水っぽい
いっぱいの年長者たちが僕達の縄張りのある所を囲んでいる。
⋯⋯そう、僕の畑だ。
「え?なんだこれ?」
デンデラが深く屈んで僕の育てた謎の草を指差している。
「確か枯れてて育てるのは難しかったんじゃねぇの?」
「それはそうなんだけど⋯⋯」
そう。
僕も最初はそう思ってたんだけど、上手く行っちゃった。
「え、これエオ一人でやり切ったの?」
「そうだよ、バズウ」
そう返事をすると、恥ずかしそうに頭を掻きながら、ぶっきらぼうに手を差し出してくる。
バズウはデンデラよりも弱いけど、同種の人間だ。
ただ、感情が上手く動かせないというか。
僕からすれば普通の子供って感じだ。
「⋯⋯今まで馬鹿にしてたわ」
「ん?そうだったの?」
「もはや相手にされてなかった!?」
握り返すとバズウはやられた、と背を向けて悔しそうだ。
「バズウー?
後でお前俺と話な?」
肩を組まれたバズウがペコペコしながらデンデラに頭を下げている。
デンデラは強いなぁ。
「なぁ、エオ」
グランが僕の育った何かを触りながら質問してくる。
「ん?」
「これさ、適当に遠征から盗ってきた種なんだよね?」
「ん?うん。
けど、一応食べてそうな物を持ってきたんだ」
「なんか変な形と色してない?」
僕もそれにはずっと同じ事を思ってるんだよね。
なんかうんちというか⋯⋯凄い色だ。
これを食べている人がいることもあまり信じられなかったんだけど。
「なんかゲンコツみたいだよねぇ〜」
ニバがポヨンポヨン手で揺らしながら僕を見上げる。
「おいニバ、エオ様の功績を壊すな」
「うわ、グランきも。
なに様とか付けちゃってんの」
「⋯⋯まだわからんが、この村に限って言えば──エオはマジで英雄になりかねない」
「ま、まぁそうだけど」
今まで普通に腐った食べ物が多いこの世界で、普通のものを食べるには遠征に行ってどうにか手に入れる必要がある。
でもそれは、ほとんどが頭に取られてしまうからまともな物を食えたものではない。
それが普通に食べられるようになるのはでかい。
「エオ、貴重な⋯⋯あれ?
貴重の使い方合ってる?」
「合ってるよ」
「そうそう、もしかしたら村の食が変わるかもしれんよ?」
「それはそうかもね」
「ほら、収穫してみ」
グランのその一言で、全員の視線を集める。
なんか、ドキドキするな。
「じゃあ、とってみます!」
「おう!」
えーと⋯⋯先生が昔、基本的に食べ物は洗ったほうがいいって言うのと、確か火を使ったり皮をどうにかしたりする必要があるって言ってたよね。
「採れた!」
おぉ〜!と拍手が起こる中、僕は先生に言われた通り、みんなで貯めておいた切り札の水と火を使ってこの変な茶色の食べ物を温めてみようと火をつける。
「なぁエオ、これ刺しなよ」
外側に付いている皮をボコボコにしながら取っていると、グランから木の枝を貰う。
「ありがと」
「エオ、こっちは行けるぜー」
バズウとデンデラが火を起こしてくれたみたいだ。
「ありがとうー、グラン、ニバ、行こう」
「「うん」」
*
「なんか水っぽい匂い」
「ニバ。
それを言うなら普通の食べ物の匂いって言うんだぞ」
まぁ、感想って人それぞれだとは思うんだけどもね。
「エオ、多分そろそろ良いんじゃねぇか?」
煙が上がってる。
戦ってないのに煙が上がるのなんて火をおこしてる時くらいだよね。
「そうだね」
これからも、こんな幸せな煙が出ていけば良いな。
皮を取ったら、中は黄色い煙を噴き出す変なの。
これ食べ物なのかな?
でも、大人たちが育ててたから間違いないんだとは思うんだけど。
「おーい!
全員、エオの活躍を見ろー!」
拍手するデンデラが集めてくれるんだけど。
⋯⋯ちょっと恥ずかしいではあるんだけど。
「で、では一口」
ごくっ、と、全員普通の食べ物と聞いて肌が戦闘態勢に入ったような攻撃的な感覚を見せてくる。
「熱っ」
だが、僕は一口食べると、体がぐわーっ!!!と何かが通り過ぎるみたいにくらくらする。
「っ、おおっ」
「エオ、大丈夫か?」
ふらつく僕を二人に助けられ、目をぱちぱちして変じゃないかを感じる。
──大丈夫だ。
「す、凄い」
「「⋯⋯え?」」
「エオ、どうしたの?」
バズウの言葉が何を言ってるか分からないほど僕の体は止まったように固まる。
体の中を動く⋯⋯熱いモノ。
食べた物が通っていくのが分かる。
「おい、エオ?」
温かい。
そして、水のような匂いはあるけど、お腹が満たされるような。
「エオ、なんで泣いてんだ?」
これが普通の⋯⋯普通の食べ物なんだ。
「デンデラ」
「ん?」
僕を見て首を傾げるデンデラ。
すぐに僕は食べかけを渡す。
「いいのか?」
静かに頷く。
そのままデンデラは抑え目に一齧りすると、僕と同じようにくらくらしている。
「あのデンデラまで?」
バズウ達の言葉は確かにそうなんだけど。
僕はそのまま、デンデラを見つめる。
「そうか」
数秒誰も言葉を発せれない。
そんな中デンデラは、下を向いて小さく何回か頷く。
「⋯⋯っ、」
ガシッと。
デンデラは僕の肩に手を置く。
トン、トン。
二回、三回と、ゆっくりだけど⋯⋯ただ力強く叩く。
「お前──すげぇよ」
瞳に涙を貯めて、デンデラは真っ直ぐ僕を見つめながら言った。
見ているだけで、デンデラが何を言いたいのか⋯⋯言わなくてもわかる。
多分僕の思ってる事と同じじゃないかな?と思う。
「──これが、普通の食べ物か」
もう口にないはずの味を何度も嚙んで、あの水っぽいけど温かい、けど確かに命を感じるような食べ物を。
「うわっ、なにこれ!?美味しい!!」
「なんだよ、ニバ!俺も食わせろよ!」
時間がかかった。
9歳からもう少しで12歳になる時間。
枯れたと言われている土地で、僕は今日。
初めて食べ物を育てる事に成功した。




