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双剣無頼 ~現代ダンジョンで雑魚狩りしてた底辺掃除屋、神話級の剣を手に入れてしまう。しかも二本~  作者: モモンガ・アイリス
第二章

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第四十八話




〈――もしもし。えっと……配信お疲れ様です。河合咲穂です〉


 携帯端末の向こうから聞こえてきた声に、トールは訝った。

 早坂透が知っている河合咲穂は、トールに『お疲れ様です』などと絶対に言わないし、声の調子もなんだか殊勝というか、畏まっている。

 スガイダンジョンの迷宮支所の受付で死ぬほどやる気なさそうにしていた女と、現在の通話相手が同一人物とは、とても思えなかった。


「あー……っと、河合咲穂さん? 俺の知ってる河合咲穂さんで合ってますか?」


 思わず聞き返すと、端末の向こうで「うぐっ」と息を呑む音がした。

 それから何度かの深呼吸があり、通話相手は意を決したように、はい、と言った。


〈スガイダンジョンの支所で毎日顔を合わせていた、河合咲穂です。配信を視聴させていただきました。現在はダンジョンを戻っている最中ですよね?〉


「はぁ……」


〈あの、不躾で本当に申し訳ないのですけど、早坂さんにお話したいことがあります。こちらから伺いますので、お時間とっていただくことは可能ですか? その……早坂さんのご都合に合わせますので〉


「あー……本物っすか? 偽物の河合さんじゃなく?」


〈ぐっ……いえ、そうなりますよね。はい。本物です。すみません〉


「マジかよ」


 思わず内心が口を衝いて出た。しかし仕方ないだろう。トールが知っている河合咲穂と、携帯端末の向こうで喋っている人物が、全く重ならないのだ。


〈ええ、はい……その、マジです。ごめんなさい。どうしてもお話ししたいことがあるので、お時間いただければと……その、こんなことを言い出すのは本当に失礼だとは思うのですが……すみません、どうしても、お願いします〉


 態度があまりにも真剣すぎる。

 トールはまだ通話相手が半分くらい河合の偽物ではという疑念を拭えなかったが、そういえばスガイダンジョンの入口で佐渡山課長と一緒に転がっていたな、と思い出す。もしかすると、ティアに助けられた礼でも言いたいのだろうか。


「あのー……礼とかなら、別に要らないっすよ。これまでの件の謝罪とかも、面倒くさ……あー……なんかすげー申し訳なさそうなのは伝わったんで」


〈いえ、その……礼も謝罪もあるのですけど、それとは別件で、お話が……〉


「そうなんすか。えーっと、俺の家、判り――いや、判らないか。この通話、個人端末からの通話っすよね? 家の住所送っておくんで、なんとなくダンジョンから出たくらいの時間にでも来てくれれば、話を聞きます。悪いっすけど、何時頃になるとかは、ちょっと判らないっすね」


〈ありがとうございます……! それでは、お待ちしていますので! その……数々の無礼、本当に申し訳ありませんでした。今後の配信も、がんばってください!〉


 通話相手が深々と頭を下げているのが、ありありと想像できた。

 それで通話は切れたが、はたして通話の相手は本当に河合咲穂だったのだろうか。未だにトールとしては半々くらいの疑問だった。


「どうしたの、トール? 変なもの食べたみたいな顔してるけど」


「あー……説明が面倒くさいけど、嫌な人が変な人になってた」


「トールの周りには変な人がいっぱいだねぇ」


 やれやれ、と苦笑するティアだったが、非常に残念ながらトールは鏡を持っていなかった。つけ加えるなら言説自体は否定し難いのがちょっとムカつくポイントだ。

 とりあえず着信元の番号へトールの住所を送っておく。あれで本当に偽物が出てきたら笑うよな、と思ったが、たぶん本当に笑うだろう。


「ま、いいや。悪いな、九条さん。こっちの用件で待たせた。さっさと出よう」


「ですわね。ところでトールニキ様、私たちと一緒の迷宮探索はいかがでしたか?」


「悪くなか……あー……いや、そうだな。楽しかったっす」


 嘘じゃない。おべっかでもない。

 仕事としてではなく、依頼されたからでもなく、断ったところでなんの問題もなかったはずの迷宮探索を、九条礼子に導かれて――楽しかった。


 魔物を倒すたびにいちいち喜ぶのも、戦いのことばかり考えて視聴者をまるで無視してしまいそれを突っ込まれているところも、トールの配信だというのに様々な視聴者があれこれコメントをしてくれたのも、九条礼子と一緒にボスと戦ったのも。

 トールにとっては、初めて感じる楽しさだった。


 かつて早坂透から全てを奪った『迷宮』に対する執着のような気持ちはまるで消えていないが……それでも、その『迷宮』を楽しむという気持ち自体は、わざわざ否定するものではないと思った。

 深刻そうな顔をしていようが、悲痛そうな様子だろうが、にこにこ笑っていようが――魔物を倒せば『迷宮暴走』を抑えられるのだ。どんな気持ちだろうが、効果は同じだ。最初から他人にああだこうだ言う気はなかったが、まさか自分が楽しめるだなんて思っていなかったので、トールとしては驚いてしまったが。


 結局のところ、やることは変わらないのだ。

 だったら『せいぜい(レッツ・)楽しみましょう(ロック・ベイビー)』でもいいじゃないか。


「ええ、そうでしょう! 迷宮とは楽しいものなのですわ!」


 両手を腰に当てて胸を張る『お嬢』に、思わず笑みを返してしまう。

 掃除屋をやって毎日百匹以上の魔物を潰していた頃は、別に楽しくなんてなかった。アンセムに同行したときは面倒なだけだった。

 今回楽しかったのは、彼女が楽しんでいたからだろう。今後も楽しいかどうかは、まだトールには判らないが。


「ニキさんニキさん、ちなみに金銭面ですが、たぶんアンセムからの報酬と竜鱗の買取額、クソほど安かったはずですから、あれを基準として考えちゃダメっすよ。まあ、夢みたいな高望みもしない方がいいっすけど」


 今はもうカメラを持っていない執事の丈一郎がそんなことを言い出す。


「あー……竜鱗が買い取り不可、みたいな話っすか」


「ええ。お嬢も言ってましたが、あのレベルの素材を正当に評価して値段を付けるシステムがないんすよ。引き取りで百万ってところですね。おそらく迷宮庁側で加工して、高位探索者に加工した装備を降ろします。ニキさんに装備が降ろされないってパターンのときは、たぶん別口で特別報酬が用意されるはずです。が、大した報酬じゃないんで、あまり期待しないでください」


「ややこしいっすね」


「激レア素材の扱いが面倒なんすよね。ぶっちゃけ、個人で加工できるやつに渡して自分で装備ゲットしてくれって思ってるはずっすよ。高位探索者だとそのパターンもまあまあ多いっすけど」


「はぁ……」


 脳裏に浮かんだのは板金屋のドワーフだったが、さすがにS級モンスターのレアドロップを加工する施設があるとも思えない。技術があるかどうかはさておき。


「今回のレアドロ、クマノイポーションなら迷宮庁での買い取りでも一億はいきますし、オークションに出せば、お嬢も言ってたけど五億六億もありえるっす。だから、まあ、金銭面では竜鱗ってのは運がなかったかも知れないっすね」


「へぇ……」


「その手のレアドロは迷宮庁に提出するより、個人で売買した方が高値になりやすいんすけど、個人売買にもある種の制限がかけられてます。だから、提出するのも実は悪いことばかりでもなくて、まずは手続きすれば特別減税措置を受けられます。特別な素材を迷宮庁に提出したからってことで。まあ、ニキさんの竜鱗の場合はアンセムを介してるからどうなってるか判らないっすけど」


 探索者ではなかった――未だ仮免許の――トールとしては興味深い話だったので、口を挟まず、とりあえず首肯を返して続きを促した。


「他にも、激レアじゃなくても素材やなんかを迷宮庁に提出した場合は探索者ランクの査定で有利になるし、探索者評価にも加点されるっすね。あれこれ融通利きやすくなるって感じ。逆に揉め事起こしたり迷宮庁への提出を全くしないような探索者は冷遇されます」


 たとえば未探索領域が存在する迷宮への探索依頼があったとき、手を挙げた探索者の中で評価が低い者は弾かれたりする、という。

 これは丈一郎によると公然の秘密だそうで、探索者のランクとは別に評価があり、炎上系の探索配信者などは場合によっては人気の迷宮への探索を制限されたりするらしい。不人気な迷宮などいくらでもあるし、掃除屋を必要としている迷宮だって、スガイダンジョンだけではない。


「A級探索者の魔核提出による年収だと、平均して一億くらいじゃないっすかね。まあ、B級以上からはレアドロの運次第でめっちゃ上振れしますけどね。あとは探索中に話してた謎解き迷宮(リドル・ダンジョン)なんかは価値が青天井なところがあるっすねぇ。ゴミみたいなのもあるっすけど」


「へぇ……」


 プロサッカー選手や野球選手に比べると、そこまで高いわけでもないのだな、と感じたが、しかし上振れを考えればそんなものかとも思った。


「まっ、本当の意味で迷宮産出物を自由経済に任せると、かなりヤバいことになるっつーのは北欧あたりが証明しちまいましたからねぇ。強烈なインフレが起きて、探索者に富と権力が集中して半無政府状態。インフレに耐えられなかった国民が国外脱出して、あっという間にインフラ崩壊。探索者と迷宮、そして迷宮産出物の価格をある程度のところまで国家が管理するようになったのは、しゃーないっすわ」


 執事に言わせれば、ほとんどの病気を治すクマノイポーションなど、本来であれば六百億の値段がついてもおかしくないという。そしてそういう『いくらでも金を積めば買える』状態を放っておくと、経済がぐちゃぐちゃになる。


「モノの価値は市場が決めるのだ、とかほざいてた経済評論家連中はなんの責任も取らないっすからね。『迷宮』からガンガン価値のあるものが出て来て、探索者って職業が生まれてもまだ既存の経済学を適用しようとして、パーっすよ」


 モラルで止められないなら、制度で止めるしかない、といったところか。


「迷宮産出物のオークションも国家運営っすし、かなり厳しい制限もあります。文句言うやつも、海外に逃げるやつも、今ではあんまり見なくなりましたねぇ。個人的な取引くらいまでが許される範疇で、市場を開こうもんなら即逮捕っすよ」


「世の中は探索者だけで出来ているわけじゃない、か」


 S級探索者もコンビニを使うし、ペットボトルのお茶を買う。

 四半世紀かけて、どうにか危ういバランスを取り続けている――といったところなのだろう。おそらくは、今も必死に。


「命懸けなのに割に合わない、探索者が国外に逃げる、国家予算を増やして探索者に還元するべきだ――なんて言い出す間抜けも、大分減りましたけどねぇ」


「へー……」


 さすがに暮らしていけないほどの薄給ならばともかく、魔核と迷宮産出物の収入を考えれば、そこまでひどい仕事でもない気はするが。

 まあ、それはトールが『迷宮』に対して個人的な思い入れがあるからそう思うのかも知れないが、この世界でそういう人物がトールだけと考えるのは、あまりにもおめでたいだろう。薄給でもやるやつは出てくる気がする。


 そもそも、だ。

 やりたくないならやらなきゃいい。


 現実として探索者という職業は人気があるのだ。どうしてもやりたくないやつにわざわざお願いするまでもなく、『割に合わない』はずの金で活動している。


 世界が異世界と融合して探索者という商売が生まれてから現在までの、その何処かの時点で、おそらくは社会と探索者の間である種の合意が形成されたのだ。ふわふわした曖昧なものではあるが、それでも。

 多少は割を食っても構わない。

 日常を維持してくれるなら――と。

 それが嫌なやつは、たぶんとっくに国外へ出たか、自浄作用が働いたか。


 もちろん、現状がベストではないのだろう。多かれ少なかれ文句は出るし不満も出るだろう。傍から見ればおかしいと思うような規則もあるはずだ。そういうのは、現在に至ってもなお調整中、ということだ。

 考えてみれば人類が完璧なシステムを構築できた試しなどないので、当然のことかも知れない。世界融合後の現在においては自由経済とかいうシステムは破綻を招きやすい、といったところか。


「トールニキ様。『連鎖迷宮暴走』の頃はともあれ、現在では探索者というものは、実はそこまで命懸けの職業でもありませんのよ。掃除屋をしていたトールニキ様なら実感できるのではと察しますが、今回私たちが撤退したように、安全マージンを確保するのが探索者なのですわ」


「ちなみに探索者の年間死者数は、全国の労災での死者数と、まあ同じくらいっすね。人口比を考えると探索者の方が危険ではある、って感じっす」


「まあ、プレス機に挟まれて死ぬやつとか、たまにニュースで聞くしなぁ」


「基本的にはイレギュラーとかアクシデントがなければ、よっぽどの莫迦以外は実力以上の階層に潜って死ぬなんてことはないっすね。もちろん探索者の怪我も死亡も労災認定されないんで、探索者用の保険、入っとく方がいいっすよ。自動車の自賠責みたいに、免許取った時点で強制加入されるやつもありますけど、魔核の提出時に報酬から天引きされるシステムになってます」


 そのイレギュラーとアクシデントが、よりにもよってトールの身近で起きたというわけだ。なんとも……なんと言えばいいのか、運が良いとは言いたくないし、悲劇だなんて悦に入るつもりもないが……ひどい偶然、とでもいうべきか。


「まあ、ボクがいる限りは、トールのことを死なせたりしないよ。回復魔法も使えるしね。腕の二、三本くらいなら全然へっちゃらだよ」


「腕は二本しかねーんだわ」


 思わずツッコんだが、別に冗談でもなんでもないのだろうな、と嘆息した。ティアにとってはその程度の負傷、どうということもないのではないか。

 かつて聖剣を振るっていたという勇者が、はたしてなにを相手に、どれくらいの死線をくぐり抜けてきたのかなんて、わざわざ想像したくもない。


 おまえはパフェでも食ってへらへら笑ってろよ、と思った。

 わざわざ言わなかったが。



◇◇◇



「それにしてもトールニキ様、今後はいかがなさるおつもりですの?」


 スガイダンジョンの二階まで戻ったあたりで、九条礼子がそんなことを言った。このあたりまで来るとD級下位の魔物しか現れず、仮に不意打ちで攻撃を食らったところで全く効かない、くらいの雑魚具合だ。


 つい数日前までは毛玉の体当たりを食らえばそれなりに痛かったと思うのだが、今のトールならば全く痛くないだろうと確信できる。

 魔力防御、というやつだ。

 ボス部屋の悪魔型もそうだったが、とにかくこの魔力防御を突破しなければまともにダメージが与えられない。


「あー……どうすかね。とりあえず、探索配信をすると思うっすけど、九条さんが言うように、俺の場合は好きにやった方がいい気がしてますね」


「好きに、と仰いますと?」


「ぶっちゃけそこまで金が欲しいわけでもねーんで……いや、まあ、金が要らないってほどには達観してないっすけど、できれば未探索領域のある迷宮とか、あんま人気のない迷宮の掃除とか、そういう方向がいいっつーか……」


 内心の思考の欠片を、欠片のまま取り出してみるも、いまいち上手く言葉にならない。これではまるで公共の奉仕者になりたがっているようだが、そういうことではないのだ。単純に――そう、もっと単純に、自己満足がしたい。


 偶然にしろ必然にしろ、悲劇にしろ喜劇にしろ、力を得た。

 そして力が有り余ってるやつが、隣にいる。


 だとすれば、せいぜい()()()()()()()()()()()をするべきだろう。

 なんとなく……そうできない予感はしているが。


「トールは人の役に立ちたいんだよね?」


 にこにこ笑いながら単純なことを言うティアだが、全く違うとも言い切れない。


「大抵の仕事は、誰かしらの役に立つから仕事として成立してるんだろ。それに、誰の役にも立ちたくありませんなんてやつ、そうそういねぇよ」


「一部の投資家あたりは誰の役にも立っていないかも知れませんわねぇ」


 おほほほ、と上品に笑う九条礼子。

 隣の執事もなにかしらツボに入ったのか、けらけらと笑っていた。


「……いや、そのジョークが通じるほど博学じゃねーんすよね」


「まあまあまあ。結局は一次産業が大事って話っすよ、ニキさん」


「金持ちの言うことは判んねーっす」


「おーっほっほっほ! トールニキ様、そんなところで判り合わずとも、私たちは共に拳を交えた仲ではありませんか。仲を深めるにはそれだけで十分ですわ!」


「あっ、今のは共闘したってことっすね。拳を交えた仲だと、殴り合った仲になっちゃうんで。お嬢はちょいちょい言葉のチョイスが莫迦なんです」


「……あー……そっすか」


 もう知ってるよ、とは言いにくかった。執事に直球で莫迦と言われた当人は、それでも気にせず楽しげに笑っていて、ほどなくしてティアとなにやら世間話を始めたので、まあいいかと思った。

 執事の丈一郎には「莫迦じゃないと思う」などと評されたが、トールの自己評価としては、自分は愚か者だ。

 どっかのエルフが言うように、俗物で、卑屈な、愚者だ。


 ……なんてこと考えているうちに、あっという間にスガイダンジョンの入口へ。

 四階から一階までは通い慣れた職場であり、目を瞑っていてもある程度は進めるかも知れないくらいに構造を把握している。


 入口から外が見えたあたりで、雨が降っているのに気づく。

 天気予報など確認していなかった。今日は朝からあれこれイベントが起きていて、それはたぶん、明日以降もそこまで変わらないような気がした。


 もう、毎日スガイダンジョンを掃除する日々は訪れないのだ。

 そこまで残念でもないが。


「ニキさん、ティアさん、傘ありますよ」


 執事が当たり前みたいにビニール傘を手渡してくれて、トールとティアはありがたく受け取った。見れば執事自身もビニール傘を差しながらスガイダンジョンを出るところ。九条礼子はきちんとした、やたら高そうな傘を差していたが、嫌な気持ちには全くならなかった。

 むしろこの雑で変な執事が、九条礼子のことが大好きであるという事実は、奇妙な話だがちょっと嬉しいような気分になる。


 そうして、外へ。

 おかしな光景が見えた。


 まず――地面から突き立った石の棘みたいなものが、何本も何本も連なって、空中に蕾みたいなものをつくっている。棘といっても一本一本が白樺の木くらいに太い。その棘同士にはわずかな隙間があり、誰かがそこに捕らえられているようだ。

 蕾というよりは、石の檻、なのだろうか。


 それから、ちょっと向こうには薄手の外套を羽織った神楽坂千鶴がいた。雨の中だというのに腰に刀を差していて、後の手入れが大変そうだな、と呑気なことを思う。


 さらにその向こうに――見知らぬ男女。

 革ジャンにハンチング帽のいかつい男と、長い黒髪の幽霊みたいな女。


「――あっ、魔族だ」


 本物の幽霊、ティアが中空を見上げて言った。そして当たり前のように背中に保持していた聖剣――鎧は着たままだったのだ――の柄を掴み、迷宮の中を歩いていたときと同じテンションで、


「あいつらすぐ逃げるから、ちょっとボコしておくね」


 と言って、せっかく渡された傘は結局差さずトールに手渡し、飛び出して行った。本当に文字通り、上空に固定されている石の檻へ。


 ……今日も濃い一日みたいだな、とトールは思った。




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― 新着の感想 ―
忘れ物あったから取りに帰るねレベルの対応で草
ちょっとコンビニレベルでボコられる推定魔族さんカワウソ
なるほど、こんな感じか ティア様々やな
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