三十五話 アルティメットゾンビ
遅くなりました。本日三話目です。
亜人もゾンビ虫も、順調に倒せてる。
みんなが、これならいけるって考えた時だ。
ウンベホッコが用意した、とっておきの爆弾が破裂しやがった。
「うわああああ!」
「た、助けてくれええええ!」
阿鼻叫喚ってのは、こういう状況を指すのかもしれない。
亜人を殺せば、体の中からゾンビ虫が湧き出したんだ。
これを予想しろって方が無茶だ。
まさか、亜人がゾンビ虫を呑み込んでたなんて。
運が悪かった。あるいは、相手が一枚上手だった。
思いもよらないところからゾンビ虫が出てきたんで、冒険者が刺された。
他の冒険者のフォローがあって、人間に戻れはしたが、亜人を倒しにくくなった。
「冷静に対処すれば大丈夫だ!」
「焦るな! 焦れば相手の思うつぼだ!」
混乱する仲間を諭そうとしてる人もいるが、一度パニックになれば、なかなか落ち着けない。
戦況は、徐々に不利になっていく。
そんな中、俺とクートだけは変わらずに奮闘してる。
ゾンビ虫が脅威にならないのは、本当にでかい。
特にクートは、一騎当千ってほどの力を見せて、獅子奮迅の大活躍だ。
「サズマ! 商業区へゆけ! あそこに亜人が大勢おる!」
「分かった……って、おい、クート! お前、怪我してるじゃないか!」
「かすり傷じゃ」
かすり傷って……普通なら動けなくなってもおかしくない、大怪我だぞ。
左半身がボロボロになってる。ちぎれかけの左腕はだらんと下がってて、血があふれ出してる姿が痛々しい。
毅然と振る舞ってはいるが、端正な顔には油汗がにじんでるし、かなり辛いんだろう。
クートにここまでの深手を負わせるなんて、どんな相手だったんだ?
「亜人の長と思われる者と戦ったのじゃ。我としたことが、不覚を取ったわ」
「ク、クートさんは、私たちを守って……」
クートと一緒にいる女性が、泣きそうな顔で言った。
ゾンビ虫を倒してる市民だ。兵士でも冒険者でもないから、亜人と戦う力はなくて、クートが守ったってことらしい。
名誉の負傷だな。クートの奴、格好いいじゃないか。
「じゃが、仕留めた。あれ以上の強敵となる亜人はおるまい。サズマは商業区へ急げ。我は正門へ向かう。町に入り込もうとしておる亜人を止めるためにの」
怪我をしてるんだから引けって言いたいが、言っても聞かないな。
クートを信じて、俺は俺にできることをやろう。
言われた通り商業区に向かえば、亜人がわんさかいた。
……兵士がやられてる。亜人は、兵士の死体を貪り食ってるんだ。
何度か顔を合わせたことがある人だ。
俺との関係はその程度で、特別に親しいわけじゃないが、知り合いが殺されて食われてる姿は直視できるものじゃない。
「この野郎!」
呑気に食事をしてた亜人を斬り殺した。
残る亜人も、全部殺してやる。
被害は、一人だけじゃない。何人もの兵士や冒険者の死体がある。
それどころか、ゾンビになってる人まで。亜人の死体からゾンビ虫が出てきて、刺されたのかもしれない。
くそっ! くそっ!
亜人を殺したって、死んだ人が生き返るわけじゃない。
それでも、せめて仇を討つつもりで、俺は剣をがむしゃらに振り回す。
途中で、剣がポッキリ折れた。無茶な使い方をしてたからな。
死んでる人の武器を使わせてもらう。拾い上げて、再び亜人を斬っていく。
全滅させてから、生き残ってる人に声をかける。
「避難してください! 動けない人には手を貸して! 急いで!」
かなりの激戦だったようで、生きてる人も怪我人だらけだ。
戦い続けるのは無理っぽいし、避難してもらおう。
死んでる人は……申し訳ないが、弔うのは後回しだ。
感傷に浸ってる暇があるなら、一匹でも多くの亜人を殺す。
こっちの被害が増えてきてるな。まだ無事なのは、果たして何人いるか。
俺も、クートほどじゃないが、傷を負い始めてる。
いくら頑丈な魔物でも、連戦に次ぐ連戦となればこうなるんだ。
「はあ……はあ……」
息も上がってて疲労感があるし、痛みもある。
人間よりも頑丈で体力があるだけで、俺は決して無敵じゃないんだ。
でも、俺がリタイアするわけにはいかない。
リュエや透歌は大丈夫か? 無事を祈ろう。
クートも心配だ。あの大怪我で、いつまでもつか。
ここらの亜人を片付けてから、クートの加勢に向かおう。
もう、何十匹になるか覚えてないが、亜人を斬り殺した俺は、そこで異変に気付いた。
傷が治ってる? 痛みも消えたし、力があふれてくる感じがする。
まさかと思って、ステータスを確認すれば。
サズマ
アルティメットゾンビ
ZP=0
進化した!? ここでか!?
ZPが0って、一兆近くのマイナスがどうやって0になったんだよ!?
人助けをしたから? それだけで一兆も溜まるのか?
溜まったとして、0で進化したのはなんでだ?
いや、理由はどうでもいいな。ここで進化できたのは、正直ありがたい。
へばってリタイアしそうになってた俺が、まだ戦えるんだ。
しかも、進化のおかげで五感が鋭くなって、亜人の居場所が把握できる。
さすがに、町の端っこまでは届かないが、半径数百メートルはカバーできるみたいだ。
アルティメットゾンビ。究極、ね。
はっ、最高じゃねえか!
もしこれが、クソ女神のご加護ってなら、敬ってやるよ!
ありがとう、女神様!
心の中で感謝を述べながら、俺は感覚に従って亜人を探し、殺して回る。
ひとしきり片付ければ、次はクートを手伝うために正門だ。
駆ける足取りも軽やかだ。
地球なら、オリンピックの短距離走で金メダル間違いなしのスピードで、一気に正門までを駆け抜けた。
だが、そこで俺が目にしたのは。
剣で腹部を貫かれてるクートの姿だった。
襲撃が起きる前日、クートから言われたことがある。
「サズマ、よいか。亜人はともかく、ウンベホッコには手を出してはならぬぞ」
やけに神妙な顔をしながら、俺に忠告してきた。
「我ですら、ウンベホッコに勝てるとは言い切れぬ。万全の状態で戦えば、勝率は八割といったところか。消耗した状態であれば、敗北も十分にありうる」
クートが負けるなんて、俺には信じられなかった。
こいつの力は、訓練と称してフルボッコにされてた俺が、よく知ってる。
俺が十人いたって、クートには勝てない。
はっきり言うが、人間じゃ、クートの域に達するのは不可能だ。
どれだけ才能があって、師匠にも恵まれて、血のにじむ訓練を何十年と繰り返しても、絶対に。
それが、種族の差。人間と、魔物の王であるマモノの、決定的な差だ。
……久しぶりに種族名が出たが、シリアスな空気をぶち壊す名前だよな、マモノって。
とにかく、クートを負かせるとすれば、人間じゃなくて、強力な亜人や魔物だ。
「ウンベホッコは魔物なのか? 俺みたいなゾンビか、あるいはクートと同じマモノ?」
「いいや、人間じゃよ。人間じゃが、理不尽なほど破格の力を有しておる。どのようにすれば、あのような人間が誕生するのか、はなはだ疑問じゃったが……」
「……あ! まさか、転生者!?」
「我はそう睨んでおる。サズマの身の上話を聞かなければ、考えつかなんだがの」
ウンベホッコが転生者なら、チート能力を、クートの言う「理不尽なほど破格の力」を持ってるかもしれない。
俺が神様に会ってるし、人によってはチート能力を授けたとも言ってた。
あり得るぞ。異世界転生からの成り上がりとか、王道パターンじゃねえか。
神様からチート能力を授かった人間。その力は、魔物の俺をも軽く上回る。
魔物の王であるクートにすら匹敵、あるいは凌駕するほど。
だから。
この結果は、ある意味必然だったかもしれない。




