閑話:世界には早すぎた"九星"の"超越者"の手記(Vol.1)
※の意味は、この世界の言葉です
*
人生で初めて夜を感じた時の事はよく覚えている。
今では慣れているつもりである。
⋯⋯が、しかし。
最初の時に思った事は──"不快"であった。
「お、お前は⋯⋯なんだ?」
「何が⋯⋯と、申しますと?」
「どうして誰も何もしていないのにもかかわらず、勉学に優れ、知らない夜の知識まで認知し、制御、質、指向性⋯⋯どれも私が見てきた中でも天外の域に至っているのだ?」
話している口調、仕草、表情。
どれをとっても分かる⋯⋯目の前の父上から感じる──畏怖と恐怖。
「私は今まで多くの人間を見てきた。
だが、だが⋯⋯お前だけだ。
まるで人間ではない」
瞳孔の揺れ、心肺の動き。
どれをとっても明らかな不信。
「父上」
努めて私は、語りかける。
「私は、」
誰もが私を見つめる。
「私は、今の世界が造られたおかしな世界に見えるのです」
「な、何?」
天井に描かれているこの世界の分断を描いた絵画。
優雅な暮らしを描いている左側と比較して、右側で阿鼻叫喚と化しているゲビヒンたちの叫び。
作者はスタッヒィン⋯⋯ロゼ家の者だったかな。
「人間とはなんですか」
「⋯⋯こ、この期に及んで」
「父上、私はどうなろうと構いません」
「──べリエル家の者が軽々しく言い放って良い言葉ではない!!」
「⋯⋯はい」
「っ、」
何も湧いてこない。
これが家族なのだろうか?
※独真活殺という言葉がある。
異質で名著であられるかの人間の本にはこう書かれていた。
【真に優れている者は自身の機微に疎いと書かれていた】
そうなのだろうか。
それとも、あの存在の言う私の"球"とやらが分かればよいのだろうか。
私は、目の前の父上の言葉になんの感情も動かされない。
どんな言葉を並べられても、ぶつけられても。
ただ──不思議と。
「この世界は本来、美しいもののはずです」
そうだ。
「風があり、水があり、土がある。
生に満ちた素晴らしい世界であります」
そう。
「しかし、私達人間が⋯⋯人間がこの美しい世界を汚しています」
「⋯⋯っ」
「一番邪魔であるのは私達です。
それをなぜ、堂々と、公然と発されるのかが私には理解できません」
人が、全てを汚している。
恐らく、本来、人というのは自然と共存してもっと生を満たす為の存在だと感じている。
でもそれだけで生きられない。
力がないからだ。
知略だけでは限度がある。
"⋯⋯その為の夜ではないか?"
私が辿り着いた一つの結論だった。
「私達がやるべきことは、人を嗤うのではなく、笑われながらも世界を生で満たし、自然を笑わせるのが必要であります」
一度も吐露しなかった私の気持ち。
止まらない。
この時の私はそのまま進んでしまった。
「私達貴族は何を胸を張るべきなのでしょうか?
碌でもない非情な行いなのでしょうか?
それとも人の上に立ち、全てを得られる全能感に酔いたいからでしょうか?
力の誇示でしょうか?
──違います。
私が描いているのは、全ての人間が生に満ちた楽園です。
そこに貴族とゲビヒンの差はありません。
そこにはただ、人間が存在しているのみです。
各々が全ての線を辿り、自然を豊かにして力を満たす。
⋯⋯そうして次代へ繋ぐ為の。
それを導く者⋯⋯それが、貴族のあるべき姿であり、私が必要な理由だと感じます」
直後だった。
私は拘束された。
おそらく父上の配下の者達の夜であろう。
だが私は特別抵抗すらしない。
にも関わらず、彼らは慄いている。
「い、異端だ⋯⋯!」
「──反逆者だ!」
抵抗すれば、この鎖を壊せる。
だが彼らはそれを理解すらしていない。
「追放する!!」
「ペトーの広場だ!」
発狂している。
連鎖的に。衝動的に。
なんなのだろう?
彼らは"何を恐れ"ているのだろうか。
外で何か彼らが捲し立てている。
しかし私には関係ない。
「はじめまして」
私の前にソロリとやってくる、獣。
獰猛だ。
知っている。
ここにいる獣は、処刑用であるということを。
「私はどうやら要らないらしい」
自嘲しなければならない。
「見てくれ」
手も、
足も、拘束されている。
そして、見上げる。
「あのような貴族が存在してはならない!!」
「あの異端児をここで潰さねば!!」
視線は戻り、獣たちに帰る。
「君たちも辛いね」
すると彼らの動きが止まった。
「どうしたんだい?
食べてもいいよ」
私には、今の世界がどれも紛いモノに見える。
空も、土も、川も、森も、海も、空気も、全てのモノがだ。
あの二年で私の中に眠る何かが噴き出してしまったのだろう。
たった二年。
周期的な数である。
しかし。
それだけでここまで人が変わるのも面白いと感じる。
【人生とは真っ直ぐ進む散歩である】。
やはりデバノ卿の書物は面白い。
最期の日。
私はただ、まるで世界が心を痛めるかのような呪曜の空を見上げて、死を悟った。
苦しみも感じぬ。
辛さもない。
嬉しいもない。
怒りもなく。
ただ、私は愛した。
眼前の獣を。
「肚を空かしているのだろう?」
唸り声をあげる。
しかし私は続ける。
「私達人間が迷惑をかけてしまったね」
彼らにも生活がある。
営みがある。
本来ならば彼らの生きる世界というものがある。
それを私達の理由でここに閉じ込め、理を消失させ、果てには嘲笑を向けるなどと⋯⋯なんと。
「※地恥生人ではないか」
地を愛さず、ただ己の為に生きる私達に、何を誇れというのだ。
ただ、私は向かい合った。
しかし。
「どうしたんだい、ここに肉がある」
彼らはその場で"跪いた"のだ。
理などとうに無くしたはず。
貴族も驚いている。
誰もが、この状況を理解すら出来ない。
⋯⋯もちろん、この私ですらも。
「生存には必要なことである。
故、遠慮する必要はない」
猛獣は、誰一人駆けることなく、跪くことを辞めない。
「すまないね。
気を遣わせてしまったようだ」
──その時だった。
世界が、降った感覚。
太い剛の塊が降っては地に穴を開けた。
凄まじい轟音。
それが落雷というのに、数秒遅れた。
「君たちの誇り⋯⋯我が名を持って生涯忘れることはないだろう」
落ちた。
落ちていく。
彼らの誇りと共に。
終ーー後書き
この手記はまだまだある。
区切りが多いから、章ごとに訊ねている。
この手記を⋯⋯幽冥な運命を通して手にした貴殿に問いたい。
感想が聞けない私であるから想像でしか語れないのが悲しく思う。
何を感じたのかは万物の道ほどあるだろう。
生きとし生けるもの総て⋯⋯輝き、生の為に存在していると、まだ若い身であるがそう感じている。
其方はどう思う?
少し語ろう。
人間という存在はその在り方が大事である。
道は一つではない。
しかし、最終的な道は一つである。
生涯を通した手記は数多くある。
何故ならこれから書き続けるからである。
星天道外神。
世界には貴族を神とする者がいる。
神を自称する者がいる。
神を創り、人間を集める者がいる。
だが、どれも違う。
本物であれば、名乗らない?
⋯⋯そうではない。
あえて言うならば、本物など存在しない。
究極的に答えるのであれば、
──私達が"神"である。
なぜなら、私達は反省し進むことができるからだ。
では人間の犯す禁忌とは何か?
それは、
間違いに気付きながら死の瞬間までその間違いに気付かないことにある。
人間という存在は間違う。
至極に当たり前である。
私達は日々誰かの失敗を支えているのである。
冥の掟は二質にある。
常に因と果が存在しているのである。
⋯⋯これを基準にして我々は思考するべきなのである。
人という存在には言語というものがある。
成功という言葉があり、失敗という対極な言葉があるではないか。
つまりは因と果という二つの性質を説明している。
全ての事柄には因があり、その答えが果である。
偶然、運命。
全ての物事には二質が有る。
運命というのは、運命ではなく──必然である。
私は光を知らぬ。
故に、黒と白という対極があるらしいのだが、これも何か意味があるのであろう。
白とはなんだろう?
気になるところではあるが、今は逸れてしまうな。
失敗を支える者が居て、成功を支える者が居る。
複雑極まりないこの生命活動と我々の道は故に──一つの道へと繋がっているのである。
ある者が私にこう言った。
"本当に神がいるのであれば、悪事を見過ごす訳がなかろう"
一見理解できる言葉であるが、これに対して私の結論が既にある。
それは、
悪事を働く理由とその因と果があるのである。
それなのだから安易に行動や言動に対して良い悪いで物事を判別する事を私は勧めないのである。
行動に対して怒りや悲しみを感じるのは当たり前である。
しかしその自由すらもこの世界、冥深の存在である者たちは試しているのである。
──お前たちに出来るのか、とな。
人間は自由になりたい、という欲で生きている。
私は、既に人間の言語で言うならば、離れている側に進んでしまっているから必要がなくなっているが、言うならば自由になりたくば自他を愛せなければ自由は増えないのである事が私から述べる結論とする。
世にこのような娯楽がないのだから、こういうモノを読めるようになる子らが居るのであれば幸いだ。
自由とは楽道に見えるが難解であるから、気を付けるように。
これを手にする其方がこれからやらねばならぬ事は、まずは世を感じる所からである。
世を感じ、其方の中にある理を探すと良い。
そしてそれを感じて、言葉にすると尚良い。
誰かに勧めるのも良い。
人の生は長い。
我々は間違いだらけの歩みを続けるのだから、終る頃には私の言っている事の意味が自ずと理解できるだろう。
エデン・リアスマリア・ラスオブ・べリエル。
15歳時の手記であることをここに証明す。




