閑話:世界には早すぎた"九星"の"超越者"の手記(Vol.1)
ーー破心情勢。
「⋯⋯んー」
ーー衆万世拳願。
「んー⋯⋯ぁ?」
私が12歳になる頃だ。
始まったのは9歳くらいからの事ではあるのだが。
"毎晩夢で知りもしない声で"言葉"と"文字"が浮かんでくる"
「んー、どういう意味なんだろうか?」
不思議と不快ではなく、私はそのままの言葉を手記に書き記すようになった。
⋯⋯今はわかるが。
だが意味は分からないのだが、この夢が続くとなんとなく同じ意味だと分かるような感覚だけは伝わってくる。
「私に何を求めているんだ?」
ある時は誰かの動き方。
ある時は誰かの戦い方。
ある時は普通なら知らないような情報。
幼少から"夜が使える貴族"は、既にゲビヒンよりも優れているのだとか。
彼らは理由は知らぬが今の私と同じ歳の状態で降ってくるらしい。
⋯⋯全く意味が分からない。
一体なんの話をしているんだ?
「ぼっちゃま」
そんな中、私の服を着せるセーランに訊ねる。
「セーラン、今日の予定は?」
「本日はヒョジョンお嬢様との縁談がございます」
機が良かったのか。
この時の私はあまり乗り気ではなかった。
彼女は家格は高いものの、素行はとても良いとは思えない。
「ぼっちゃま」
鏡を見つめるとセーランが自身の頬に指を当てて笑ってと伝えてくる。
「笑った方が人生得ですよ!」
「⋯⋯ふっ、そうだな」
「ぼっちゃまは笑っている方が大変綺麗でございます」
セーランは変わらない。
星のように私が困っていれば手を差し伸べ、必要の無いときは何もしない。
「セーランはなぜ貴族ではないのだろうか」
ふとした言動だった。
セーランのような人間が貴族であるべきで、あのような矮小な器の女はさっさと消えればよい。
するとセーランは辺りを見回して恐れているようだった。
「ぼっちゃま⋯⋯!
誰かに聞かれてたら、私が死んでしまいます!」
「ハハハハ。
一体なぜ?
次期当主の私の専属メイドが?」
「ぼっちゃまは貴族の恐ろしさを知らないのです」
聞けば昔に少しの嫉妬で切られたメイドや""資源""が大量にあったのだとか。
「知らぬ。
なんの許可もなしにセーランは死なぬ」
髪を梳かすセーランの腕が止まる。
「⋯⋯私はぼっちゃまが大人になってくださるだけで生きたかいがあります」
私達には不思議な繋がりがあったのだろう。
いつしか密な話をセーランとだけは交わしていたのだ。
*
「聞いてくださいますか!?」
「勿論」
なんてつまらないのだ。
女を知っているのは身近なセーランだけなのだが。
「エスコートが下手で仕方ありませんの!」
こんなに人を見下し。
「ゲビヒンの男なんて3000以上も廃棄しましたわ!」
こんなにも、差別意識があるとは。
何度目かの会話。
「何をなさったのですか?」
「ゲビヒンに少し催しをやらせましたの。
そしたらまぁありきたりなものを見せてくるからですわ!」
「⋯⋯指定がないからでは?」
やらせるのだとすれば何か工夫が必要では──
「ゲビヒンにそんな必要はありません。
要らないのであれば即座に捨てるのが"義務"ですわっ!」
私のナニカが。
──許さなかった。
「⋯⋯っ!!」
「失礼」
貴族の子供といえば強力な夜を保有すること。
そしてそれを容易にする身体操作。
どうやら私はその才が他とは比べ物にはならないほど優れている"らしい"。
「⋯⋯⋯⋯」
"不快"──。
この時私のナニカがまた動く。
無意識に発した夜の威。
目の前に泡を吹いて倒れる彼女を放置し、家に戻った。
*
「どういうつもりだ!!!」
机を叩き、私に怒鳴りつける父上と静観する母上。
「どういう⋯⋯とは」
「黙って聞いていれば良いものを⋯⋯!
それに、以前から気にはなっていたが、ゲビヒンとは最低限にしろと言ったはずだ!」
「ならば廃棄などと言うのはなぜですか?」
「そういうものなのだ!」
「そういうもの?
彼らは感情があって、思考する事が出来ます。
それを人ではないというのは問題があると思います」
「っ、父に意見するつもりか?」
「いえ、納得出来たのなら引き下がりますが、私は納得出来ていません。
父上の人間の定義とはなんですか」
私のいけないところなのだろう。
納得出来ない事に頷けない。
既にこういう事がいくつもあったのか、父上の顔色が酷い。
「もういい!
⋯⋯貴族令、謹慎だ!」
檻の中に入り、私は食がないまま暗闇の中で過ごした。
だが、好都合。
ーー万世ノ道誤道有、煌道十二宮迄
暗闇。
何も見えない中での私の集中は極限まで伸び。
そのせいか遂には寝ていないのにも関わらず地べたに座る私に常時声が聞こえるようになった。
──以前にも増して。
ーー唱えよ、さらば与えん。
「譲聖近人ノ夜明⋯⋯」
冷静に考えれば、一度も疑うことのない私もまた、おかしな話ではある。
しかしながら一度として疑う事はなく。
「神人至道権蔵ノ中、冥有也」
ふむ。
やはり唱えると全身が響くのを感じる。
夜が、肉体が、
これでもかというほど更に強化されているような感覚さえあるのだ。
ーー右、上、拳、呼吸
ーーそうではない
ーー心が入りすぎだ。
半冥半現。
ーー忘れるでない。
人の身で力を得るには常に半分で良い。
父上の怒りが静まるのには二年近い時間がかかった。
さすがの父上も食と水を与えないのは死んでしまう恐れがあったのか、途中からは最低限の食を置いてくれていた。
そして謹慎終盤。
終いには私に動き方を何故か教えてくれる存在を感じるようになった。
どれだけの時間が経ったか分からない。
今考えれば、この時間は家族にとってはあってはいけない時間だったと、私からすればそう思う。
明確に私の確固たる精神と土台が出来たのだから。




