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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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74/83

一つの因縁

 

 遂にここの話に来ちゃったかbyさくしゃ

ーーー








 そこはいつもなら子供たちの声で溢れ返る場所だった。


 「ふっ」


 だが。

 ⋯⋯今はそんな状況ではない。


 その場に一人笑って立つトリスの元へ、黒いローブに包まれた人影が跪く。


 「状況は?」


 「ハッ、現在少々まずい事に」


 「⋯⋯何?」


 「順を追って説明いたします」


 そう言い、部下の一人が説明をしていく。


 「ハハッ!

 アイツやっぱりやりやがったな!」


 説明の度にトリスの顔は喜怒哀楽激しい顔つきで聞いていた。

 

 まさか、アイツがそこまで到達するとはな。

 ⋯⋯それに。


 「やっぱり兄貴の後継者って事で間違いねぇってことか」


 ──俺がなるつもりだったのに。


 「悔しいわ」


 「なんの事でしょう?」

 

 首を傾げる部下に苦笑いで見下ろしながら言う。


 「知ってるだろ?

 あの本の内容」


 「あっ⋯⋯」


 部下の顔が察する。


 「あれを解読できるのは、資質を持った者のみ。


 ⋯⋯俺は最初から読むことも感じることもできなかった」


 「あの例の⋯⋯」


 「あぁ」


 どんだけ時間をかけても、何も感じない。

 でもアイツは感じて、実際に使えた。


 それが"答え"だ。


 「てことより⋯⋯」


 「トリス!!」


 同じローブを着る部下の一人⋯⋯けれども、同じ時期の友であるザイがやってくる。


 「ザイ?」


 「まずい!

 エオの坊やが──」


 追加連絡が行われる。

 その瞬間、トリスの顔が一気に険しく夜が溢れる。


 「なんだと?」


 ドン・ゴと──"虎獅子"!?


 「⋯⋯想定外だ」


 完全に想定外だ。


 「兄貴もこれは知らないな?」


 「あぁ!急いで伝えに──」


 

 ──ドンッ!!


 

 響いたのは、空気を、空間を裂く一発。

 ザイの眉間を抜く、黒く丸い弾丸。


 地面には綺麗に抜かれて飛び散る──破裂した血痕。


 ⋯⋯ガチャン。

 

 「⋯⋯⋯⋯」


 一回するとカチャリと小さくトリスの耳に入る。


 目を合わせずに、トリスはその場で発した。


 「この威力、この精確さ」


 






























 ──バンズーリンか。


 長い銃を握る一人の男。

 待っていたように葉巻をくわえながら片膝を立てて構えていた。


 静かに。

 銃口を⋯⋯カチャリと、トリス目掛け。


 「トリスがここにおるんやったら⋯⋯"アタリ"やな」


 静かに。

 獰猛な眼光に変わるトリス。


 「バン、ここで合ってるか?」


 「せやねん。

 あのトリスがわざわざ部下と会合してるっちゅうことが答えや」


 バンズーリンの元へやってくる一人の仲間との会話を遮り。


 「──バンズーリン」


 「ん?なんや?」


 「ザイの事を忘れたのか?」


 「ん?あぁ⋯⋯ザイ?

 覚えとるよ。

 

 昔三人で戦い方を学んだなぁ」


 「今撃ったのはザイだぞ」


 風が、二人の間に吹く。


 「⋯⋯それで?」


 なんの気もないその言葉に、トリスの足下には血が零れていた。


 「舐めてんのか?」


 「舐める?

 そんなことないやんか。


 ワレは"敵"やろ?

 いつまで甘ちゃん勢力運営しとんの?」


 「あァ?」


 「俺が嫌いやったんはその甘ちゃん思考や。

 理想ばっかで口だけ⋯⋯。


 兄貴だけやったんやない?

 しっかり実もくれてたんわ」


 「それを裏切ったテメェに言われる筋合いはねぇよ」


 「なぁワレ、銃口向けられてるの分かっとる?


 お前敵やで?

 ⋯⋯これはただのお情けや」


 「それよりなんでてめぇがここにいんだよ」


 銃口を上に少し上げ、バンズーリンは一口葉巻を吸い込む。


 「聞いとらん?

 俺、今東四十番通りの傭兵やっとるんよ」


 「お、お前⋯⋯」


 吃るトリス。


 「トリスさん、まさか」


 「──あぁ」


 部下の上擦った言葉に冷や汗をかいているトリス。

 

 「お前、街を超えることがどういう意味か⋯⋯分かってるのか?」


 ガチャン!と折れ曲がった中から出てくる弾倉。

 

 「⋯⋯分かっとるよ」


 近くで聞いていた仲間を含め、皆言葉を失っている。


 そんな無音の空気の中、バンズーリンは弾を込めながら、発した。


 「まぁ、凄まじい苦痛やったなぁ」


 「天国の階段レベルで死ぬんだぞ。

 ⋯⋯よく耐えたな」


 「こないなむさ苦しいところが嫌いやってん。


 どいつもこいつも浪漫浪漫て⋯⋯暑苦しくてかなわん」


 「なんだと?」


 「トリスも分かっとんのちゃう?

 結局のところ、俺もお前も⋯⋯あの男に利用されていただけやん」


 「そう断言できる理由は?」


 「俺らの中でまともに開花した人間は極一握りやん?

 しかも、雁首揃えたら⋯⋯昔の連中がほとんど。


 俺ら新参者は結局今になっても誰も開花せん。

 誰も本物を開花した人間がいないのによく信じていれるな?」


 一瞬詰まるトリスとその部下。

 

 「⋯⋯トリスさん」


 ぶら下がる手を部下が握り締める。


 「分かってるさ」


 そう。

 俺達も、戦い方は教えてくれたが、肝心の技術は誰も──ほとんど知らない。


 情報としてはある。

 が、実際のところ誰も知らないのが現状で、俺達はその見えない希望に縋るように特訓した。


 どれだけ重ねても、結局難しかった。

 

 だがサヴァンだけは⋯⋯"意味は理解出来た"と言っていた。

 俺にはそれすら出来なかったがな。


 「お前の言うことは間違いねぇ」


 「⋯⋯やろな。

 それになぁ」


 再装填が終わったバンズーリン。

 折れ曲がる銃を手の動きで戻し、銃口をトリスへと向ける。


 「理解できん。

 あないな使えん女共を守り自由にさせる理由も、弱い男も強くする理由も。


 ⋯⋯理解できへんよ。

 使い道が限られてるんやから最大限利用したったらええねん。


 弱くて使えん男は労働させたらええし、女はキーキー騒ぐだけなんやから殴って言う事聞かせればええねん。


 それを浪漫や平和や言うて⋯⋯頭おかしいんとちゃう?」


 「プッハハハハ!」


 突如噴き出すトリス。

 首を傾げ、バンズーリンは困惑すらしている。


 「なんや?

 自分の死期悟っておかしなったんか?」


 「──いいや」


 「ん?」


 背を向けたままのトリスは、ゆっくり振り向いて、バンズーリンを射貫くように見つめる。


 「昔から変わんねぇよな?」


 一瞬斜め上を向くバンズーリン。


 「何がや?」

 

 「お前は合理合理言って、あの時も何故強くするのかってよく言ってたわと、思ってな」


 「⋯⋯だって意味分からへんもん。

 弱いやつはずっと弱いねん。


 俺達ももう結構時間重ねてるけど、実際弱いやつが強くなった例なんてほぼ見たことないやろ?」


 「⋯⋯お前はそう思ってるんだな」


 「んわぁ?」


 本気で分からんと眉間にシワが寄るバンズーリンを見て、トリスは笑う。


 「ケッ、まぁいいか」


 「そうそう。

 それでええねん。

 

 今、自分の命を優先せな」




 ーーなぁワレ、強いんか?


 「⋯⋯⋯⋯」


 ぶら下がるトリスの腕。

 ⋯⋯フッ。


 「まぁ──」


 戦うと、握ったその時。


 「⋯⋯ッ!?」


 世界が────軋む。


 「オイオイ⋯⋯バンズーリン」


 キィキィ言ってるこの音。

 耳障りで、けど、圧倒的な夜の圧力。


 




































 「き、虎獅子」


 「ほぉ?

 お前、あの時のガキか」


 前髪をかきあげて現れたのは、夜を存分に醸し出す虎獅子。


 「も、もう」


 ⋯⋯まじかよ。

 エオは?状況は?


 「そんな場合──じゃ、ねぇよな?」


 そう発するトリスのこめかみに流れる⋯⋯冷や汗。

 滴っていく汗。


 見つめる眼には"戦慄"の二文字がこもっていた。

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