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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
子供編

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8/18

遠征<3>

 先生の家の中は、まるで僕の為にでも作られたかのような場所だった。


 「エオ、俺達は奥の部屋で何か貰えないか話して来るから、ここで読んでてくれ」


 「うん、ごめんね」 

 

 「行ってくるわ、エオー」


 デンデラには頭が上がらない。

 ここには文字がいっぱい書かれてある先生が授業で持っているような本がいくつも並んでいる。


 これは、算数の難しいやつだ。

 読もう。


 「えー⋯⋯っと」


 本を開いて急いで頭の中に入れていく。 


 先生と知り合えて以来、僕は遠征の度にここに寄らせてもらって色々なことを知っていっている。


 そして分かったこと。

 どうやら先生の仲間たちがいるっぽい。


 ここにある本には、どれも水の水滴の形をしているモノが本の終わりに刻まれている。


 他にも先生の家のも。


 これがなんなのかをいつも先生に聞くんだけど、先生は唯一答えてくれない。


 でも悪いものではないからね。

 ⋯⋯そう言われ続けてもう、僕はそろそろ12歳になるんだけど、その時には教えてくれるんだろうか。


 ──いや。


 今はそんな事よりも、村にいる僕らの後の子供たちのためにも、出来るだけ多くの事を残していくんだ。


 ──先生が教えてくれたように。

 

 算数の本はある程度読んだからそれからは育てる事に関する本を探し続ける。


 「ふぅぅ」


 なかなか見つからない。

 どれも見つけられても、算数や文字の勉強の仕方。


 あとはカタカナばかり。

 植物の本もあるけど、この辺はかなり覚えている。


 というより。

 凄く大事な事がどれも書かれていない。


 でも、そうか。

 勉強する事も中々ないから、書いて残すことしかみんな考えなかったっていう事もある。


 「っ、どうしよう──」


 ガチャン。

 後ろの扉が、開く。


 「ん?」


 ──あ。

 

 そこには、僕らのよく知っている⋯⋯大人が僕を見下ろしていた。


 変な結び方をしている髪。

 鋭い瞳。

 

 全身からまずい、という声が聞こえる。


 「なんでこんなところガキが⋯⋯あっ、そういえばここそうだったな」


 ⋯⋯え?


 僕を見た後、大人は横を通り抜けて奥の部屋へと向かっていく。


 なんで?

 大人は僕ら子供を狙っているはずじゃ。


 「おー、トリス。

 入口の子供は気にしないでくれよ?」


 「んぁ?あたりまえだろ。


 お前時間経ちすぎて俺があっちに染まったんじゃねぇかって勘違いしてねぇ?」


 奥で何か話してる。


 違う違う!

 僕は今それよりも本を読まないと。


 「ていうかよ」


 一生懸命読もうとしているんだけど。


 「最近あの通りの奴らやばくねぇか?」


 話が気になって先に進めない!


 「まぁな。

 今は42番街の方が活発だからな。

 ここもいつ崩壊するか分からん」


 「よく言うぜ。

 この間も自分が先頭に立ってガキ共守ってたじゃねぇか」


 先生、やっぱり凄い人だったんだ。

 

 「トリスよ。

 覚えておきなさい」


 「んクッ、んクッ⋯⋯かー!

 酒はいいねぇ!」


 「聞かないか!」


 「あーはいはい。

 あんだって?」


 「私だって善人ではない。

 忘れるなよ?」


 「⋯⋯そんな迷信まだ信じてんのかよ?」


 迷信?


 「それが⋯⋯我々人間が産まれてきた理由だ」


 「やめとけよ。

 虎獅子(キング)が聞いたら、家なんてあっという間に吹き飛ぶぞ」


 「構わん。

 トリス、貴様だってそう変わらん」


 一瞬だけ静かになる。

 

 「⋯⋯まぁな。

 この組織もかつては飯が食い放題だって言うからここにいるだけだしな」


 「あの人は元気か?」


 「⋯⋯まぁ、ぼちぼち元気だよ。

 だが、ここに来た時のガキと一緒で、本ばっかり読んでるよ」


 「そうか。

 そういえばエオたちが遠征しているようだが、今日は豊作の日か?」


 「ん?あぁ、猟犬たち⋯⋯結構頑張ってるぜ?

 俺らはそれを見ながらケラケラ笑ってたけどな」


 やっぱり大人にとっては子供って本当にそんな考えなんだ。


 「お、エオ?」


 デンデラが奥の方からやってくる。

 手には種と水。

 グランたちを含め、他の子供も手に持っていた。


 「外はまだまずそうだし、急いで出て戦利品も確認しよう。


 ⋯⋯今回の遠征はかなり良い方だぜ」


 無言で顎をグランの方へ。

 見るとその両手には、かなりの種と食料があった。


 「ツイてるぜ。

 それから、いつものゴミ箱を漁って帰るぞ」


 もちろんこれだけでは足りない。

 まだ畑の未来はわからないのだから。


 




 

 「急ぐぞ!」


 僕達は裏道を使って走る。

 

 「今日は俺達にとっても豊作だな!」


 隣で走るグランがキャッキャッしている。

 でも、それはそう。


 「村につくまで、本当に怖いよ」


 今回はまさに未来を懸けた戦いだ。

 食料ももちろん、今回はそれを減らしてでも⋯⋯種を選んだ。


 先生が用意してくれていたという補助はあったけど。


 「ったくよ、毎回こうならいいんだけど」


 もう少し。


 もう少し。


 全員の顔は明るくなる事はない。

 突然⋯⋯死が訪れる光景を目の当たりにしてきたからだ。


 僕自身、ここまで何もない経験が少ないくらいだ。


 やはり次からは豊作の時に遠征できるよう、どうにか知れる機会を作りたい。


 もう少しだ。


 「──村が見えたぞ」


 先頭のデンデラが張る。 

 僕達は最後の通りの前で止まり、屈んで息を殺して確認する。


 「ウルたちが遅いな」


 デンデラが通りの左奥を見ながら呟く。

 確かに農場はかなり近い距離で、僕達の方が危険ではある。


 そのせいで前回の帰り道はあんな猟犬5人に追われる事になったんだけど。

  

 「一旦帰るぞ。

 少なくとも種と食料は持ち帰る必要がある⋯⋯何か意見のあるやつはいるか?」


 見回していないことを確認するデンデラ。


 「よし、じゃあ帰るぞ」


 そのまま全力で走り続け、僕達はこの遠征を乗り切った。


 ──被害がない遠征なんて久しぶりだ。

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