盲信深家
また、別の場所。
そこではいつもならば子供を追う猟犬たちが蔓延っている大通り。
しかし今日。
二人を囲む、数十人の勢力の姿があった。
囲うその者達の視線の先には⋯⋯今にも倒れそうなボロボロで、体力の限界を迎えている、二人。
だがそんな状況とは裏腹に⋯⋯二人は、笑っていた。
「サヴァン!
今日は良い日だなァ!!」
「ははははっ、中々に言うじゃないか!
──トリス!」
そんな二人を見て、思わず感心を示しているのは、虎獅子の側近であるガイルク。
「アイツら、どんだけ体力あるんだ!?」
隣にいる部下達の言葉を聞き、ガイルクは真剣に顎に手を当て考え込む。
アラの言う通り。
俺達は虎獅子勢力の中でも頂点と言っていい。
それが数十人。
その中で──
「おいサヴァン!
夜は残ってるか!?」
「残ってないに決まっているだろう!?」
⋯⋯まだまだ行けそうだな。
「決して手を緩めるな。
──行け」
指示に従い、部下達は向かう。
「ハハッ⋯⋯オラァ!!」
宙では爆発音が炸裂し、周りでは剣撃の音が止まない。
幾度の鍔迫り合い。
幾度の⋯⋯衝突。
だが、それでもたった二人を制圧できないのだ。
「っ、ガイルクさ──」
部下の不安を払うように、ガイルクは手を挙げ、止める。
「気にするな。
お前たちが悪いわけではない」
アレは異常だ。
「っ⋯⋯コラァ!!」
あの強化型の夜を放つ男は戦いに慣れている。
と言っても、俺達東では当たり前のこと。
そこら中でそんなレベルの奴らが立っている。
⋯⋯だが。
"それでも止められないのを証明してしまっている"。
「⋯⋯⋯⋯」
「トリス!
貴様⋯⋯エオに変なことを仕込んではいないだろうな!?」
だが。
あの少し老いた男の方はもっと怪しい。
「トリス!
手癖を直せ!」
あの身のこなし⋯⋯間違いなく熟練者だ。
しかしそれ以外特別なものが"無い"。
「っ⋯⋯がッ!」
だが、その結果がアレだ。
まるで見えているように攻撃を避け、部下の隙を狙って的確な一撃を叩き込む。
荒い俺達のような戦い方をする男に。
徹底的な身体操作で戦う老いた男。
「⋯⋯面白い」
「ガイルクさん?」
一歩前に出ては、ガイルクは声を張る。
「どうだ?」
激しい夜の音は突如として止み、全員の視線を集める。
「何がだ?
ムキムキマッチョマン」
「いやトリス。
アレはただのハウンダーロウだろう」
「俺のことはいい。
面白い組み合わせだと思ってな」
この才能を活かせないのはかなり"惜しい"。
「虎獅子様の下に付くならば、これ以上の戦闘を行う事を止めよう」
「「なんだ、そんな事か?」」
二人の身体から漏れでる⋯⋯荒々しい、夜。
「はぁ」
溜息をつき、ガイルクは背を向ける。
「死ぬぞ」
「あ?
知ってんだよ、ばーか」
どういう事だ?
「何?
ならば何故戦う?」
思わずガイルクは振り返って訊ねる。
すると。
「もう、俺達の道は一つになったからよ」
「なんの話だ?」
ゆっくりと掌を内に向け、指を立てては腕を上げている。
そして天に向かって突き上げ、トリスは笑う。
「兄貴が望むべき道⋯⋯それが、俺達羅針盤という勢力の動く指針だからな!」
場は深海の如く静まる。
だが、たった一人。
「ウハハハハハハハっ!!」
豪快に笑うサヴァン。
「まさかお前が⋯⋯暴れ馬だったお前が、そんなことを言うとは」
「ふふん、だろ?」
二人はガイルクを見上げる。
「死を恐れた事は、この組織に入って一度もない」
「⋯⋯⋯⋯」
「残党と言われ続けた。
だが、この人生を通して、大事な事ばかりを教えてもらった」
二人の言葉に、ガイルクは沈黙を貫き、睨みつけている。
ーー君達は⋯⋯ご飯に困っているのかい?
「「⋯⋯っははは」」
二人の脳裏に浮かぶのは、昔の記憶。
二人を助けたのは、重度に掛かった呪いを跳ね返しながらも戦う⋯⋯重症のエデン。
「何故戦うと言ったな?
そこのムキムキマン」
「⋯⋯⋯⋯」
「兄貴は言った」
「⋯⋯⋯⋯」
「私達の役目は終わったと」
「⋯⋯⋯⋯」
「次がいると」
「⋯⋯⋯⋯」
「生に執着するんじゃないぞ、お前ら」
「⋯⋯何が悪い」
「そうだ」
サヴァンがそこに割って入る。
「真に強い者は⋯⋯受け入れることができる者。
統合し、自らで考え、進む道を切り開く者である。
幸い、私達はただの信者だったからこそ、辿り着けない領域では⋯⋯あるがな」
「全くだぜ。
サヴァンにさっきその話を聞いて、ハッとしたよ」
肩をすくめるトリスと、満足気に笑うサヴァン。
「聞くぜ?」
一歩踏み出し、ガイルクを射抜くトリス。
「お前らにとって"生きる"とはなんだ?」
沈黙。
闇に落ちるような空間に、染め上げる。
「力をもって、勝つことだ」
「勝つことね。
んで、その先には何がある?」
「何があるだと?」
「勝って、誇示して、それで終わりか?」
片頬を吊り上げ、笑うトリスを──鼻で笑うガイルク。
「それが男だ」
「それも良い答えだな。
力は全てを凌駕する。
だが、それだけだ」
「その力に今、お前たちは負けようとしている。
生命活動を終わらせようとさせられている」
「──終わらないさ」
その隣に立つは、本を脇に抱えるサヴァン。
「「もう、次が居るから」」
二人の夜が、圧倒する。
一瞬でも、たった数秒でも。
力では上位に位置すると呼び声高い、この東の勢力に。
たった二人の魂が、向かった。
「俺達は──」
駆け出すトリス。
「次に託す」
それにサヴァンも続く。
「「ケッ!」」
嫌そうに二人は笑うが。
その夜は統合し、ガイルクに向かう。
「俺達の夢、」
「私達の魂を、」
「「あとは頼んだぞ──
⋯⋯エオ」」




