向き合う者
ーーおい、知ってるか?
「くっ⋯⋯!
かっ⋯⋯ラァッ!!」
ーー今ならご飯食えるってよ!
行こうぜ、虎獅子!
独特な赤黒い重たい夜。
拳に纏わせ、目の前の"伝説"に叩きつける。
ーーおらみろよ!
今でも忘れない。
俺の人生が初めて動いた日。
⋯⋯出会った日の事を。
「強くなったね⋯⋯虎獅子」
「くッッ」
だがあっさりとした答えに反して──鬣を撫でられ、地面に叩き落とされる。
「がッ⋯⋯!!」
それを見ていたバンズーリン。
その握る銃は、小刻みに震えている。
ど、どゆことや!?
「あ、あああんなに強いなんて知らん!!」
「っ⋯⋯ぁ⋯⋯ッ」
埋まる中から這い上がる虎獅子。
しかしその前に立ちはだかり、見下ろすそこには当時の面影が残っていた。
「今、東の頭みたいだね」
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
見上げる虎獅子。
「強い人間を探しているのだとか」
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
そこにはいつもの調子は消え失せている。
「どうしたんだい?
君の基準で考えるならば、私は強い方だとは思うが」
荒れた呼吸で聞いている虎獅子。
だが──その顔は余裕綽々などというものではない。
そう。
あるのは、一瞬も瞬きすらできないほどの圧倒的な"恐怖"。
「どんだけしぶといんだよ」
二人の間を、優しくもヒヤリとする風が吹く。
「私の目的はあの時潰えた。
けれど昔、言ったはずだよ」
唾を飲む虎獅子の喉。
「私達の考え、組織は形を変え、必ずこの世界の前に現れる。
私はただこの世界にその大事なひな型を残した。
⋯⋯それだけだ。
しぶとい。
そうではない。
君はよく分かっているはずだよ」
虎獅子の身体に刻まれた文字が光る。
「君も、二段階までまでしか行っていないのだからよく理解しているはずだ」
夜が、エデンの周りを荒らす。
"おーしーてーめーらーあーさー"
虎獅子の頭に流れる⋯⋯鈴の音と、女性が読み上げる謎の声。
「⋯⋯っ!」
突然動き回る虎獅子。
「その先は、君が理解しているはずだ」
落雷と同じようにエデンの周りを移動し、拳を構える虎獅子。
「黙れ」
「君は理解しているから、そこで留まり、戦いという低い程度の話をしている」
「黙れ!」
「ソレを理解したら、君は三段階目にいけるはずだ」
「黙れ!!!」
片足踏み込む虎獅子。
太く、隆起する巨人のような筋肉が地面を壊す。
「アレは⋯⋯」
バンズーリンが一度見たことのある、虎獅子の技。
"さーあーえーらーこーめーえーおー"
手首に巻き付いた翡翠のブレスレット。
虎獅子の夜に呼応しまるで力を与えているように燃え上がる。
"てーえーてーしー"
リオンとは別次元とも呼べる夜の圧縮された──拳。
雷撃の音を立て、燃え上がり、破壊を目的とした虎獅子の技。
開放された夜は山を震わせる。
その不協和音に周囲の自然たちが絶叫をあげているようにも感じる。
「想起せよ──」
ーーねぇ、れて。
「ッ!」
こめかみにギュウウ!と力が入る虎獅子。
「龍人──」
ーー私はべリエル。
虎獅子、君に依頼だ。
古代の化物を討伐しろ。
上に行ける算段は私が立てるし、他にも便宜を図ろう。
"いや、いい"
ーー何?
「ラァァァアアアアア!!!!」
"呪いだとか何だとか、あの人が悪かったとか⋯⋯知らね"
「君の全力──私も受けて立とう」
"ただ──俺は今の自分が、惨めにだけはならねぇように、絶望してぇだけだ"
「金神縛鎖・艮の禁忌」
"てめぇらが強えのなんか百も承知だっての。
ただよ。
お前ら、絶望した事はあるか?"
ーー貴族がする訳もあるまい
"だったら言っとくぜ?"
「──極星!!!!」
「っ!」
虎獅子の前に広がる世界には、世界が在った。
⋯⋯言葉など不要。
夜を統べ、自身を統べ、他者をも統べる寸前だった男の最終段階の大技である。
暗天が裂け。
紫空間が歪む。
「ハハハハ⋯⋯」
エデンの背負う⋯⋯そこには宿る全ての夜。
「ッハハハハハ!!!」
絶望する。
だが、猛獣は嗤った。
いや。
──笑い飛ばす。
「あーハッハッハッァ!」
"俺にあってお前らに無いものがある"
ーーたかが頭風情に説教を喰らう日がくるとはな
「まだ──絶望が必要だアアアア!!!」
"人が成長するのってな、絶望が必要なんだよ。
他と比べるから自分を知る。
そして自分の今までの恥を理解して知る。
自分の程度を知る。
高みを、どこまで上があるのかを見る事ができる。
が、てめぇらが成長する機会はあまりなさそうだな?
見てろよ、お前らの頭踏んづけてやる日が来るかも知れねぇからな──待っとけや"
ーーふん、利用価値があると知って、言いたい放題だ
"アンタの愚息さんから学んだ事だ。
恥狂極己。
恥に狂い、己を知り、それに向き合い極める者は必ず強くなる。
自己を高めるに最適な試練をその者に与えんってな"
「求覇金律道・集束」
⋯⋯世界と世界がぶつかった。




