行く末
頭の中がぼやけている。
確か⋯⋯
「──っ!」
突然頭の中が綺麗になって、ハッとする。
どうなったんだ!?
ドン・ゴは!?
「あれ?」
勢い良く立ち上がって周囲を見回しても、そこは戦っていた場所とは程遠いモノだった。
暗くて、先は長いような⋯⋯そんな所だ。
「下は水⋯⋯?」
その時、キーンと高い音が響く。
見回す。
するとそこには⋯⋯見覚えのある玉と台があった。
「コレって」
立ち上がって台の前に立つ。
情報が増えてこの色が透明だって分かるようになったのは⋯⋯成長したんだな、僕は。
また、音が鳴る。
近くの水が、震えている。
振動⋯⋯だっけ。
「ん」
特別なことはない。
ただ、僕は何故ここにいるのか⋯⋯ただそれだけを知りたい。
ドン・ゴとの戦いが終わっていないかもしれない。
まだ、最後を見ていないから。
もしかしたらグランたちが命を懸けて戦っているかもしれないから。
「終わったよ」
「⋯⋯ッ!?」
音もなく、僕の背後に立つ、顔の見えない影。
なんの気配も感じなかった!
「あなたは誰ですか」
初めて夜を感じた時、僕の顔に凄く似ていたのを覚えている。
だが今は何かに隠れている。
それとも他の特殊な力なのか、顔の全部が見えない。
「⋯⋯⋯⋯」
動けない。
重い時間が流れる。
「⋯⋯⋯⋯」
夜の全てがケタ違いだ。
そこに居るだけなのに。
これほどまでに。
戦いにすらならないほどの圧を感じるのは。
「気持ちを強く持て」
「⋯⋯え?」
発した彼の言葉は、酷く曖昧な言葉だった。
どういう事?気持ちを強く持て?
「ど、どういう事ですか」
「答えは全て、」
トン。
優しく1本の指で僕の胸を軽く突く。
「──お前の中にある」
「ぼ、僕の中」
でもそれは、答えではない。
「話せるようになったのに、答えはくれないんですか」
「⋯⋯⋯⋯」
返ってくるのは、静かな空間だけ。
「一つだけ」
「⋯⋯?」
顔を上げる。
そこには見たこともない黄金色だけど少し暗い瞳が、僕を見下ろしていた。
「お前の人生は、全てここに詰まっている。
だから、お前は絶望する事はない」
「絶望⋯⋯」
「エオ」
「は、はい」
そう僕に背を向けて、彼は数歩歩きだす。
距離が空いたなと思ったその時、彼の夜は激しくこの空間を揺るがした。
「っ!!」
「──手本だ」
振り向きざま、彼の顔が見えた。
そこにはベルさんと同じ、今にも枯れてしまいそうな僕に似た顔が、ただ沈むように笑っていた。
*
「エオ、エオ!!」
「⋯⋯んん」
なんだ?誰の声だ?
「うわー!!」
この叫び声は!?
「何!?」
起き上がると、そこには元気良く叫ぶニバの姿。
周りには、いつもの僕達の姿があった。
「エオ⋯⋯マジで!!」
グランが僕の肩を揺らす。
頭がぼうっとするって。
「わぁ〜」
頭がフラフラする。
「バカグラン!!
エオ!大丈夫?」
ニバが僕の顔を下から見上げてくれてる。
⋯⋯潤んでるね。
「本当に⋯⋯」
「ありがとう」
周りからは鼻をすする音が聞こえる。
やっとの事ちゃんと体を起こすと、みんな泣いてた。
⋯⋯みんながクシャクシャになった顔で、僕を見てくれている。
「みんな、大丈夫?」
確か僕とドン・ゴの他にも強い人たちがいっぱいいたはずだ。
「それなら心配はねぇ」
ザザッと砂利の音を立てて僕の背後に現れる、これまた強そうな男の子がいる。
「一度挨拶したよな?」
「あ、えーっと⋯⋯」
「まぁ敵だったからな。
⋯⋯元幹部のケイだ。
これからよろしく頼む、新しい頭」
そうだ。
これから仲間が増えるんだった。
それにやることもどんどん増えていくよね。
「あ、どうも!
それで心配はねぇって⋯⋯」
「あ、ん?
あぁ、それは俺達が処理した」
親指で見ろと言われた場所に振り向くと。
「⋯⋯つ、強いんだね」
そこにあったのは、討ち取った証明である生首だけが揃っている。
「俺達は全員、まぁそこそこ強い。
ちなみに早めに算段付けて相手の幹部連中はそそくさと逃げていったぞ。
ともあれ、一難は去ったって感じだ。
とまぁ後は──アレだけかな」
もう一つの場所には。
「⋯⋯これ、僕がやったの?」
僕の目でもギリギリの──奥まで続く夜で破壊した痕跡。
丸く抉れていて、建物は全て吹き飛んでいる。
「ドン・ゴは」
「死にかけだ」
奥にいる、と指で見せてくれる。
「おい!エオ!」
足がまともに動かない。
けど、僕にはやる事がある。
「これから南で頭をやるって言うなら⋯⋯挨拶に⋯⋯行かないっと⋯⋯」
「はぁ、馬鹿なやつだな」
震える身体がピタリと収まる。
「優しいね、グランとニバは」
「行くぞ、ドン・ゴはあそこにいるんだからよ」
「そうだよ。
文句言いに行かないとね!」
⋯⋯二人とも、意外と恨みがある?
なんて思いながら、肩を借りてドン・ゴの前までゆっくりと移動する。
「ふっ⋯⋯クソガキが⋯⋯」
酷い状態だった。
半分の身体が僕の⋯⋯いや、僕達の一撃で吹き飛んでいる。
「──勝ちましたよ」
これだけは言わないと。
「お前⋯⋯は⋯⋯」
「はい」
「理想ばかり⋯⋯言う青いガキだ」
「十分理解しています」
「いーや。
お前は分かっていない」
「どういう事ですか」
苦しそうに。
ゆっくりと息を吸い、ドン・ゴは見上げて言い放つ。
「お前は⋯⋯確かにこの世界には似合わないくらい⋯⋯"眩しい"」
「眩しいって⋯⋯」
「自覚がないなんて⋯⋯なんて⋯⋯愉快だ」
笑うドン・ゴ。
しかしすぐに咳き込み、口からいっぱいの血が噴き出る。
「ハハハハッ。
はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯分かるぞ。
お前⋯⋯みたいな奴は、たった一人だけ⋯⋯見たことがあって⋯⋯行動に移したやつがいた。
ソレを昔見ていた⋯⋯"俺達"は⋯⋯憧れた」
僕の顔を見て、ドン・ゴは続ける。
「貴族を⋯⋯力でねじ伏せる力を持ちながら、決して力で抗わず、ただ自分の考えを述べた。
痺れた。
人が、付いていく。
たった一人の声と行動力で」
「⋯⋯⋯⋯」
「ただ、あまりにも俺達とは別次元の才を⋯⋯持っていた。
穏やかで。分け隔てなく。
誰にでも技を教え。考え方を教え。
どう人間が在るべきなのかを俺達みたいな女と暴力と、奪うことしか能のない奴らにひたすら説いた馬鹿みたいな人間が⋯⋯大昔一人だけいた」
「⋯⋯⋯⋯」
「誰でも受け入れていた。
そして誰にでも戦い方を教えた」
「⋯⋯⋯⋯」
「だが──その男には才が。
人から恨まれるだけの全てを持ち合わせる才があったのだ。
結果、貴族と様々な勢力が結託し、呪いを掛けた」
「⋯⋯まさか」
「そう。
お前が多分、習ったやつだ」
怒りが湧き上がる。
もしかして⋯⋯なんて思うところは確かにあった。
あれだけ生きているのに、なぜか隠れて。
でも従う人たちの異常な熱が僕には不思議だった。
「そう。
呪いは⋯⋯解かれない。
けどヤツは、それすらも受け入れた」
「⋯⋯何故」
「ヤツはたった一言⋯⋯
──私が必要なのはここまでなのかもしれないねと。
ただ一言そう言い放って、それからは人々に説いて、説いて、人が居なくなるまで向き合う人がいる限り⋯⋯同じことを言っていた」
声が、頭に浮かぶ。
「そうして時が経ち、誰もが死んだと思った。
だが奴ら貴族は諦めなかった。
死体を見るまでは。
だが、今日──」
ドン・ゴのその言葉。
放たれたその時。
僕の目は大きく開く。
「まさか⋯⋯」
「ハハハハハハッ」
「──っ!!」
だが僕の体は動かない。
「よせ」
「くっ⋯⋯!!」
「俺も、お前も、そしてヤツも。
偶然と言えど、言葉を借りるなら、こういう運命なのだろう」
ドン・ゴはスッキリとしたように、僕を見る。
「不快だ。お前がな」
「なんでですか」
「お前とやつが──同じことを言うからだ」
「⋯⋯⋯⋯」
「こんな世界で受け入れる?
地獄が更に地獄になるだけだろ。
ふん、笑わせる。
人から奪うのが当たり前な世界で。
人を痛めつけるのが当たり前の世界で。
死体を漁ってケラケラしている精神の奴らがいる世界で?
何を言ってるんだ。
お前達は⋯⋯恵まれた者はいつも理想ばかり。
昔も、今も。
強者だけが理想を語り、割りを食わされるのが触発された弱者だけだと言うのに」
「⋯⋯⋯⋯」
「何か言い返してみろ。
お前は恵まれたから理想を吐く。
いいかそこの二人」
「「⋯⋯なに」」
「こういう奴はな、理想ばかり吐いて、お前たちのような凡人に物凄い負荷をかけてくる」
「「⋯⋯⋯⋯」」
「見ていろ。
こういう奴らは自分の優れた部分に気づかず、負荷だけ掛け続けて、自分は更に進むだけなんだよ」
「「⋯⋯⋯⋯」」
「だから、俺は上に行きたかった。
だから、俺みたいな生き方でも、頭になれるっていう証明がしたかった」
「「「⋯⋯⋯⋯」」」
僕はもちろん。
二人も声すら出せなかった。
「ハハハハハハ⋯⋯精々、生きてみろ。
この地獄で。
南はな、貴族たちが言っていたから今まで誰も統治をしていなかったんだ。
だがこれから──」
歪んだ笑みを見せるドン・ゴは、血飛沫と共に動かない震える腕を僕に向けて、叫ぶ。
「地獄がさらに進む!!
それまで浮かれておけ!!!
この青臭いガキどもめ!!!!」
ストンと手が落ちる。
ドン・ゴはそこで死を迎えた。
「「「⋯⋯⋯⋯」」」
僕達はただただの肉の塊となったドン・ゴを、ただ見下ろすしかなかった。




