。


 マーナが双眼鏡で周囲を詳しく調べる。ポルトガル兵がいるような様子はなかった。


「じゃあ、『馬の背』を超えて、島の西部を調べよう。水筒の水が不足している者はいるか、いるんだったら、砂浜に戻って補給する」

 みな、大丈夫だという顔をする。


「では西側を調べよう」


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