閑話:世界には早すぎた"九星"の"超越者"の手記(Vol.1)
私の謹慎が終わる頃。
周りからすれば大変な事に、私の元々あった思考と疑問。
──そして。
ーー其方は人の在り方についてどう思う?
ーー何故この世界はこうなっていると思う?
ーーゲビヒンと其方達の違いとは?
ーー魂とはなんだ?
ーー夜とはなんだ?
止まらない夢の存在。
そんな存在から喧しさのある言葉の激流とも呼ぶべき情報の山が日々送られてくるのである。
何よりも驚くべきは、情報の山が増えた機は、実に一人きりになった途端である。
さすがの私も、私に何を求めているのか⋯⋯少し気にもなるものだ。
だから私は念じた。
"何か求めているのか。
ならばそのカケラ程の情報を教えてくれ"、とな。
ーーそれは其方の球となるものが知っている
そして一晩開けた返答がこれである。
ふむ。
何を言っているのかがさっぱりである。
最初こそ易しい教えや答えであったのだが、今では喧しさに加え、難解な事ばかり主張してくる。
遂には説教の嵐が始まるのである。
ーー悪とはなんであるだろうか、今一度考えよ
知らぬ。
ーー貴族とはなんだ
それも知らぬ。
ーーこのまま不変の世となるのか?
そうであろう?
誰も変えようとはしていないのだから。
⋯⋯こんな語りと私の答えが混ぜ合わさって早二年である。
さすがの私も聞きたくもなる。
「なぜ私なのか」
しかし返答はない。
こういう時だけ返答がないとは些か私の苛立ちも理解できると信じたい。
だがしかし。
そんな喧しい存在ではあるが、とても大切な事は数え切れないほど教わった。
それは"親よりも"──である。
であるから私は、教えを避けようなどとは思わない。
大切な師である事に違いはないからだ。
私に専属で付いた夜の師であるかの有名な貴族の子らに指導しているカイヘルマンよりも優れ、歴史学に詳しいエイゲルよりも優れた上に詳細な事を何故か記憶していて、かつ的確な答えをくれるのだ。
最早私にとって、この存在は親であり師であり、教鞭の者である。
さすがにここまでお膳立てをされては、私も言い訳が効かないことである事は理解できるだろう?
だが、そんな私にも、転機が訪れる。
一大事件、か。
****
「エデン、そろそろお前も理解を変えるべきだ」
朝食時。
父上は突如として私にそう言い放ってくる。
「なんの事でしょうか」
顎でしゃくる父上。
すると私の足元に一人のゲビヒンの男が四つん這いにされている。
「⋯⋯なんのつもりですか」
明らかに私に対して何かを"矯正"しようとしている事は容易に理解できた。
それも、私に最も効果的な手法で。
⋯⋯頭が下がる思いだ。
──非常に不快極まりない。
「お前の態度は貴族として"目に余る"」
"目に余る"⋯⋯か。
「その表情を見ればすぐに分かる。
この間学術院で優秀な成績を収めたようだが、ゲビヒンに関して重大な失点があったと聞いている」
細かいことはあれど、私はアレに耐えうるほど人間に向いていないらしい。
「おかしな話ですか」
「くどい」
短く、低い一喝。
そして、夜を顕わにして、父上は私を威圧しようとする。
「父上は答えを持たぬまま慣例に従い、その生涯を全うしようとしているのですか?」
「優秀で容姿に恵まれたからと次期当主の座が継げると思っているのか?」
⋯⋯そうか。
なるほど。
父上なりに考えていたのであるか。
「ならば二番目の子に渡してもらっても構いません」
今もそうだが、あの時も──夢の存在も面白い事に私を"矯正"しようとしていた。
というのも、いつも二択を迫ってくるのだ。
やろうとした事、思った事に対して、
⋯⋯"本当にそれでいいのか?と。
そしてしきりに、
"人とはその受容量によって質と夜さえも変わると"。
──人であるならば感情を制御せよ。
──欲を禁ずるのではなく、制御して慎重に開放せよ。
──肉体を理解せよ。
──そして己を理解しろ。
こればかり私に放ってくるのだ。
いや、最早投げてきているだけに近いか。
「⋯⋯なんだと?」
凍りついている父上の眉が動く。
きっと。
きっとそうであろう。
「私の下には7人の兄弟がおりますが、私だけ似ていないようです」
この世に産まれてきてから一度も、自分がこの家の家族だとも、大切だとも、全く思ってはいなかった。
まるで造られたモノのようで。
全てが構成されているようで。
不思議と疎外感を感じていたのはそのせいなのか。
「貴族としての責務だ」
「責務ですか。
では疑問も晴らせずただ次期当主の座を握るのであれば、私は必要ありません。
失礼ながら、私が口煩いと全員が仰りますが、煩いのではなく、意見を申し上げておりますのでそこをお間違いいただかないようにお願いいたします。
ゲビヒンに関して、私に対して誰一人まともな、端的にでも返答を貰ったことがありませんでしたので、私は──」
「我々が貴族であることが一番の理由だ」
遮ってまで言い放つことがただの思考放棄であり、自分の意見を押し通したい事はすぐに分かる。
「であれば、辞退します」
実際、他の兄弟は次期当主になりたがっているのであるのだから。
「だが、」
「⋯⋯?」
「そのゲビヒンは罪を犯した。
──処しなさい」
「んー!んー!」
見下ろす。
拘束されている彼の顔からは罪を全く感じない。
私は顔を上げて訊く。
「なんの罪でしょうか」
「不敬罪だ」
「なんの言葉を用いて不敬な言葉を⋯⋯」
「くどい、やれと言ったらやれ」
「処理事由がないので訊いているまで──」
その時。
明らかな殺意が後ろの首筋を狙っていることが分かる。
私はその視線をただ向けただけ。
「⋯⋯っ!!!」
夜の槍が、殺意の元凶に刺さる。
落ちてきた服には父上の印章付き。
「父上」
全員が、私を見て何か別のものを見るように私を見る。
「もう一度聞きます」
ただ、ただ。
「処理事由は」
⋯⋯不快である。
「なんですか」




