問い
どれくらいの時間を掛けたか分からない。
グィさんとの話で僕の頭の中はまるで頭ではないかのように──突然すーっと開いたような感覚が開いたからだ。
本棚にあった様々な本。
そして、時間。
ただ、僕は一つの定義すべき問題と解決策を考えた。
少し刺激的かも知れないし、難しいと思うけれど。
ただ、今はそうじゃないといけないのだと僕は考えた。
⋯⋯南の頭は僕だ。
今だけかもしれない。
でも、やれる事をやろうではないかと。
僕の一番近い目標は、
"南にいるみんなが笑っていられる場を作ることだ"。
*
「よし」
準備が整った。
「エオ、こんな人を集めてどうしたんだ?」
壁に寄りかかるグラン。
外には全ての通りにいる半分以上の人間を集めた。
「ドン・ゴと似た夜の子はいるよね?」
と、グランは首根っこを掴んで僕の前に置く。
「こ、こんにちは⋯⋯」
「初めまして、エオだ。
今日はよろしくね」
大事な役目だ。
彼の力が今日という日において、重大な役目を担っている。
握手を交わし、僕はいよいよ表に向かう。
「⋯⋯⋯⋯」
歩いていると僕の目には、壁から、外へ。
見える世界。
それはダルそうに僕の登場を見守る姿。
──そうだよね。
別にみんな、僕のやり方に満足しているわけでも、賛同しているわけでもない。
どんな奴が頭になったのか⋯⋯それを見に来ているにすぎない。
ルンデルバーンの人たちには僕がどんな人なのかというのは通じているけれど、他はそうではない。
力で示すのは──僕のやり方ではない。
けれど、彼らにとっては大事な事。
それを間違えてはいけない。
僕が目指しているのは、戦いがなく笑って創る世界。
それを無理やり押し通すは違う。
けれど合わせるのも違う。
だから、考えた。
どうやったら彼らなりに理解を示してもらえるようにしながら、僕のやり方を納得してもらうように通すか。
みんなに理解をしてもらえるようにするか。
でも、やろうとしていることは力で通すに近い事だ。
けど、これを最初で最後の"キッカケ"にしたい。
「初めまして」
静かな広場で、僕の声だけが広がる。
「南、新しく、そして正式な決闘において頭となった⋯⋯エオだ」
反応はそれぞれ違う。
だけどそれでいい。
「今、南では様々な動きが同時に起こっている」
視界の端と端に映る、集団。
アレが⋯⋯恐らく。
「頭の僕としては、"欲しい"よりも"守りたい"ことが三つある」
全員の殺気以上恐れ未満の視線が刺さる。
これが頭になるということ。
──"恐れるな"。
「一つ目が、不用意な戦いを避ける事」
やはりどよめきが起こる。
しかも、かなり大きい。
「二つ目が女の子に対する扱いの優しさ」
またも大きいどよめき。
それでも、続けるしかない。
「三つ目が心の在り方について」
反応が悪い。
⋯⋯傾げているから、多分だけど意味が分からないんだろう。
僕だってハッキリ言わなければわからないと思うし。
「ハァ、これだから頭ってのは」
誰も口を開かない中、一人の声が僕に届く。
「是非話を」
問いかける。
すると、嗤って前へとやってくる。
「話?どんな?」
「何故そう思ったかについて」
努めて訊ねてみる。
「何故?
頭こそだぜ」
「僕が?」
「どうせモテねぇんだろ?
それを独り占めしようとしてんだろ?
みえみえだっての」
その言葉に近くの数人がそうだよなと言わんばかりに頷いているのが見える。
「モテないのは事実だと思います」
「ケッ!そうだと思ったぜ」
「でも──」
僕は待ったをかける。
「僕は貴方に──"独り占め"といつ言いましたか?」
「っ、」
「僕は扱いを優しくして欲しいという話をしたまでです。
──献上しろ、などと上から命令のように言った覚えはないよ」
「変わらねぇだろ!
そうやって女を集めようとしてんだろーが!」
「本当に?」
「当たり前だろぉが!」
「僕は話を通じて解決をしていきたいと思っているんだ。
だから、しっかりと理由と間違った思い込みで話すのをやめてほしい。
なので、独り占めという言葉を使わないでほしい」
「っ、てめぇ!」
「⋯⋯どうかな?」
周りにいるみんなに訊ねる。
「僕はそう言ったかな?」
反応は、多分だけど僕寄りなはず。
「お前、いくつだ?」
続けようとしたその時、違う場所から僕に訊ねる一人の人間が居た。
「まだ大人になって10年経ってないよ」
「今までの代理はな、暗黙の了解で独り占めしてたんだよ」
「なるほど、名前を聞いても?」
「ナルだ」
「よろしくね」
「あぁ」
慎重そうな笑い方をする。
頭が切れそうだ。
「僕は暗黙の了解を通すつもりは一切ないよ」
「ほう?」
「今日、僕がみんなに見せたかった物がある。
けれど、それだけだとただみんなが怯えて従っちゃうだけになってしまうから、先にみんなの反応と考え方を知りたいと思って、こうして話をしているんだ」
「風の話では聞いていたが、すげぇ変な頭だな」
腕を組んで隣にいる部下に何かを囁いている。
「それで?
力で俺達を従えない頭のアンタが目指す、守りたいものが今の三つか?」
「みんなが、全員が⋯⋯守れるようになれるかなぁ?と思うものをとりあえず言った、が正確な言葉かな」
「つまりこれからまだあるってことか?」
⋯⋯そこか。
「結論だけで言えばある。
けど、当分⋯⋯僕達が忘れる頃くらいは付ける予定はないよ」
少し頷いて、ナルは片頬を吊り上げる。
「それで?
俺達に対してアンタは何もするなと?」
「何もしない?」
「あぁ。
今の南には女、争い、食糧、この三つが主な娯楽だわな。
これが現状だ。
アンタが言ったのは戦わず、奪わず、女の扱い方を優しくしろ⋯⋯俺達から娯楽を奪うだけのクソだぞ。
それは理解しているのか?」
「勿論」
「それでここに居るやつらがはいそうですかと頷くと思ったとは思わねぇが、どう説明するつもりだ?」
ここだよね。
僕達の壁は。
「娯楽がそれしかないというのも問題だと思う。
けど、僕が言いたいのはもっと大きい話だ」
「大きい話?」
僕は、両手を広げて、一つの疑問を投げる。
「僕達は、何故奪うのでしょう?」
続ける。
「僕達は、何故大人になると夜が貰えるのでしょう?」
続けていく。
「僕達はなぜ、あの穴から落ちてくるんでしょうか」
投げ終わると、全員の顔が露骨に下へ下へと向く。
「最初のお兄さん。
そしてナル、答えられる?」
「奪うことに理由なんてあるかよ!」
「大人になると夜が貰えるのは?」
「力の為ためだろ!」
「では最後は?」
「⋯⋯知らねぇって!!」
そうして視線は、ナルへ。
「んー⋯⋯。
本当に変わっているな。
一つずつ行くと、奪う⋯⋯つまり、生きる為だ。
夜が貰えるのは生存の為だろう。
穴から落ちてくるのは、悪いが分からん」
丁寧に答えてくれたナル。
⋯⋯ありがたいなぁ。
「ありがとね。
助かるよ」
「礼なんて言われたのは久方ぶりだ」
「ナルが言ってくれたような、今言ってくれた理由がほとんどかな?」
周囲に投げかける。
反応はない。
「では、僕が今日言いたい事を少しずつ喋っていくよ」
そうして、僕はみんなの心に響くように。
僕は、少しずつ口を開いた。




