プロローグ 主神の影と、従わされる夢魔
前書き
作品をご訪問いただきありがとうございます!
今回は、毎夜人間に甘い夢を見せる夢魔「サキュバス」を巡る第三章『サキュバス検挙』をお届けいたします。
物語に入る前に、今回登場する神様の「本来の役割」をご紹介します。
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【神官庁・神々のご案内:サキュバス(夢魔)の本来の役割】
「サキュバス(夢魔)」と聞くと、男を惑わして精気を吸い尽くし、破滅へと追いやる恐ろしい悪魔をイメージされるかもしれません。
ですが本来の役割は、「人間が日常のストレスや抑圧から解放されるよう、夢境の中で豊かな情愛と安らぎを与え、感情の均衡を保つこと(精神の潤滑油)」です。
過酷な現実を生きる人々に束の間のみずみずしい癒やしを与えるのが本来の仕事であり、決して特定の権力者と結託して人を籠絡したり、死に至るまで精神エネルギーを過剰搾取したりするための存在ではありません。
(本来の職務:夢境における感情と精神エネルギーの均衡管理/健全な癒やしの提供)
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サキュバスの仕掛ける圧倒的な色香に対し、生真面目な査察官ナカムラ・ヒトシがどのような「超紳士対応」と「行政手続き」で立ち向かうのか、どうぞお楽しみください!
プロローグ 主神の影と、従わされる夢魔
王都・上層神殿・謁見の間(夜)
太古の巨石で組み上げられた、壮麗だが底冷えのする神殿。その最奥にて、目を背けたくなるほどの絶対的な神威のオーラを纏った巨大な影——ある主神が、羽を広げた大天使を従え、冷酷な眼差しで階下を見下ろしていた。
その階下にひざまずき、恐ろしい神圧に肩を激しく震わせているのは、絶世の美しさを誇る夢魔——リリスであった。
「……聞こえたか、リリスよ。この頃、うるさい小蝿どもが我が神域の周りをチョロチョロと嗅ぎ回っておる。
これ以上、奴らに神の尊厳を貶められれば、人間どもが神への畏怖や敬意をなくし、果ては信仰そのものまで破壊しかねないのだ」
主神の低く重い声が、石壁を振動させる。
「小蝿のうちに始末するのだ。特別査察部の査察官どもを夢境へ誘い込み、色香で完全に骨抜きにしろ。公務の極秘情報を漏洩させ、不祥事を公にするのだ。特別査察部という組織そのものを、内側から自滅・解体へ追い込むのだ」
ひざまずいたリリスは、震える声を振り絞って顔を上げた。
「し、主神様……。私ども夢魔の本来の職務は、傷ついた人間の心を夢で包み、安らぎを与えること……。そのような、神官庁の正当な捜査を妨害し、人を罠に嵌めるような真似は……」
「お前の答えは『諾』か『否』かだ!」
玉座の脇に控えていた大天使が恫喝すると、ゴオッ! と激しい霊圧が室内に吹き荒れ、リリスは床に叩きつけられた。
「拒否権を持つお上の神殿の意に従えぬというのか?
下級の悪魔風情が上層部の政治に口を挟むなど片腹痛い。
命じられた通り査察部を潰さねば……お前という存在そのものを地獄の業火で永遠に消去してやろう」
「ひっ……! お、お許しください……! 大神様に逆らうなど……滅相もございません……っ」
リリスは床にひれ伏し、涙をこらえて頷いた。主神の影は目を笑わせずに優しく語りかけた。
「そう、恐れるな。お前にもメリットはあるのだ。特別査察部を解体に追い込んでしまえば、お前たちの無認可営業など、我が権力で永久に見逃してやる。……しくじるなよ」
冷酷な宣告を残し、主神の影と大天使は光とともに消え去った。
誰もいなくなった冷たい神殿で、リリスは震える手で自らの胸元を抱きしめ、切痛な溜息を吐いた。
「所詮、私は道具か……」




