重ね
厄介だな。
「ハァアアア!」
──"燃えろ"
迫ってくるこのガキに夜を使う。
しかし。
「っ⋯⋯っ!」
なんだ、このガキは。
天性の感覚でも持っているのか?
俺が飛ばすと同じか、その前には発火する場所を"理解"している。
空中でも身体操作によってズラしている。
⋯⋯距離が詰まる。
あまり夜を連続して使いたくはない。
消耗が早まる。
「ふっ!!」
踏ん張る鼻息と共に、雷を帯びた拳を強化した前腕で防ぐ。
大したことはない。
確かにこいつらの中では強い。
──"間違いなく"。
「っ?」
衝撃が背中を超え、背後まで貫通している。
防いだはずがズキッと背中が何故か痛む。
⋯⋯衝撃を和らげられなかったか?
少し引き、脇目掛けて蹴る。
「っ!」
やはり。
このガキ⋯⋯誰かから入れ知恵を受けているな。
足を絡ませて俺に向かって蹴りを飛ばしてきている。
あの時の非力さが完全に消えている。
⋯⋯いや、想定済みだ。
あのトリスという男が居るのだ、鍛えられていないわけがない。
それに精神力がかなり鍛えられているな。
とにかく成長が早い。
──ドン・ゴ様。
念話か。
"どうした?"
──予想以上に相手のガキどもが厄介です。
"潰せ。
俺ですら時間が掛かっている。
取り込むのは諦めていい"
──よろしいのですか?
"取り込みたいのは山々だが、勘がまずいと言っている"
──畏まりました。
「⋯⋯遅い」
「っ!」
やはりまだまだだ。
知性はあるものの、戦いの経験が多くない。
「⋯⋯⋯⋯」
よろめいて⋯⋯それでもガキは立ち上がる。
それにしても。
厄介なのは⋯⋯もう既に俺の発火が通じなくなってきているところだ。
"飛べ"。
だが念じた時には奴はその場所にいない。
なんだ?あの動き。
両手を地べたについて回りながら、次の瞬きでは派手に俺の懐へと突っ込んでくる。
「っ、ちょこまかと」
発火を使おうにも思った以上に速い。
俺は虎獅子や"あの人"のように夜を活性化させて具現化する所までには行けていない。
ーーん?
"俺も入れてください!"
「⋯⋯⋯⋯」
邪魔くさい古い記憶だ。
あんなのに頭を下げた自分が憎い。
きっと過ぎったのはエオのせいだろう。
「ハァ、ハァ」
夜が具現化し、自分が負けないとすら思ってる若い世代の青年。
「エオ!頼む!!」
「「「「エオ!!!!」」」」
⋯⋯くだらない。
俺には、上に登る必要があるんだ。
その為に必要な事は何でもした。
本当に何でもした。
"俺も浪漫があるんです!!"
ーー頭、なんか変なガキが食糧持ってきてますけど
「⋯⋯⋯⋯」
くだらん。
あまりにもくだらなく。
ーー名前は?
"まだ名前はありません!"
ーーでは君は、ソテルと名乗りなさい。
"ど、どんな意味があるんですか!?"
ーーソテルというのは、私の知る中で最も働き者で、最も⋯⋯自中心だということだ
"じちゅうしん?"
ーー君は多分、手段を選ばない子だ。
だから私の組織に入ったら、まずはそれを捨てよう。
⋯⋯私の組織の教えは、
「くだらん!!!!」
「っ!?」
ガキを見下ろす。
「なぜお前を見ていると苛立つのか。
なぜここまで昔のことが蘇るのか⋯⋯簡単な話だ」
ーー簡単さ。
善悪を受け入れて、やがて全員が一つの道へと到達する為の組織だ。
ーー受け入れます!!
全員が全員とで作り合って満たされるから!!
自分が辿り着けなかった答え。
⋯⋯一つの到達点。
それを恐れたからだろう。
俺は組織に数日持たなかったから。
逃げたから。
あの怪物になりたかっただけなのに。
その片鱗を見たかっただけなのに。
──強くなりたかった。
──人より優れていたかった。
──女に恵まれ、才に恵まれ、人に恵まれ、それでも諦めない精神力を最初から持ち合わせていた化物。
「お前は絶望する」
消耗などと言ってられるか。
エオを燃やせと全身が叫んでいる。
「お前はアレにはなれない!!」
「な、なんですか!?」
ーー我々人間とは、上に行くために必要なモノを制御する為に善と悪、様々な感情が与えられているんだよ。
"貴方になりたかった⋯⋯"
「⋯⋯黙れっ!!!」
雑念が邪魔だ。
「想起せよ──!!」
「|渇望する理不尽への手向け《アミュレットプログレス》」
逝け。
固まって俺の前に現れる⋯⋯黒火の鳥。
奴も怪しいだろう。
「はぁ、はぁ⋯⋯ふぅ」
ボロボロながら──来る。
広がる⋯⋯夜。
俺までも圧倒される。
あの歳で。
あの未熟さで。
もう具現化を覚えるその才に。
映し鏡のように俺を苛つかせる。
「お前のような異分子はここで⋯⋯潰す」
夜を使いながら俺は、走る。
夜の耐久力から考える肉体の強化度合いは俺の方が上。
⋯⋯負けるわけがない。
「来い!!」
鳥を連れ、俺は潰しに走る。
全てを⋯⋯ぶつける。
アレを潰す。
上に行くためにも。
俺は頼まれてもいるからだ。
南を頼む、と。
「──絶対に潰す」




