赦地執心
ゆっくりと目を開ける。
「⋯⋯⋯⋯」
そこには、先生だったものがある。
隣には、トリスさん。
トリスさんとは、喋れなかった。
言いたいことがいっぱいあったのに。
「エオ?」
「⋯⋯ちょっと乱れたかも。
ごめんね、グラン」
「え?あ、あぁ」
赦す事は難しい。
けれど、先生は確かに──
「ふふっ」
胸に手を置く。
他の人には見えない、僕の魂ある。
僕のやるべきことはもう見えている。
先生と話せた。
そして、この先。
「エオ?」
僕は気持ちでなんとか立ち上がり、みんなを見る。
悲しい顔。
怒りに満ちた顔。
まだ戦いの勝敗に嬉しそうな顔をしている子供もいる。
「⋯⋯みんな、この死はあった」
そう。
それはそれだ。
「だけど、無駄にはしない。
けど相手に集中しない」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
わからない。
そういう顔をしている。
「ここで僕達がこの死に怒って相手を殺しても、僕達はなんの"成長"もない」
「⋯⋯せい、ちょう?」
「怒ってもいい。
泣いてもいい。
けれど、その気持ちは全部──自分を高める為に注ぐんだ。
僕達が育ててきたご飯を育てるみたいに。
殴ってご飯は育たない。
一緒なんだ。
相手を殺すために⋯⋯その為に頑張ると、僕達はなんの成長もしない。
だけど、今、後でもいい。
言いたい時には言えばいい。
ただ、高める為に自分の感情を使おう。
思うことはいいけど、行動はしないようにしよう」
それぞれの顔が見える。
色々思うことがあるだろうけど、僕は続ける。
いや、続けないといけない。
「この死は絶対に忘れない。
⋯⋯絶対に」
「エオ、お前⋯⋯」
「決めたよ」
これが執着なのかな?
自分の中で処理できない感情なのかは分からない。
でも、明確に言葉になる。
「──僕は、必ず全部の頭になって、全員を幸せにしてやる」
自分の顔はわからない。
でもみんなの顔が笑っているようで笑っていないのが、自分の気持ちが処理しきれないからだろうと思う。
全身が響くように夜が動く。
「必ず頭になる」
*
「⋯⋯⋯⋯」
またしても誰も声が出せない。
時間を掛けて辿り着いた、僕達の居場所だった家。
でも今見えるのは破壊された森しか⋯⋯残ってはいなかった。
「オレ達の森が!」
子供達が泣きながら立ち上っていく煙に向かって走っていく。
「⋯⋯⋯⋯」
立ち尽くす僕の横に、ケイと、チェシェたちがやって来る。
「頭、俺達が到着した時にはもうこうだった」
「⋯⋯⋯⋯」
「色々あったヤツも全部燃やされていたぜ?」
「──ありがとう」
少し返すのが遅れた返事に、ケイが肩を叩く。
「⋯⋯尊敬するよ、頭」
分かる人には分かるんだね。
僕が今、爆発しそうだって。
そして横を通り過ぎ。
「とりあえずは方針だけでも決めとこうぜ」
「それはそうだね」
「ひとまずだが、南はこれで正式に頭であるエオ⋯⋯現状はアンタのモノになった」
通り過ぎたケイが、僕の方を振り返って言う。
「あんたはこの南をどうするつもりだ?
今、実際にアンタの手に収まった。
俺達はアンタの指示を聞く」
ケイ達の方に身体を向けて、真正面から相対する。
そこには如何すればいいかわからない、数百人では済まない規模の子供達。
「とりあえずは今日は休もう」
「⋯⋯確かにな」
手を挙げてケイ達は黙ってそれ以上発することなく、消えて行く。
返事をした時の視線を見た時察してくれたのだろう。
「ベルさんはどこ?」
「みんなは?」
「エオ!エオが育てた畑が!!」
「森が燃えてるよ!!」
見ると子供達の絶望した顔が見える。
歩いて慌てる子供たちをただ僕は抱きしめる。
「「「「エオ?」」」」
貰ったものを返す為に。
孤独だったあの日のように。
「大丈夫」
「だいじょうぶ?」
「うん、今いる皆が生きているから」
「でも、ベルさんは」
「分からない。
けど、僕達の記憶にはいるでしょう?」
「記憶?」
「僕達にはベルさんが思い浮かぶ。
実際に居たんだよ。
居なくなってない」
「⋯⋯⋯⋯でも、」
「大丈夫。
泣いてもいいんだ」
「ひっぃ⋯⋯っぐ⋯⋯」
次の瞬間、子供が集まって僕を囲む。
みんな、泣き出した。
みんなもきっと分かっただろう。
"帰ってこない"って。
「死体はないらしいぜ、エオ」
「ありがとう、グラン」
「⋯⋯あぁ」
グランの目にも少し涙が溜まっていた。
希望を残す⋯⋯。
グランらしいや。
「ニバ、お前は空気が読めないから俺とあっちで木でも拾いに行くぞ」
「え?なんでぇぇ!」
首根っこを持たれ、消えていく二人。
他の年長組もそれを見て散り散りに最初に僕から習ったように動く。
「ねぇエオぉぉっ!!」
「よーしよし、大丈夫大丈夫」
でもそれよりも。
⋯⋯子供達が泣いている。
僕はそれが赦せない。
けれどそれも、感情だから。
難しいね。
人間として生きるのって⋯⋯サヴァン"さん"。




