閑話:世界には早すぎた"九星"の"超越者"の手記(Vol.1)
皆遅れてごめんなちゃい。
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幼少の記憶というものはあまりないが、私は少し人と違う生まれらしい事を知った。
「当主様!!
マリア夫人様が!」
「何?すぐに向かう」
父が私の産まれた部屋に向かう。
「ぉギャァ!ぉギャァ!」
「これが、"本当の子供"⋯⋯なのか」
抱き上げ、とても笑わない人とは思わないような穏やかな顔。
私の父の名前はリアス・ラインアリアンナ・リベルタス・べリエル。
我が家であるべリエル家は、十三族の中でも地位が高い家格だった。
「アナタ⋯⋯」
「マリア、今日は歴史でも類をみない呪いの日だ。
しかし、今日ばかりは祝わないといけないな」
母の名前は、
"マリア・ダージャラオス・ドルムント・ロゼ"。
十三族のロゼ家の生まれである貴族だ。
家格は勿論高い。
私は、大変丁寧に育てられたと記憶している。
「エデンぼっちゃま!!」
「ねぇ、セーラン!」
私の家は貴族としては当たり前だが、とても大きい。
使用人は数千人規模で配置されており、専用の領域を持っている。
「ねぇ!」
私の視線に合わせるためセーランは屈む。
「ここってどうなってるの?」
「ここは十三領界でございます」
「りょうかい?」
「十三族の祖先様には"強力な夜"と"異質な異能"というものを保有していまして、それらを子孫に伝えるべく残したとされる場所のことでございます」
「夜とは違うの?」
「はい。
夜とは隔絶されたモノのようです。
しかしぼっちゃまとは違い、私ども"ゲビヒン"はその様なモノと聞くことも問うこともいけません」
私はその時、いや。
この時既に──言葉には出来ないものの、自分と他人。
貴族とゲビヒンという格差がある事を本能的に理解していた。
⋯⋯そしてその差を。
「でもおかしいよね?」
「ど、どうされましたか?」
「セーランは"何処"から来たの?」
「あ、えーっと⋯⋯」
困っている様子のセーランを見て、私は更に困惑する。
「僕は"どうやって産まれたの"?」
「へっ?
そ、それはその⋯⋯当主様とその奥方様が」
「そしたらセーランは?」
「恵みの穴です」
「ゲベルゲート⋯⋯でも、そしたら僕が産まれたのは母上のお腹だとしたら穴から産まれるのはおかしいよね?」
気になった事は意地でも知りたい質なのは幼少からだったのだろう。
「父上!」
「おー!エデン!」
「セーランがねっ!」
私は説明する。
途中恐らく何を話して良くて何が駄目なのかを判別しながら。
「セーラン、下がりなさい」
父上が静かにそう努めて優しい口調で告げると、セーランがお辞儀をしていなくなる。
「え、セーランも聞こうよ」
「いいか?エデン」
私の手を止める。
そして扉の締まる音が聞こえると。
「ゲビヒンに余計な感情は抱かない、いいね?」
⋯⋯きっと、この時からだろう。
私は、死ぬその最期まで、引くことを知らないであろうと感覚があったのは。
「なんで?」
「世は私達が"人間"で、奴らは下等生物だ」
「でもセーランは人間だよ?」
「私達とは違う」
「なんで?」
「奴らは恵みの穴から落ちてくる。
しかし私達は”私達”で子供を作るからだ」
「作る?」
父上なりに言葉を選んでいるようだった。
だが次第に、その意味は分かるようになる。
貴族は通常の人間とは別格の器と肉体、そして強力で質の良い夜を保有していることから、交わるとその夜が共鳴反応を起こすらしい。
そうすると女が"妊娠"という構成された動きをするようなのだ。
まだ幼い私に、まぐわう事を伝えられず遠回しな理屈で流された。
「でも、だからといって、ゲビヒンの人たちを悪い風に見るのはなんで?」
「そういう物だ」
私の疑問にその後ずっとそういう物だと主張する父上。
だが、私は理解できなかった。
「セーランっ!」
「⋯⋯ぼっちゃま」
抱きついてみる。
セーランは女であるから、胸は膨らんでいる。
しかし、その奥から感じるこの音。
「うん、セーランは僕達と変わらない」
「一体どうなさったのですか?」
食事、排泄、勉学、趣味、読書。
どれもそう。
ゲビヒンの人たちはまるでモノのように扱われる。
それがどうしても理解できない。
「なんでぶつんだろう?
なんで、蹴るんだろう?」
「っ、」
その時、私が初めて⋯⋯人としての本当の彼女が私を見た気がしたのだ。
「なんでだろう?」
「⋯⋯ぼっちゃま」
見上げると、泣いている。
「なんで泣くの?」
私はただ呟いただけだ。
遠くで行われている凄惨な場を見て、他の兄弟たちは笑っている。
笑って、自らが叩いて、腰を振り、髪を引っ張り、蹴り、殴り、叫んでいるのを見て笑っているのだ。
どうにも分からない。
そんな私を見て泣いているのだ。
「どうか⋯⋯」
溢れている涙が増えていく。
ポツン、ポツンと。
「どうかぼっちゃまは⋯⋯そのままで居てくださいませ」
セーランのその姿を見た私はその時、このままではいけないのだと強く──そして、"やらねばならないもの"なのだと全身がまるで自分のものではないかのように刺激が走ったのだ。
この時から、私の運命は決まっていたものかもしれないと、まだ今でも幼い私は後になって思う。
執筆している今の私も。




