プロローグ:『赤兎の影と、脅かされる小国』、第一話:『商売の神様と、不公正取引』
前書き:神官庁・神々のご案内
「関帝(関羽雲長)」と聞くと、三国志の英雄であり、生前の圧倒的な清廉さと義理堅さから死後に祀られ、「商売繁盛」「必勝」の神として世界中の商人から絶大な信仰を集める聖帝です。
本来の役割は、「約束と義理を重んじ、公平で清廉な商取引を行う者に加護を与え、社会の経済的発展と平穏を支えること」です。
しかし、その高潔な神威と加護を盾に、巨大カルテルが弱小国を経済的に威圧し、市場を独占・混乱させるための兵器として悪用することは、決して許されるものではありません。
(本来の職務:商業の公正な発展・清廉な「義」の示現)
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第四章『関羽検挙』プロローグ、第一話
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プロローグ:『赤兎の影と、脅かされる小国』
○ 王都・超高層ビル『赤兎タワー』最上階・貴賓室(夜)
眼下に王都の夜景が一望できる絢爛豪華な応接室。
重厚な革張りソファに深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべているのは、巨大貿易カルテル『赤兎グループ』の代表——董孫民会長。
その対面に座るのは、資源豊かな弱小国『アルテミシア』の貿易交渉官だ。
額に大量の汗を浮かべ、差し出された一枚の契約書を握りしめて震えていた。
「と、董会長......! この契約内容はあまりに不当です! 我が国の最先端レアアース鉱山の権益を、無償で貴グループに譲渡するなど……!
このような条件、呑めるはずがありません!」
「ふむ。呑まぬというなら、それでも一構わんがね」
董会長は優雅に葉巻の煙をくゆらせると、冷酷な笑みを浮かべた。
「明日正午をもって、我が赤兎グループが押さえている国際物流ルートから、アルテミシア産のすべての資源輸出枠を全額凍結する。
あ、我が国のフリゲート艦2隻が、貴国の北の公海上で数日演習をするそうだ。
他国の輸送会社や輸送船は、貴国への入港も出港も苦労するだろうな。
……医療機器用の精密レアアースも、インフラ用の鉱物も、一切世界へ出せなくなる。
……それで国の経済が破綻しても構わんのだな?」
「 脅迫だ……! これはあからさまな不当威圧だ!」
「ハッハッハ! 脅迫だと? 違うな、これは『商売』だ」
董会長がパチンと指を鳴らすと、彼の背後の壁に掲げられた巨大な青龍刀の紋章が、重々しく眩い金色に輝き始めた。
途端に、室内を押し潰すような凄まじい「神威のオーラ」が吹き荒れ、アルテミシアの交渉官は呼吸を奪われて床に膝をついた。
「我が赤兎グループには、聖帝・関帝(関羽)様のご加護がついている。
我らの商いに立ち塞がる者は、関帝様の青龍刀によって叩き潰される不義の徒だ……。返事は『ハイ』か、国の破滅かだ」
「く、苦しい!」
神力を笠に着た圧倒的な経済暴力。
交渉官は床に突っ伏し、苦悶に震えながら憤りの声を絞り出した。
「これが……これが商売の神様が重んじる『義』というのですか……!」
同刻、その横暴なる神力の波動を、神官庁の鑑識術式が捉えていた——。
第一話:『商売の神様と、不公正取引』
○ 神官庁・特別査察部部長室(朝)
特別査察部部長を兼務するアテナ長官は、漆黒のローブを纏い、優雅にソファに腰かけ紅茶のカップを傾けていた。
アテナの対面には、無表情の長官秘書官兼総務課長のニケが青いファイルを開き座っていた。
「長官、昨夜の鑑識術式が捕らえた神威反応の解析が完了いたしました。
赤兎グループの董孫民会長による、アルテミシア小国への不当威圧です。
……背後には、聖帝・関帝(関羽)様の神威が色濃く検出されております」
ニケはファイルに閉じられた報告書を、丁寧にアテナにお見せする。
そこには、関帝の加護を盾にしたレアアース鉱山の権益強制譲渡と、軍事演習を匂わせた物流凍結の生々しい記録が並んでいた。
アテナは、ティーカップをテーブル上のソーサーに戻し、報告書を手に取る。
その時、部屋の扉が静かにノックされた。
秘書の巫女が来客を告げた。
「お呼びでしょうか、アテナ部長」
「ええ、入ってちょうだい、ヒトシくん」
アテナは報告書をテーブルに戻し、凛とした眼差しをヒトシに向けた。
圧倒的な知性と威厳が、部屋の空気を心地よく引き締める。
「この報告書に目を通して」
ヒトシはアテナとニケに一礼し、報告書を開く。
「聖帝関羽雲長——生前の至高の清廉さと圧倒的な武勇で知られ、今や『商売繁盛』、『必勝』の神として世界中の商人から絶大な信仰を集める巨大な存在よ。
その信者である巨大カルテルが、神威を笠に着て市場を独占し、弱小国を脅迫しているわ」
ヒトシは書類に目を通し、生真面目な顔で頷いた。
「本来、神官庁は人間同士の自由な経済取引には介入いたしません。
内政不干渉の原則がございます。
……ですが、これは『自由な取引』の域を超えておりますね」
「その通りよ」
アテナはフッと端正な唇の端を釣り上げた。
「私たちが裁くのは、人間界の関税や市場価格じゃないわ。
関帝の『神力』という過剰な介入を市場に持ち込み、相手の首元に青龍刀を突きつけて判を押させる……
**『神威の不当流用(霊的市場汚染)』よ。そして何より、信者の暴走を放置している関帝本人の『神律第12条・信者等監督責任不届き』**ね」
「ご意向、承知いたしました。関帝様の目を覚まさせ、正当な行政指導を行ってまいります」
そこへ、部屋の隅からゴツゴツした武骨な手をした男——特別査察部鑑識技術課長のヘパイストスが姿を現した。
「ナカムラ、これを持っていけ」
差し出されたのは、一見するとシンプルなメタルのサングラスだった。
「ヘパイストス課長、これは?」
「『波長解析鑑識グラス』だ。
関帝の神威がどのように経済取引に干渉し、相手に不当な物理的・精神的強制力を生んでいるかを客観的な数値データとして可視化・記録できる。
関帝廟の莫大な神力の中でも、証拠を正確に抽出できるはずだ」
「ありがとうございます。重宝いたします」
「それと……ナカムラ様♡」
甘く可憐な声とともに、影の中からひょっこりと顔を出したのは、先日保護観察(執行猶予)となった元サキュバスの「闇の女王」リリアだった。
嬉しそうに小さな光ディスクを差し出す。
「リリアさん、なぜここに?」
「ふふ、アテナ部長様から特命をいただいたんですの。
『影の協力者』として、夢境から赤兎グループの裏サーバーに潜入してまいりましたわ!
これ、彼らが裏で操作している不正な利益誘導と、弱小国への脅迫通信の隠密裏帳簿データです!」
ニケが感心したように息を吐く。
「手際がいいわね……。流石は元サキュバスというべきか」
「ナカムラ様のためですもの! ……あ、でも、ご褒美に今度、温かい緑茶をいっしょに飲んでくだされば……」
ぽっと頬を赤くするリリアに、ヒトシは一切の不純な濁りのない真摯な目で深く一礼した。
「ありがとうございます、リリアさん。非常に貴重な証拠品です。……緑茶の件も、公務の合間に喜んでお付き合いいたします」
「〜〜〜っ! はいっ!」
歓喜するリリアに苦笑し、アテナ長官は漆黒のローブの裾を揺らして立ち上がった。
「準備は整ったわね、ヒトシくん。
関羽本人は至って高潔で清廉な武神……だからこそ、信者たちの『義理』や『繁栄』という言葉に騙され、己の加護が不義の刃となっていることに気づいていない。……しっかりとその目を覚まさせてあげなさい」
「はい。公務員の倫理規定と神律に基づき、毅然と『現地調査』を行ってまいります」
ヒトシは鑑識グラスと光ディスクを鞄に収めると、アテナ達に一礼し特別査察部部長室を退出した。




