遠征<2>
村の中は安全だ。
けど、そこから先は大人がいっぱいいる世界。
ここにやってきてすぐの事。
最初は出たら捕まると思っていたのだけど、意外とそうでもない事が分かったのはそれからしばらく経ってからの事だ。
「エオ」
一番前を走るデンデラが止まり、僕達にしゃがめと合図する。
「デンデラ、どうしたんだよ?」
「──地獄だ」
無感情、無表情のデンデラは、先に見えるモノを見てそう答える。
「⋯⋯猟犬が?」
聞くと無言で縦に頷く。
"猟犬"──。
先生から習った単語で、大人の常識の一つらしい。
あの大きい黒い穴から、僕達を含め、毎日・バラバラな時間で降ってくると先生は言っていた。
先生は僕達の歳もあったのか、内容までは教えてくれなかったけど、どうやら僕らの感覚で言うところの"大人になりたての人間"が猟犬という役割をやり、子供を捕まえるらしい。
──子供は"資源"。
先生はそう言っていた。
資源とは、目的達成のために必要な物で、何かを作る事や生み出す⋯⋯モノ。
それらを"資源"と定義した先生。
ていうことは、僕達は大人にとって重要な資源であるということ。
しかし不思議なのは⋯⋯
「エオ、猟犬が動き出した。
ツイてねぇ」
グランと同行している他の子供たちと順番を変わり、デンデラの隣から見渡す。
「っ!」
なんだ?
目の前にはいつもなら考えられない数の猟犬が子供を捕まえて連れて行っている。
屈んで隠れているデンデラを見下ろす。
「⋯⋯どうやら今日は"豊作"の日らしいな」
「僕達からしたら全く笑えないけどね」
泣き叫ぶ声。
この喋ってる間にも聞こえてくる殴る音。
僕達は生き残る。
その為にも──目に焼き付けとかなければならない。
「みんな」
新しい子も中にはいる。
全員に僕は語る。
「いいかい?」
みんなが頷く。
「僕達は生きることが最も大事なことだ」
──ぅわァァァァァ!!!
聞こえても、僕は続ける。
「地獄で生きるには、獣になる」
「⋯⋯エオ」
「先生の授業を聞くんだ。
そして、誰よりも賢く生きよう」
大きく頷く子供達。
「よし、デンデラの指揮を待とう」
子供達の肩を軽く叩き、僕らは後ろへ戻る。
「いつもの通り行くぞ。
俺とエオ、そしてグランは先生の家へと向かう。
ウル、今日は行けるな?」
「う、うん!大丈夫!」
ウルも戦闘力はあるし、生き残る能力も負けじとある。
きっと大丈夫なはずだ。
「大丈夫、ウルなら子供を任せられる」
「⋯⋯エオとデンデラが言うなら!」
僕とデンデラは笑って頷く。
「ウル達はここからあっち。
反対方面の農場がある方面で盗れるモノを探す。
食料と種だな。
俺達は種と武器を。
⋯⋯ここまでで何かある者は?」
全員静かにデンデラを見つめる。
「よし、全員、掟を忘れるな?
⋯⋯行くぞ!」
ウルたちは反対方面へ向かいだし、僕達も向かう。
基本的に、村の外では"裏道"と呼ばれる細い道から進む。
「こういう時は俺達が子供で良かったって思うぜ」
裏道は子供くらいの大きさしかないから、僕達にとっては家みたいなものだ。
大人も入ってこれない⋯⋯"子供専用"通り。
そのまま裏道に入って前にいる二人の後ろを進む。
「⋯⋯っ!」
体を丸めて壁にくっつきながら進んでいると、デンデラが嫌そうに僕らに指差して服を擦らせながらまた進んで行く。
「っ、」
そこにあったのは、僕達よりも少し小さい⋯⋯子供の骨。
恐らく逃げ回ったんだと思う。
逃げ場所がなくてここから出ることも進むことも戻ることも出来なくて、ここで死んで骨になるまで時間が経ったのか。
そう思うとなんて素晴らしい世界なのだろう。
⋯⋯地獄め。
命懸けで大通りを二回通って、先生の家までもう少し。
ここまで豊作の子どもたちのおかげで、大人の視線が集まらない。
「っは、っ!」
あの水の形。
先生の家だ!
走って、走って。
到着した僕は扉を叩く。
「先生ー!」
呼ぶと、扉が開く。
「おや?エオ。
入りなさい」
僕達は見回しながら、先生の家に入った。




