本当の戦い
⋯⋯これが。
「ヨロシクな、少年」
手を差し出される。
その手は岩みたいで、手にも色々な文字が彫られているように見えた。
「嘘だろ⋯⋯」
「あの虎獅子が⋯⋯」
何やらコソコソ喋っている人たちがいるけど、僕はそれよりも気になっていることがあった。
「よろしくお願いします!
少し質問してもいいですか!?」
「ん?いいぞ」
「こ、この彫られているモノってどこの文字なんでしょうか!?」
なんか、先生の授業であったような絵みたいなモノにも見えるし、記憶の中で見た本にもあったような気もする!
「ん?これか」
握手を交わし、腕を見つめている虎獅子さん。
「実は俺もわかんねぇんだよ」
「へっ?」
「⋯⋯なんか、彫らなきゃいけない気がして」
「それって僕も彫ったりできるものですか?」
絵みたいなのかっこいい!
「なんだ、褒めても何も出ねぇぞ」
鼻で笑うが。
「まっ、いつか⋯⋯な」
ただ忘れてはいけない。
目の前の大男は、正真正銘"本物"の頭だ。
相対しただけで分かる。
──ブォォォォ!!
誰にも見えていないだろうけど。
僕にはこの人からとてつもない夜の威圧と風圧を貰っている。
すぐに分かる。
⋯⋯"絶対に強い人"だって。
「ま」
岩みたいな手が、僕の頭に乗っかる。
「少年」
目線を合わせて、僕を真っ直ぐ見つめる。
「良い眼だ。
俺は自分より弱い奴を虐める趣味はねぇ。
だから今はお前と闘うつもりはない。
けど──」
その紅い目は、何かが蠢いているように見える。
⋯⋯一瞬の煌き。
「強くなったら⋯⋯俺んところに遊びに来い。
そん時はもてなしてやる」
強く⋯⋯。
この人みたいに強く。
僕にでき──
「はい!"必ず"」
もう腹はくくったんだ。
自分のやり方で戦うって。
「そうこないとな」
カカッと鼻で笑い、頭を撫でてはそのまま通り過ぎていく。
「坊主共、立派になれよー」
背を向けたまま、虎獅子は片手を上げて、数十人の部下を引き連れて闇の中へ消えていく。
「エオ」
グランの顔の意味は分かる。
まさか僕達を殺さない?
──意外だ。
でも大丈夫。
あの先はトリスさんがいる。
何とか⋯⋯いや、何とかしてくれると信じるしかない。
「今の僕達じゃ──手も足も出ない」
あの眼。
あの文字。
肉体。
⋯⋯夜。
とても敵う相手じゃない。
「まさか、あの虎獅子が握手を交わすなんてな」
座っていたドン・ゴが心底驚いている。
「礼儀正しい人で安心しました」
「違う」
「え?」
顔が本当に"驚いて"いる。
何かあったのだろうか。
「まぁ、いい」
笑い、ドン・ゴは僕を見つめる。
「怖じ気づいたか?」
その問いに一瞬下を向く僕だが。
「⋯⋯まさか」
笑って僕は言い返してみせる。
「フンッ、イキがるか」
すると直後。
倒壊した建物を登る人影が大量に現れた。
「これからもっと地獄になるぞ、ガキ共」
⋯⋯まずい。
そこには、明らかに強そうな人たちが僕達を囲む。
「分かったかガキ共。
世の中を舐めていると⋯⋯こうなるんだよ」
人影からは大量の夜が開放され、僕達を見下ろしているのがよくわかる。
「──っ!?」
キン!と、僕の近くで音がする。
⋯⋯グランだ。
「エオ!!」
「グラン?」
自ら夜を開放して正面にいる敵へと斬りかかりに向かってる。
「てめぇら全員、エオの時間稼ぎをしろ!!
ドン・ゴだけに集中させるんだ!」
その号令の意味を瞬時に理解した僕の仲間と、これから仲間になる新旧の寄せ集めの集団。
「おっけーだ」
向こうの方でもキン!と続々戦い出す。
静まった戦争が⋯⋯再開する。
「エオ!頼む!
⋯⋯最後の頼みだ──奇跡を起こしてくれ」
本当、無茶言うよね。
「だね」
起こしてくれ⋯⋯か。
いや。
ドン・ゴを見つめ、僕は深呼吸する。
"やらなければならない"。
──必ず。
「ほう?
すっかり乗せられるのだけは上手くなったようだな」
「そうですか?」
「フンッ、強がりはよせ。
ガキの寄せ集めだってことは分かってる。
能力もある程度⋯⋯な」
──ドンッッ!!!
「ほう?
やはり強くなったな、ガキ」
押し込みが甘いか!
「だが」
⋯⋯っ!
咄嗟にしゃがんで避ける。
すると僕の背後にあった建造物が突然"燃える"。
「気は確かか?」
ドン・ゴの豪華な指輪がはめられた掌が黒く燃え上がる。
「こう見えてもあまり負けたことがないんだがな」
くっ!
「フンッ、よく動くガキだ」
ドン・ゴも僕と同じように拳を連打してくる。
身体が大きいはずなのに、動きが素早い!
こっちの拳が全部避けられる。
「さっきまでと同じ奴と思うな」
その時。
感覚が避けろと合図してくる。
「っい!」
しゃがみこむと突然僕の前で燃え上がる。
「ガキの喧嘩じゃないんだ。
ただ殺す為の戦いだ。
拳なんぞ時代遅れもいいところだ」
距離を取ろうとする。
けど、それでいいのか?
「フンッ、やっぱり知性のあるガキだ。
普通ならもう燃え上がってるだけなんだがな」
近い間合いで僕は殴り掛かる。
今の僕にできること。
「南の座を──獲る!!!」
「ハハッ、上等だ、ガキ!」
大きく両手を開くドン・ゴに、僕は拳一つで向かう。
この南を⋯⋯制覇する為に!
絶対、負けない!




