やるべき事
「エオー、こっちは準備出来たぜ」
「うん」
通りを見下ろす。
風を浴びるけど、前とは違う。
今は悲しい気持ちでいっぱいだ。
たった数日で、もう感覚が懐かしい。
「先生、ベルさん」
ベルさんがどうなったのかは僕にも全く分からない。
⋯⋯けど。
「避難所に本があったから」
そう、きっと。
きっと⋯⋯何かしらの方法で生き残ってるんだって信じる。
例え居なくても、貴方に教えてもらった事を必ず後世に残します。
貴方の浪漫と、
振り返る僕の目に映る⋯⋯人々。
"貴方の残したこの組織を"。
「今行く」
──僕が今度は引き継ぎます。
*
「⋯⋯ウル」
かつてそこは畑だった場所。
そこで僕は、チェシェ達に信じられないものを見せられた。
「死人に近かったですが、間に合いました」
そこには、完全に元通りのウルの姿。
「⋯⋯良かった」
心からの感謝を。
「──ありがとう」
横にいるチェシェを見て、僕は伝える。
「いえ」
「ありがとうね、ウル」
「うんうん!!
エオが居なかったら、俺達とっくに⋯⋯」
握り締める拳。
僕だけじゃない。
⋯⋯みんな、成長していくんだ。
「頑張ろう、この南を⋯⋯誰よりも笑える場所にするんだ」
そう。
でも、その為には必要なモノがある。
「やる事は多いよね」
⋯⋯間違いなくこれから大変になる。
「まずは、全員の食糧からだね」
「どうなさるつもりですか?」
チェシェを先頭に元ルンデルバーンの幹部たちからの視線が集まる。
そりゃあ⋯⋯勿論──。
「畑を作る」
「畑を⋯⋯?」
新しく入ってきたチェシェ達には全くわからない話だ。
隣を見るとグランたちが腰に手を当てて大笑いしている。
「はー。
んで、頭」
こっちを見たグランにちょうど良く、風が吹く。
「俺達に、指示をくれ」
ふふっ。
グランにそんな事を言われる日が来るなんて⋯⋯思わなかったな。
「まだ残っている畑はどう?」
「エオ、まだあるよ!」
子供達が数えてくれたみたいだ。
んー。全員分とは行かないけど、始められるか。
「僕も知らないといけないことが多いからまだなんともだよねぇ」
「その辺りは私達がお話出来ます」
「戦力方面も既に元頭候補のリオンと話はしていたから行ける」
「助かるよ。
僕はまだまだ知らないことが多いんだ」
全部では無いにしろ、情報がある事は最大限利用させてもらおう。
リオン、ラオン。
それに。
エンにベルさん、先生。
⋯⋯見てて。
「お堅い情報は後回しだぜ?」
ケイに親指で見ろと言ってくる。
「そうだね」
僕は笑って、数百人が並ぶ前にしっかりと立つ。
⋯⋯見えるは、これから全ての未来と戦う子供たちだ。
僕はそう思っている。
「何を話そうかな⋯⋯そうだね」
寝てから今まで、何か考えておくべきだと思ったんだけど。
「こんな景色を見れる日が来るとは⋯⋯正直思っていませんでした」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「ただ、僕がやりたかったのは。
そう」
一人一人。
全員を見つめ。
「今のみんなは、飢えている」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「奪おうとしている」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「考える事を捨てている」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「そうじゃないですか?」
返ってくるのは、沈黙。
見ながら、少し、歩く。
「そりゃあそうですよね。
既に縛りを受けて、未来もない生活をしなければならない。
女は碌でもない使われ方をして、男も碌でもないことにしか使われませんから。
でも──」
足を止める。
⋯⋯真正面。
全員に向かって、僕は言う。
「これからはそうはさせません」
数人の顔が上がり、僕に向いた。
「僕の夢。
そして、やりたい事は最初から⋯⋯そう」
──みんながみんな、やりたい事をやる事です。
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
表情は変わらない。
けれど視線が、ズレていた視線が、僕に集まる。
「食べ物を作りました。
頭に盗られます。
でも、考えてください。
みんなで作って、みんなで送りあえれば⋯⋯それは、あげる、です」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「そうしていればいつか、心に余裕が出来ます。
そうすれば、飢えなくなります。
他人から盗ろうと思わなくなります。
戦わなくてよい。
ただ、その一部を僕にくださるだけで十分です。
僕が作りたい世界は、みんなが送り合う創の世です」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「何言ってんだと思われるかもしれません。
しかし、その答えはみんなの目の前にいる僕が──」
ジリジリ、と。
僕の夜が溢れだす。
「必ず──皆さんを笑わせます。
必ず──皆さんをお腹いっぱい食べさせます。
ですが、僕に足りないものはそう、お腹いっぱいと同じくらいあります。
今回の戦いで気づきました。
戦力が少ない事の選択の無さ。
戦闘経験のなさ。
どれも必要なことばかりだ」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「世を知らないのも問題です。
正しい知識を知らない。
ですから、自分には何もない⋯⋯そんな風に思うことはありません」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「夜というものは、必ず⋯⋯皆さんに贈り物をしてくださっていると、僕は信じています」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
「時間はかかります。
それは許してください。
だが僕はここに約束します。
必ず⋯⋯争いではなく、送り合い、気持ちでみんなと一つになり、絶対にこの南を⋯⋯楽園にします!!!!」
そう。
戦いは終わった。
今度は、南を良くしていかなければならない。
やるんだ。
必ず。
「ここに今日、南の頭として。
皆さんの前に君臨する事を誓います」
手を合わせ、僕は祈る。
「そして、約束します。
皆が一つの道へと辿り着く為に」
静かだ。
でも、まだまだこれから見せていけばいい。
パチ、パチ。
「⋯⋯っ」
パチパチパチパチパチパチ。
増えていく拍手。
チラッと見ると、誰かがやってくれたみたいだ。
流れるように広がる。
一礼して、僕はその歓迎を受け取る。
これから、始まる。
いや、ここは叶える一歩目にようやく辿り着いただけだ。
グラン、ニバ、ウル。
みんなの顔を見て、新しい人間の顔を見ていく。
「よろしくお願いします!!」
うるさいくらい拍手が大きくなって僕は、その真ん中を通り過ぎる。
「ようやく頭っぽくなったな、エオ」
「カッコよかったよ、エオ!」
「ありがと」
まだまだこれからだ。
そう。
この地獄で生きていくには、ね。




