一つの因縁
遂にここの話に来ちゃったかbyさくしゃ
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そこはいつもなら子供たちの声で溢れ返る場所だった。
「ふっ」
だが。
⋯⋯今はそんな状況ではない。
その場に一人笑って立つトリスの元へ、黒いローブに包まれた人影が跪く。
「状況は?」
「ハッ、現在少々まずい事に」
「⋯⋯何?」
「順を追って説明いたします」
そう言い、部下の一人が説明をしていく。
「ハハッ!
アイツやっぱりやりやがったな!」
説明の度にトリスの顔は喜怒哀楽激しい顔つきで聞いていた。
まさか、アイツがそこまで到達するとはな。
⋯⋯それに。
「やっぱり兄貴の後継者って事で間違いねぇってことか」
──俺がなるつもりだったのに。
「悔しいわ」
「なんの事でしょう?」
首を傾げる部下に苦笑いで見下ろしながら言う。
「知ってるだろ?
あの本の内容」
「あっ⋯⋯」
部下の顔が察する。
「あれを解読できるのは、資質を持った者のみ。
⋯⋯俺は最初から読むことも感じることもできなかった」
「あの例の⋯⋯」
「あぁ」
どんだけ時間をかけても、何も感じない。
でもアイツは感じて、実際に使えた。
それが"答え"だ。
「てことより⋯⋯」
「トリス!!」
同じローブを着る部下の一人⋯⋯けれども、同じ時期の友であるザイがやってくる。
「ザイ?」
「まずい!
エオの坊やが──」
追加連絡が行われる。
その瞬間、トリスの顔が一気に険しく夜が溢れる。
「なんだと?」
ドン・ゴと──"虎獅子"!?
「⋯⋯想定外だ」
完全に想定外だ。
「兄貴もこれは知らないな?」
「あぁ!急いで伝えに──」
──ドンッ!!
響いたのは、空気を、空間を裂く一発。
ザイの眉間を抜く、黒く丸い弾丸。
地面には綺麗に抜かれて飛び散る──破裂した血痕。
⋯⋯ガチャン。
「⋯⋯⋯⋯」
一回するとカチャリと小さくトリスの耳に入る。
目を合わせずに、トリスはその場で発した。
「この威力、この精確さ」
──バンズーリンか。
長い銃を握る一人の男。
待っていたように葉巻をくわえながら片膝を立てて構えていた。
静かに。
銃口を⋯⋯カチャリと、トリス目掛け。
「トリスがここにおるんやったら⋯⋯"アタリ"やな」
静かに。
獰猛な眼光に変わるトリス。
「バン、ここで合ってるか?」
「せやねん。
あのトリスがわざわざ部下と会合してるっちゅうことが答えや」
バンズーリンの元へやってくる一人の仲間との会話を遮り。
「──バンズーリン」
「ん?なんや?」
「ザイの事を忘れたのか?」
「ん?あぁ⋯⋯ザイ?
覚えとるよ。
昔三人で戦い方を学んだなぁ」
「今撃ったのはザイだぞ」
風が、二人の間に吹く。
「⋯⋯それで?」
なんの気もないその言葉に、トリスの足下には血が零れていた。
「舐めてんのか?」
「舐める?
そんなことないやんか。
ワレは"敵"やろ?
いつまで甘ちゃん勢力運営しとんの?」
「あァ?」
「俺が嫌いやったんはその甘ちゃん思考や。
理想ばっかで口だけ⋯⋯。
兄貴だけやったんやない?
しっかり実もくれてたんわ」
「それを裏切ったテメェに言われる筋合いはねぇよ」
「なぁワレ、銃口向けられてるの分かっとる?
お前敵やで?
⋯⋯これはただのお情けや」
「それよりなんでてめぇがここにいんだよ」
銃口を上に少し上げ、バンズーリンは一口葉巻を吸い込む。
「聞いとらん?
俺、今東四十番通りの傭兵やっとるんよ」
「お、お前⋯⋯」
吃るトリス。
「トリスさん、まさか」
「──あぁ」
部下の上擦った言葉に冷や汗をかいているトリス。
「お前、街を超えることがどういう意味か⋯⋯分かってるのか?」
ガチャン!と折れ曲がった中から出てくる弾倉。
「⋯⋯分かっとるよ」
近くで聞いていた仲間を含め、皆言葉を失っている。
そんな無音の空気の中、バンズーリンは弾を込めながら、発した。
「まぁ、凄まじい苦痛やったなぁ」
「天国の階段レベルで死ぬんだぞ。
⋯⋯よく耐えたな」
「こないなむさ苦しいところが嫌いやってん。
どいつもこいつも浪漫浪漫て⋯⋯暑苦しくてかなわん」
「なんだと?」
「トリスも分かっとんのちゃう?
結局のところ、俺もお前も⋯⋯あの男に利用されていただけやん」
「そう断言できる理由は?」
「俺らの中でまともに開花した人間は極一握りやん?
しかも、雁首揃えたら⋯⋯昔の連中がほとんど。
俺ら新参者は結局今になっても誰も開花せん。
誰も本物を開花した人間がいないのによく信じていれるな?」
一瞬詰まるトリスとその部下。
「⋯⋯トリスさん」
ぶら下がる手を部下が握り締める。
「分かってるさ」
そう。
俺達も、戦い方は教えてくれたが、肝心の技術は誰も──ほとんど知らない。
情報としてはある。
が、実際のところ誰も知らないのが現状で、俺達はその見えない希望に縋るように特訓した。
どれだけ重ねても、結局難しかった。
だがサヴァンだけは⋯⋯"意味は理解出来た"と言っていた。
俺にはそれすら出来なかったがな。
「お前の言うことは間違いねぇ」
「⋯⋯やろな。
それになぁ」
再装填が終わったバンズーリン。
折れ曲がる銃を手の動きで戻し、銃口をトリスへと向ける。
「理解できん。
あないな使えん女共を守り自由にさせる理由も、弱い男も強くする理由も。
⋯⋯理解できへんよ。
使い道が限られてるんやから最大限利用したったらええねん。
弱くて使えん男は労働させたらええし、女はキーキー騒ぐだけなんやから殴って言う事聞かせればええねん。
それを浪漫や平和や言うて⋯⋯頭おかしいんとちゃう?」
「プッハハハハ!」
突如噴き出すトリス。
首を傾げ、バンズーリンは困惑すらしている。
「なんや?
自分の死期悟っておかしなったんか?」
「──いいや」
「ん?」
背を向けたままのトリスは、ゆっくり振り向いて、バンズーリンを射貫くように見つめる。
「昔から変わんねぇよな?」
一瞬斜め上を向くバンズーリン。
「何がや?」
「お前は合理合理言って、あの時も何故強くするのかってよく言ってたわと、思ってな」
「⋯⋯だって意味分からへんもん。
弱いやつはずっと弱いねん。
俺達ももう結構時間重ねてるけど、実際弱いやつが強くなった例なんてほぼ見たことないやろ?」
「⋯⋯お前はそう思ってるんだな」
「んわぁ?」
本気で分からんと眉間にシワが寄るバンズーリンを見て、トリスは笑う。
「ケッ、まぁいいか」
「そうそう。
それでええねん。
今、自分の命を優先せな」
ーーなぁワレ、強いんか?
「⋯⋯⋯⋯」
ぶら下がるトリスの腕。
⋯⋯フッ。
「まぁ──」
戦うと、握ったその時。
「⋯⋯ッ!?」
世界が────軋む。
「オイオイ⋯⋯バンズーリン」
キィキィ言ってるこの音。
耳障りで、けど、圧倒的な夜の圧力。
「き、虎獅子」
「ほぉ?
お前、あの時のガキか」
前髪をかきあげて現れたのは、夜を存分に醸し出す虎獅子。
「も、もう」
⋯⋯まじかよ。
エオは?状況は?
「そんな場合──じゃ、ねぇよな?」
そう発するトリスのこめかみに流れる⋯⋯冷や汗。
滴っていく汗。
見つめる眼には"戦慄"の二文字がこもっていた。




