村
僕達は日々、この広い村と呼ばれる場所で過ごしている。
「エオ、おはよー」
「おはよー!」
「あっ、エオだー!」
「おはよ、みんなも元気そうだね」
子供達とすれ違う。
改めて見てみると、この村は⋯⋯どれくらいいるんだろう?
んー多分、数百人はいるかな?
でも、そんな広さに対して他には何もない村だ。
「よっ、エオ」
壁に寄りかかっていたデンデラが手を上げて挨拶してくる。
僕もそれに手を挙げて返していると、近くにグランとニバもいた。
「おはよ」
「おはよう」
「おはよー!」
集まってるのはここに来てからもう長くなる人間たち。
これを僕達の中では"年長者組"って呼んでる。
「全部で100ちょいか」
腕組みをしながらデンデラがボヤく。
「一気にここ最近で減ったんじゃない?」
屈んで小石で遊ぶグランを見下ろしながら、軽くデンデラは頷いてる。
「まぁグランの言う通り、ここ最近の遠征は収穫がぐんと下がったからな。
しかし──」
デンデラの視線の先。
僕も見てみると、黙る気持ちが分かる。
それは少し遠くで行われている僕達の日常で⋯⋯聞こえてくるのは鈍い音。
「オラッ!!くそがっ!!」
「ごめん!ごめん!!」
奥の方では新人なのか、喧嘩をそこら中で起こす子供達の姿があった。
「あーまたやってるな」
「⋯⋯懐かしい光景だね」
デンデラは溜息をついて笑い、グランはボリポリ頭を掻きながら無関心。
僕達の村では常に外と同じく縄張り争いが行われている。
エオとデンデラというグランとニバのような子供もいるが、大概は自分達が頭だと言い張って周りの子どもたちと争い、戦っている。
子供達は外から必死に集めてきたモノを頭たちに渡し、頭となる人物はそれをただぶんどる。
流れとしてはそんな所だ。
「ごめん⋯⋯!ごめんなさい!!」
血を噴き出し、倒れて膨れ上がった顔を見せながら無抵抗の子供。
「てめぇらの代わりなんていくらでもいるんたぞぉ!?あぁ!?
どいつもこいつも使えねぇバカばっかりのカスども⋯⋯なんの役にも立たねぇ奴らに優しくする理由はねぇからな!!?
──てめぇ聞いてんのかよ!」
「うっ⋯⋯!ごっ⋯⋯めんっ!」
「ハァ⋯⋯おい、分かったらどいつもこいつも遠征して来い!!!」
上に乗って顔をずっと殴り続けていた頭の男の子は髪を掻き上げた直後⋯⋯全力で拳を振り切った。
「「「おぉっ」」」
僕達は一斉に視線をそらす。
すると、場は静まっていた。
戻して見てみると、脚を引きずる子供たちが泣きながらとぼとぼ外へと向かって歩いている。
「⋯⋯今三人ってところか」
「そうだね。
今のがアルグで、向こうにいるのがアセラ、小規模だけど絶対的な集団のア・ダドマ」
三人いる主な頭の人間達。
そんな中、僕達の所だけが平和で大人数いるけど、向こうにいる子供たちのほうが圧倒的に多い。
「俺達のところだけだぜ?
ドンドン人が減っているのは」
「そりゃそうだろ。
俺とエオ、グランとニバを含め、あんまり新しいのを望んでねぇ奴らが集まってるしな。
⋯⋯それに、あいつ等、今まで以上に勢力を増やそうと力を入れてやがる」
デンデラは僕の為にここの畑を隠している場所を含めて縄張りにしてくれている。
だから被害は今の所全くと言っていいほどないけど、あっちは違う。
基本的には大人たちとやってることは何も変わらない。
そこには外とは変わらない世界だ。
「女を出来るだけ助けてやってはいるがよ、エオ」
横目でちらっと僕を見てくる。
「分かってるよ」
言葉の意味は分かってる。
あいつ等がいつ攻めてくるか分からないのに、女の子ばかり助けた所で意味がない事も。
「ていうかエオも変わってるよなぁ」
「ん?」
立ち上がってグランが不思議そうに言う。
「デンデラもそうだけどさ、エオは本当に変わってるよ。
女を助けたりすんの」
「まぁな。
俺も最初はエオの言ってることはあんまだったけど、まぁ慣れた」
「だって見てて気持ちの良いものじゃないでしょ」
⋯⋯だってそうでしょう?
いくら男が強いからってあんな髪引っ張ってやりたいことやるって道具じゃないんだからさぁ。
「だって女ってそういうもんだろ?
なんて言うと怒られるな⋯⋯ニバにぃぃっ!!」
「死ね!!
グランのカス!!」
グランに掴みかかるニバ。
そのまま首を絞めて手を叩いている。
「俺は至極真っ当な事を言ってるつもりだね!
こんな力もなくて身体能力もないやつをなんで救うのかって話だろ!」
手で防ぎながら懸命に反論しているグラン。
「まぁまぁそこまでにしときなよ」
「ほら!エオはマジでいい男の子だよ!
どっかのグランと違って!」
「⋯⋯と、さすがにやり過ぎだからよ、あれは止めに行ってくる」
珍しくデンデラが寄りかかるのを止めて、""ポケット""に手を突っ込んで争いの中心へと向かっていく。
「珍しいね」
「確かに。
いつもは見てるだけなのに」
歩いていくデンデラの背中には、"怒り"が何故か見える。
「おい!
お前は俺のもんだって言ってるだろ!!」
「嫌だ!!
オールスも一緒!!
オールスとは"友達"なの!!」
アセラの所かぁ。
結構過激そうだな。
あんな引っ張ってお腹に蹴りも数え切れないくらい入れているし。
「その辺にしておいてやれ」
「⋯⋯あ?」
見上げるアセラだが。
誰かを理解した瞬間、少し顔が引き攣っている。
「で、でっデンデラか」
「あんまり過激な事はすんなって前言ったはずだぞ。
うちの連中が嫌がるって」
「⋯⋯最近ヤケに来ないと思ったらなんだ?
何がご不満だよ」
「⋯⋯⋯⋯知らねぇよ。
さっさとお前らの場所へ行けよ。
"この二人は置いて行け"」
「はぁ〜。なんだなんだ?
何を企んでる?何に使うつもりだ?
まさか遠征の餌か?
俺も餌を探していたんだ。
おい、コイツらの代わりを⋯⋯」
「聞こえなかったか?アセラ。
俺はこの二人を置いていけって言ったんだ」
見下ろすデンデラは、いつもより圧があった。
「っ、なんだよ。
あの時の俺だと思ってるのか?」
「別に、お前がどうだったとかは記憶にねぇよ」
仰け反り、引き攣りながら精一杯笑うアセラに対して、デンデラは無感情に言い放つ。
「最近──」
怒りを含んだ屈むアセラの手が動く。
「ちょっと戦ってねぇからってあの時と同じかどうか──」
デンデラへ掴みかかり、そのまま地面に押し倒す。
「俺も身体が随分でかくなったんでなァ!」
しかし、デンデラは無抵抗にそのまま押し倒される。
「でっ──!」
ニバがそう言いかけるのを、僕は止める。
「大丈夫」
ギュウウウと押しつぶされている中。
「っ!?」
押し倒すアセラの足が徐々に震えを起こして青ざめていく。
「何⋯⋯しやがる!!」
「早く退け。
今膝を極めてる。
お前が退くなら何もしねぇが、退かなきゃ折るぞ。
膝が逝ったら⋯⋯どうなるかお前も分かるだろ?」
この村には大人のような"回復"はない。
だからみんな正面衝突を避けている。
「っくうっ⋯⋯ァァっ!!」
動こうとしたアセラを見たデンデラが膝をなんかごちょごちょやってると思ったら、気付けばコロンと転がって体に巻き付いて、両手で軽そうに首を絞めていた。
「ぁっっ、っ、っぁっ⋯⋯!」
見ているだけで息苦しくなる。
昔一回事が起きたのはあるけど、あのアセラが声すら出ないなんて。
「──意識飛ぶだろ?
早く答えろ⋯⋯へし折るぞ。
黙って帰れ」
「で、デンデラ⋯⋯や、やっぱり強い!」
ピリッと張り付いた顔のニバが小声で呟く。
「"頭"から落ちたくはねぇだろ?
──女と食料が無くなるもんな?
今なら"俺がいるから負けた"で許されるぞ」
「わ⋯⋯わかっ⋯⋯た⋯⋯ぁ!!⋯⋯悪かっ⋯⋯」
そこで、アセラの意識が切れた。
「おい、そこの手下」
「は、はい!!」
「頭連れて帰れ。
今なら許してやる」
デンデラの言葉に手下の数人がすぐにこの場から離れ、下にいた二人に目を向ける。
「⋯⋯早く来い」
「「は、はい」」
引き連れてきたデンデラ。
僕を一瞬見て、パチンと片方の目だけ閉じる。
はぁ⋯⋯"いいよ"。
内心笑うしかなかった。
「あ、ありがとうござ──」
男の子がデンデラへお辞儀した瞬間、凄い空を切る音と共に顔面に拳がめり込んでいる。
「デンデラ!!」
「ぁーっっ!!
くっ⋯⋯ゃァァァ!」
土に倒れてジタバタしている彼を見て、立ち上がろうとするニバを僕は止める。
「な、なんでっ!」
僕はただ首を横に振って二人を眺める。
デンデラらしいや。
「ぁ⋯⋯がぁ⋯⋯っっ〜!」
凄い勢いでのたうち回る男の子。
鼻からは大量の血が流れ、ビクビクうずくまっている。
「ごめんなさい!!
オールスは悪くないんです!!
私が一緒にいたいって言ったんです!
なので──きゃっ!」
オールスという男の子を守るため、身を差し出して何とかしようとする女の子を殴る事はせずに、女の子をどかしてオールスの上に乗る。
「てめぇ男だろうが。
なに女に謝らせてんだこの野郎」
「す⋯⋯すみばせん──」
一発。
「っぁ!ぐっ!」
ゆっくり。
デンデラらしい。
破壊的な力を持った男の一撃。
「オールスは悪くないんです!!」
一定の間隔で。
「あぐ⋯⋯ぁ!」
デンデラの顔に飛びはねるオールスの血。
「この世界にな、弱い男に価値はねぇんだよ。
何か力はねぇのか?
えぇ?
エオのような頭脳や統率力。
グランの狡猾さや俊敏さ。
ニバの隠密。
女なら女の、男には男の土俵で戦える能力を身に着けろや。
⋯⋯ダセェ真似すんなよ。
視界に入って不快なんだよ。
みっともねぇ、男の癖に」
一人泣く血だらけの男の子を背に、デンデラは立ち上がってホコリを払う。
「次の遠征」
「「⋯⋯?」」
「次の遠征でお前の力を証明しろ。
女はまだいい。
だが男は強くねぇとここじゃ生き残れねぇぞ」
「ばぃ⋯⋯!!!
何でもしますから!!!」
急いで起き上がって泣いて叫ぶオールス。
「何でもやれよ。
俺達は平和な方だが、向こうは地獄が待ってんだからな」
そんな彼に対して静かに一言発して、僕達の方へと帰ってくる。
⋯⋯⋯⋯僕達の日常はこんな事が日常茶飯事だ。




