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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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死地 (キルゾーン)

 左側が『旧市街』地区の高い城壁、右側は『港』地区の建物、その間に延びる道を南、ジブラルタル市街に向かって進む。

 明るくなってきたが、霧が急速に濃くなる。白い視界に次々と黒い建物の影が浮かぶ。


 唐突とうとつに広い所に出る。二十メートル四方ほどの広場だ。そして、その向こうに城門が見えた。あれが市街に向かうバルチナ門か、あるいは『旧市街』地区に繋がる門か、どちらかだろう。

 高山次郎五郎じろうごろうが立ち止まり、左手の『旧市街』城壁と、正面の城門のある城壁を見比べる。

 二つの城壁のなす角度が鋭角えいかくだった。まず間違いなく市街に出る門だろう。衛兵が一人立っていた。


「一気にいくぞ」次郎五郎が言った。そして百名の兵が城門に殺到する。衛兵はなすすべもなく捕らえられる。城壁の上で別の衛兵が笛を鳴らした。


「二人ずつ組になり、広場の左右を調べろ」次郎五郎が言った。残りの兵は笛を鳴らした衛兵を警戒する。


 城門を開ける。霧の中、平坦な道がまっすぐ延びて、両側に民家が並んでいた。


 間違いあるまい。これは市街に繋がる『バルチナ門』だろう。次郎五郎が確信する。胸元に留めた簡易無線機を手に持ち、『第一軍』副官の散田さんだ護丸もりまるを呼び出す。

 もし『第一軍』が計画どおり市街の中心部に到達していれば、ちょうど五百メートル先に護丸がいるはずだった。

 無線機の到達距離の限界だったが、見通しがよい、通じるだろう。


「護丸、聞こえるか。こちらは『第二軍』の次郎五郎だ」

「ああ、聞こえる。護丸だ」応答があった。

「我々は『バルチナ門』を解放したと考えられる。念のため、空に向けて小銃を一発撃ってくれないか」

「よかろう、待っていろ」


 正面から一発の銃声が届いた。霧で見通せないが、距離はおおよそ五百メートルくらいだろう。


「確認できた。そちらの銃声は正面だ。こちらが落ち着いたら再度連絡する」次郎五郎が護丸に伝える。


 次郎五郎が『港』地区のほうに振り返る。

 門の右手を偵察してきた兵が報告する。

「広場の右側街路は西に向かって城壁が延びています。少し行ったところに、城壁の上に登る階段がありました。街路の右側は先ほどと同じような市街です」

 左手を調べた兵はこう言った。

「左側は、すぐに『旧市街』城壁で閉じられていますが、窪みがあり、そこに鉄製の頑丈な扉がありました」

その扉が『旧市街』へ通じるのだろう、次郎五郎が思った。


 その時、次郎五郎の正面から複数の銃声が響く。三名の日本兵が倒れた。兵の向こう側、『旧市街』城壁のところに、いくつか、横一線に霧が濃くなっているところがある。火薬の煙に違いない。


 次郎五郎が、一瞬のうちにいくつもの事を考える。


 この方角からよく見ると、正面上方に旧市街城壁が斜めに延びている。その城壁が上下二つに分かれている。その境はさらに傾斜が急になっていて、奥が高く、手前が低い。

 あそこに『旧市街』から降りて来る通路があるのだろう。そして敵兵の射撃地点でもある。


 つまり、この広場は通行の便を図るためのものであるが、同時に死地キルゾーンにもなっている、ということだ。


 日本の城の入口、虎口ここうには、桝形ますがたという侵入した敵兵を倒すための空き地がある。戦闘時には、それと同様な目的で使われる広場だった。


「広場から離れろ、旧市街から撃ってきている。倒れた兵を連れて、建物の影に隠れるんだ」次郎五郎が叫ぶ。当時のスペインは初期の火縄銃を使っていたはずだ。おそらくマスケット銃より前のアルクビュスだろう。種子島銃よりも初期の型だ。銃口から火薬と弾を込め、火縄で着火する。

 次弾の発射まで三十秒から一分以上は必要だ。負傷者を引きずって逃げるだけの時間はある。


 次郎五郎配下の百名の兵が建物の影に隠れる。次郎五郎自身も近くの建物に身を寄せた。そして簡易無線機に向かって叫ぶ。


「護丸、まだ聞こえるか」

「ああ、聞こえるが」

「バルチナ門だが、解放はしたが、確保に失敗した。門手前の広場で『旧市街』地区からの攻撃を受けた」

「わかった、接近は出来るが、まだ門内に入るな、ということだな」

「そうだ」


 護丸の『第一軍』の方は、とりあえず、これでいいだろう。また今の通話は隊長の新藤しんどう小次郎、マーナ達も聞いているはずだった。


 次郎五郎が建物の背後から叫ぶ。

「建物の影……」

 叫ぶと同時に、次郎五郎の声に向かって、再度複数の銃声が襲い掛かる。

“一斉射撃、という戦法を知っている、というわけだな”次郎五郎が思った。

「建物の影を伝って移動し、南城壁階段付近に集合せよ」


 南城壁階段付近に集合、といったのは、『港』地区の南城壁が『旧市街』地区の城壁と繋がっていて、兵が移動してくるかもしれないからだった。城壁の上を押さえなければならない。それに上からならば、正面の狙撃兵を狙えるかもしれない。


 とにかく、いまの状態は小銃には不利だった。軽迫撃砲のような曲射砲が欲しかった。


『第二軍』は北城壁の登攀を目的とした軽装備で来ていた。迫撃砲は持って来ていない。小銃と日本刀だけだった。


「負傷した三名を含め、百名全員が南階段付近に集合しました」次郎五郎が報告を受ける。

 報告してきた小隊長に次郎五郎が命令する。

「よし、では五名を選抜して、階段の上を偵察せよ。偵察目的は二つだ。一つは、この南城壁と『旧市街』城壁が繋がっていて、敵兵がこちらに来ることができるのか調べることだ。そしてもう一つは城壁上から『旧市街』斜路にいる敵兵を狙撃できるかどうか調べることだ」


「二つの目的、承知いたしました」小隊長が偵察目的を復唱した後に言った。

「では、行け」


 当初は、日の出とともに、艦隊がムーア城を迫撃砲で沈黙させるはずだった。日は既に出ているが、濃霧のため攻撃ができない。『港』地区に進入した『第二軍』は決め手となる兵器を持っていない。

『バルチナ門』をめぐる戦闘は膠着こうちゃくしそうだった。


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