二人
「なぁ、エオはいつからああなんだ?」
十四番通り。
そこではいつもならば畑の準備を始めるエオたちの姿があるのだが。
──今日は違う。
机に腰掛け背中にある部屋を指差すグランと、念願の肉を食うニバの姿があった。
「なんかね、良い事思いついた!
って言って部屋から出てこないんだよ」
「はぁ?
そう言うがよ⋯⋯数日経ってるぜ?」
そう言って、グランはエオの閉じこもる部屋を見つめる。
「まぁ、アイツ最近思い詰めてたから、良いんだか悪いんだかな」
「それよりさ、これ!」
「あぁ?⋯⋯⋯⋯っ!」
グランの口に、無理やり何かを突っ込むニバ。
「無茶苦茶ウメェな、コレ」
「ガーマって言うんだって!
ドン・ゴが好んで食べてたんだって!」
「へぇ」
ドン・ゴというワードが出たからなのか、グランは少し俯いているようにも見えた。
「なに」
「ん?あぁ⋯⋯まぁあの時のことがよ」
「あの時?」
「ほら、アイツの最期の時の事だよ」
「あー⋯⋯」
ーーこういう奴はな、理想ばかり吐いて、お前たちのような凡人に物凄い負荷をかけてくる
二人の頭に同時に流れる⋯⋯言葉。
言わずともその心境が顔に出ている。
「アイツの意見、どう思う?」
「⋯⋯長生きしたんでしょ?」
「ん。まぁな」
「私は、別に誰が言うかは関係ない。
でも、長く生きた人の意見は大事にするべきだと思ってるから、アイツが言ったことも間違いではないんだと思う」
「間違いではない⋯⋯ねぇ」
出窓の外を見る。
グランの視線の先には、走り回る子供達の姿が見えた。
キャッキャと鬼ごっこをしている。
笑って、追いかける。
笑って、逃げる。
「でもよ」
「ん?」
「エオが頭になって後悔はねぇ」
「うん」
その二人には穏やかな風が流れる。
「エオ、思い詰めてないといいけど」
「そりゃ無理ってもんだろ。
女とまともに喋れねぇ弱男だ」
「そりゃ大事にしてくれてるんでしょ!
エオは女からモテモテだよ!?」
「本人に届いてねぇんだから実質モテてねぇようなもんだろ」
「じゃ、じゃあ!」
「だが今のアイツはそんなんじゃねぇからやめてやれ。
アイツは今、まさに何も知らねぇ自然を歩こうとしてる。
俺達凡人は、ただそれを見守ってりゃいい」
黙って、肉を一口食べる。
「私達⋯⋯もっとエオの為になれる事ってないのかな」
「ん?」
「だってさ、今もエオがいっぱい勉強してどうにかしようとしてるんでしょ?
私達もなんか出来るんじゃないかって!」
「何をやるんだよ」
「だからそれを聞いてるのさ」
「んー⋯⋯」
爪先でリズムを取りながらパラパラ言う天井を見上げるグラン。
「しいて言うなら」
その爪先は、ピタリと止まる。
「強くなる事じゃねぇの」
「強く?」
キョトンと見上げるニバ。
「アイツはなんていうか、なんか頭というか⋯⋯なんていうか、なんかもっと凄いモノになる才能みたいなものがあると思ってる」
「もっと凄いもの?」
「あぁ」
見下ろしながら頷くグラン。
「どういうの?」
「なんていうか、説明がむじぃんだよな。
頭で収まる人間ではねぇって気は割と昔からあんだよな」
「頭で収まらないってじゃあどこ!?」
「そら知らん」
「知らんのかいっ!」
「ちょっと肉くれ」
ねだるグランの口にまたも無理やり突っ込むニバ。
「お前はそうは思わねぇか?」
「んー⋯⋯」
「アイツは強い。
けど、昔はそうでもなかった。
だけど、アイツの隣にいると、どこか安心するというか、何かこう⋯⋯身体が燃えるような感覚がずっと生まれてんだよ」
「グランはエオが好きなんだ」
「俺は女が好きだ」
「返事早っ」
「でもよ」
少し間をおいて、グランは言う。
「あえて言うなら。
時代や状況がアイツの味方をしねぇってこともあるだろ?
たまたまベルさんっていうのがいて、その人が凄腕の人で、トリスさんが居て、そんな奇跡みてぇなことなんて起こるもんじゃねぇ」
「⋯⋯うん」
「アイツは言葉でこの南を変えようとしてる。
けど、アイツの思うように行かねぇことだってあるだろうよ。
だから、俺達が強くねぇとアイツの言葉に価値が出ねぇんじゃねぇかってこの間の集会で思ったんだ」
「それって、私達が強いから、その私達が凄いって言ってるエオがもっと凄く感じるってこと!?」
「⋯⋯あぁ。
お馬鹿なのによく分かったな」
「一言余計だよ!」
そんな二人の会話を遮るように、扉がガチャりと開く。
「あれ?二人ともどうしたの?」
「引きこもるなら早く言ってくれよ。
心配したぞ」
「あぁ⋯⋯ごめんごめん」
後頭部に手を置いてペコペコ謝るエオ。
「⋯⋯それで?
その引き込もった甲斐があった成果はあったか?」
「そうなんだ!」
まるで聞いてくれと言わんばかりに、エオは机に並べる。
「なんだこれ」
──それはね!




