先生
僕達の日常は変わらない。
朝起きて、どうするかを考えながら明日また起きる為の事ばかり。
そんな数日後。
「エオ、サヴァン先生の授業ってやつがあるぞ」
なに!?
それは見過ごせない!
「ありがと!デンデラ!
どこ!?」
「いや。いつものところだよ。
村の入口だよ」
デンデラが差し向けるところには、もう既に授業は始まっていた。
「ごめん!行ってくる!」
前の授業は確か⋯⋯文字の話だった。
今度はなんだろう?
何か後ろで言われた気がするけど、今は授業の方が大事だ。
「で、あるからして⋯⋯おぉ、エオ。
どうした?
いつもなら真っ先にいたはずだが」
村の入口で立つ、一人の本を持って僕達子供に"授業"という事をしてくれる大人。
僕達の頭に浮かぶ大人というのは、暴力的で、話が通じない人の事だけど、先生は凄く優しくて、本当に大人の人なのだろうか?
⋯⋯なんて思うくらい水のような人だ。
そしてこの世界では珍しい子供でも大人でもない人。
大人はみんな、子供を終えたばかりの人だけど、こんな風になっている人はあまりいない。
確か歳を取る⋯⋯だっけ。
僕達がここに来てから1回目って最初に言った時、先生は490回目だと言っていた。
この世界で490回目になるということは、僕達からすればつまり強いから生き残れているということだ。
目の前にいる子どもたちも羨む⋯⋯力の証拠である膨らむお腹と大きい背の高さだ。
「はい!
昨日は色々やることがあって中々寝付けなかったです!」
昨日は新しい情報が多くて助かった。
新しいことを色々やりたくて、全然寝れなかったから。
「おぉ。
勉強熱心なエオがいないと、私も寂しいからな」
僕の他にも、子供達はいる。
この世界で生き残るには、主にいくつか手段はある。
この間もデンデラが言っていたように、
・頭脳
・力
・体の大きさ
・隠密
・速さ
・人を導く能力
⋯⋯このどれかを持ち合わせないといけない。
だけど実際にこの5つの手段は、ほとんど無いと言える。
それは簡単で、
"この身体が全てだからだ"。
だから僕はよくみんなに言う。
──身体が強くない僕達のほとんどは、知識や知恵を増やす事が一番早いって。
でもなんでだろう?
ふと考えてしまう。
ここで何故か教えてくれるこのサヴァン先生の授業。
数の数え方とか、難しい言葉とか、意味を教えてくれる理由が全くわからないんだよね。
それこそ、強い人たちの家族や縄張りで独占すればいいのに。
「じゃあ授業に進むぞ。
エオの知識が基礎で進んだから、復習が出来たな。
"カタカナ"は分かったかな?」
先生が投げると、子供達はそれぞれ返事を返している。
「僕ベストっていう言葉覚えたよ!!」
「おー、もうベストを覚えたのか。
凄いじゃないか」
「オレはチョコって覚えた!」
「お菓子の名前だな。
⋯⋯と、少し今日は大人の世界の話をしようか」
「大人?」
みんな首を傾げる中、僕もなんで?とは思ったが、知りたかった事だ。
「そう。まずはな」
と、先生は僕を真っ直ぐ見てくる。
「エオ」
「ん?」
「確かエオとデンデラは"今年12"歳になるな」
「うん」
「12歳になると"大人"になるのは分かるな?」
「先生がそう言ってたよね」
僕もちゃんと意味はわかってはいない。
ただ、12歳になると村から出ないといけないというのだけは分かっていたから、何故か知れるのかな。
「あぁ。
明確な理由がある。
それはだな、」
先生が少し言葉を溜めて、おでこの皺を寄せながら言う。
「12歳になると"夜"が使える。
この村は、夜が使えない子供達の救済措置としてある私達より少し後にはなるが、古くより続く場所なのだ」
「先生、それはなんとなく知っているけど、夜っていうのは12歳でみんな使えるようになるの?」
静かに頷く先生。
「昔はこのような村はなかったんだ。
だから私いた昔はもっと地獄だった。
夜が使えない子供の私は、成すすべもなくただただ泣きながら従っていたまで。
だがある時からこのような大人も立ち入る事のできない結界が張られ、こうして期間を設ける事ができるようになったんだ」
「そうなんだ。
昔は最初から大人に狙われていたんだね」
「そうだ。
私も昔は大人の排泄物を受け取って仕分け、捨てる役割をしていた。
大人の遊びに色んな事をされた。
そのせいで今では体の至る部分が使えぬ」
「⋯⋯辛い事を思い出させたね。
先生ごめん」
「いいんだ。
結局私は、そうやってただ子供たちが虐げられているのを見る事しか出来なかった哀れな大人の一人だ。
だから私は、少しでもどうにかするべく、大人の知識をこれから旅立つ子どもたちに多くを授けようと決心し、今日までに至る。
⋯⋯そうだ」
先生は立ち上がって、掌を開いて腕を真横に伸ばす。
「いいか?
エオ、そしてこれから旅立つ子どもたちよ」
その時、僕の胸がドクン、とキュッと締め付けられる感覚が襲う。
「見ていなさい」
キュイイイイン!とドンドン音が割れるように大きくなっていってる。
「これが、夜じゃ」
割れるような音と共に、空と同じ黒と白い涙のような形が掌に集まっていって、形になっていってる。
「想起せよ──」
先生がその言葉を発すると、形は一冊の本に変わった。
「|生死と聖星を昇華させる図書館」
高くて削ったような音が村中に響き渡っているのがわかる。
コレが──大人。
これが、力なのか。
「す、すげぇ!!」
子供達が大声をあげている。
素直に凄い。
⋯⋯僕もそう思う。
それになんだろう?あの黒い本。
先生の持っているいつもの本とは全く別物だ。
なんだろう?
ドロドロしてて土にこぼれそう。
「凄くもない。
これから皆が受け取ることのできる贈物であり力だ。
⋯⋯それまで生き延びなさい。
私との約束だ」
「うん!」
最前列で聞いてる子が元気よく返事すると、先生は僕を見て笑いかけてくる。
「エオ、これが夜。
夜は大きく分けていくつかに分類される。
これは既に大人の中で広まっている常識だから、必ず覚えておくように」
「⋯⋯うん!」
「一つは短剣。
そして二つは拳に黒い揺れ動くようなものを纏わせる形態の夜。
エオも見たことがあるはずだ」
「うん。
何度も見たことがある」
この間の遠征も、走る時に黒い揺れ動くような力を足に纏わせて飛んでいた。
「まぁまとめると身体能力を強化する夜といえばいいかな。
そして銃」
「⋯⋯銃?何それ?」
「遠くからでも人を殺す事のできる厄介極まりない夜だ。
実物はないが、大人になれば嫌というほど見る。
これは強化する夜は勿論強いが、この夜は遠い所から狙いを定めて仕留める夜だ。
音もなく突然撃ち抜かれるのだから、溜まったものではない」
と、何か思い出したように先生は僕を見て何か企んでいる。
「遠くからと言えば、私と出会ったあの時のエオと同じだな」
「⋯⋯うっ、あの時はすみませんでした」
先生との出会いは、確かに酷かったな。
「いいんだ。
子供ならば仕方あるまい。
と、大体がこの3つだな。
短剣、身体強化、そして銃。
だがそれよりも少し凄いのがある」
「え!?なになに!?」
キラキラした子どもたちの瞳が先生に向く。
少し恥ずかしそうにしながら、先生は咳払いして続ける。
「まずは短剣だったものが斧、剣、槍に変わる夜だ。
ここに居る子どもたちも見たことあるだろう?
村にもあるはずだ。
戦利品として」
⋯⋯あぁ。
デンデラの村の中で無双した武器達のことか。
「あれらを持つ私の本のようなこんなドロドロっとしたものを見たら注意だ。
夜の総量が多く、強いと言われている」
「先生、それはなんでですかー?」
一人の子が質問する。
「それはな、夜というのがまだまだ未確定なモノばかりで説明ができないところだが、体に血が通っているのは説明したと思うんだが、それとは別に、大人になると黒いものが漂う事になる。
それを使って夜を使う事が出来るんだが、強い夜はその総量が多くないとそれらを具現化する事はできないということだからだ」
「へぇ〜!!」
「要するに、短剣や強化する事についてはそこまで負担にはならないということじゃな。
それの延長線に伸ばしたものが、次の段階の夜になる」
「先生」
「どうした?エオ」
「先生の言い分だと、まだありますよね?」
ニヤッと笑って本を閉じ、先生は続ける。
「勿論。
その次にあるのが、特殊形態」
「特殊形態ー?」
「あぁ。
私の本然り、遠くからでも矢を射ってくる夜がいたり、言葉に力を込めることのできる夜なんか様々じゃ。
つまり普通ではない夜を見た時は、すぐに逃げる。
⋯⋯でないと死んでしまう」
やっぱり先生は凄腕の夜使いって事なんだ。
──僕も強くなれるようにならないと。
「と、そろそろ私は行く。
次の授業まで皆生きるんだぞー」
「は〜い!!!」
そうして先生は去っていく。
先生の目的は今でもあまりわかってはいない。
けれど、僕はその気まぐれのおかげでこうして⋯⋯生きている。




