遠征<1>
それから次の日。
僕達はいよいよまた地獄へと向かう日が来た。
「⋯⋯エオ」
「んん〜!」
畑の隣で寝ていた僕は、グランとデンデラに起こされる。
「っ、ごめん!」
「なーに。全然」
「エオの方こそ、昨日は英雄だったじゃんか」
そんなこと無いと言いつつも、起き上がりながら今日の準備を始める。
「今日は主に、種が中心になりそうだ」
隣で準備を始めるデンデラの言う通り。
僕の畑はここの全員分をどうにか出来るほど広くはないけど、広がってはいる。
その内畑はどうにかなると思うし。
「先生の所には?」
グランは先生が好きだ。
おちゃらけている所はあるけど、読めない。
「行くしかないっしょ。
エオ、やっぱ色々可愛がられてるじゃん?」
「え?そう?」
他の子供たちより勉強熱心だからじゃないの?
「エオはやっぱおかしいと思うけどね。
先生の言ってることをかなり分かってる感じじゃん?
俺なんて言ってることの半分以上何言ってるか分からないもん」
「⋯⋯嘘ぉ?」
「そらそうだよ。
算数⋯⋯だっけ?
俺なんて全然説明受けてもあんまりなのに、エオってすぐ覚えたじゃん?
それにほら、カタカナとか概念⋯⋯だっけ?
色々習ったりした時もエオはすんなりはいそうですって顔してたじゃん。
ふざけんな。
才能め!」
すんごい早口で言ってくるグランに思わず笑ってしまう。
「人の事馬鹿にしたな!?今!」
「違う違う!
グランって何考えてるか分かんなかったから、僕のことそうやって考えてたんだーっと思って」
「うっ」
悔しそうに何故か下を向いて近くにいるニバの首根っこ掴んでおちょくってる。
⋯⋯やっぱグランも頭いいと思うんだけどね。
*
「よし、今日の行動予定をまとめるぞ」
僕達独特の雰囲気はここから無くなる。
⋯⋯これから行く所は、"地獄"だからだ。
「まず今回の遠征に行くというヤツ、手を挙げろ」
デンデラが見回す。
大体70人ちょっとか。
「こんだけいればどうにかなりそうだな」
僕達は大体120人手前くらいだ。
70人が各々箱一つでも回収出来れば、時間は少しでも稼げる。
「行かない奴らは、男は守り。
女は徹底的に支えるよう努めろ。
もしそれが出来ないなら男は力を込める事を許す。
ただし帰ってきて何かあった時に俺に言い訳ができなかった時は──全員地獄まで連れて行ってやるから覚悟しろ」
一瞬で空気が張り付く。
デンデラはやっぱり頭としては優れ過ぎている。
「とりあえず先に嫌な話だけしておく。
そしたら今度は目標物の話にする」
全体を見渡して、デンデラは続ける。
「今回、みんな分かってる通り、エオによって俺達の食糧問題が軽くなる事が分かってきた。
だから目標は農場にある種を一つでも多く回収すること。
そして、出来るだけ新しい水を持ってくること。
それは今まで同じだろうが、今回から最優先だ。
村にある汚え水では限度がある。
が、もしかしたらこの選択が──俺達の未来が変わるかもしれねぇ。
ここで一番デカイ遠征になるかも知れねぇから、全員気合入れろ」
「「「「おぉ!!!」」」」
周りの子供たちもやる気たっぷりだ。
全員のやる気が今までで一番高い。
昨日のご飯が効いたみたいだね。
「70人それぞれ細かく順番に動き、さっさと回収できた奴らから早く帰ること。
そして──」
デンデラはいつもの言葉を全員にかける。
指を立てて、全員に語りかけていく。
「エオと俺で考えた俺達の掟だ。
⋯⋯一つ。
お前らの隣にいる奴らは家族であるが、見捨てる事を前提としろ。
俺達が遠征に行く目的は家族を飢えないようにする為だ。
自分たちの飢えは一番後回し。
家族が助かる道を全員が選べ。
二つ。
大人は強い。
この俺でも手も足も出ないくらい⋯⋯勝てない。
俺達は弱者である。
弱くて幼い⋯⋯みっともない子供だ。
どんな甘い言葉にも騙されず、どんな言葉も無視しろ。
そして何も考えずに──奪え。
三つ。
これを俺達の掟とし、家族を救う為の血約束だとここにデンデラとして誓う。
──全員、自分の名前に誓え」
立ち上がって全員が自分の名前を懸けて一人一人誓いという名の叫びをあげる。
「武器の戦利品は村で使う。
だから使うのはここだけだ。
大人は夜を使える。
そんなもの持ってたところで意味がない。
不意打ちならどうにかなるが、基本的に勝てない。
⋯⋯分かったな?」
大合唱。
僕も迷わず続き、デンデラが村の入り口へと向かう。
「エオ」
待機しているとグランがニヤつきながら⋯⋯けれどどこかひんやりとした冷たい顔でやって来る。
「どうしたの?」
「帰ってくるぞ」
「⋯⋯だね」
「って言っても?
そちらは最初から今までで一度も負けずに帰ってきた凄腕の先輩なんだけど」
「やめてよ。
デンデラが居なかったら僕なんて何回死んでる事やら」
⋯⋯本当。
みんなに支えられてここにいるだけなんだからさ。
大変だよ。
僕一人の成果じゃないからさ。
「順番に行くぞ!」
振り向くデンデラ。
僕達がそうこう話をしている内に、みんな男らしく外へと旅立っていく。
「俺達、いつになったら普通の飯が食えんだかな。
俺達が何したってんだよな?」
横目で僕を見ながらグランは溜息をみせる。
「⋯⋯本当。
でもなんか意味があるんだろうね。
だって、僕達みたいなのがこんな目に遭ってるんだものね」
「だろうな。
じゃなかったら神様って奴がいたら、相当やばい。
先生の授業で言ってしな」
「⋯⋯っ、エオ」
デンデラが最後尾の僕達の方へやって来る。
「デンデラ?」
「今日もいつもと同じ逃げ方で行くぞ。
⋯⋯って珍しいな。グランは?」
「俺も一緒に行っていいの?」
鼻をほじりながら聞くと、笑ってデンデラは頷く。
「あたりメェだろ。
家族なんだから」
「⋯⋯やっぱデンデラってここにいる理由が全く理解できん」
「なんだよ、突然」
「今ちょうど⋯⋯グランと僕達が普通のご飯すら食べれない世界にしたのは、必ず理由があるよね?って話してたの」
「ほぉん?」
「デンデラってよ、みんなをまとめられて、強いし、あっちの変な奴らとは違って、話は聞いてくれるから全然ここにいる理由がわからんって事」
「でもいるんだからなんかあるだろ。
⋯⋯だからこうして」
間をおいてデンデラが少し微笑む。
「俺達が生きる為に必要な事だけを俺に叩き込んで放ったんだろ多分。
あの穴からエオとやって来たあの日からずっと」
僕達の視線は、空に浮かぶ黒い穴。
いまだに分からない、謎の穴。
僕達は全員、あの穴から落ちてきてる。
「っと、後は俺達だけだな」
前を向くデンデラ。
「行くぞ。
俺達の晴れ舞台だ」
「⋯⋯おいおい、あれマジで言ってんのかよ」
走って行くデンデラを見たグランが、僕を振り返りながらおでこにシワ寄せて笑って⋯⋯走って行く。
「エオ⋯⋯」
隣を見ると、寂しそうに縮こまっているニバが涙目になって震えていた。
「大丈夫。
近い内食べられるようになるから」
撫でたって何も変わらないかもしれない。
けど、少しの安心もない生活は、地獄だ。
「エオ、死なないでね」
「⋯⋯ふっ、勿論」
ふぅぅ、と。
僕は深呼吸してもうすぐ小さくなる二人を見る。
冷静になれ。
先生の教えだ。
適切に状況を分析して、冷静に行動しろ。
──行ってくる。
僕はそう残して、村は飛び出して今日も。
地獄へと足を踏み入れる。




