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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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筋書き

 時は二つの勢力が正面衝突している最中の事。


 「フンッ」


 少し離れたところで、男と女を地面に座らせてその上に座るドン・ゴ。


 ──だが。


 「⋯⋯っ」


 周囲に変化はない。

 ただ、彼の部下と奴隷たちがいるだけ。


 しかしドン・ゴ一人だけが感じる⋯⋯違和感。


 「全員、正気を保て」


 「はい?」


 「いいから」


 ドン・ゴは振り返らない。

 ただ、背後からバタンと次々に倒れていく部下の音が聞こえるのを聞き、静かに目を閉じる。


 「ようこそ」


 重く発する一言。

 それを聞いた一人の男は⋯⋯嗤う。


 「よう」


 猛獣のような鼻息を感じる一人の大男。

 ⋯⋯そう。


 「虎獅子」

 

 ドン・ゴの部下が急いで豪華で真っ赤に光り輝く椅子を一脚⋯⋯静かに添える。


 すると。


 「静かにもてなそうとするイイ女だ、どうだ?


 今度俺と死海(うみ)にでも見に行かねぇか?」


 椅子を添えた女の頬を自分の顔付近にまで寄せて、誘う。


 「わ、私はドン・ゴ様の奴隷ですから」


 「なぁんだよ、こんな大食いより俺の方が楽しいぞ?」


 見上げると轟々とギラつく紅い瞳。


 「虎獅子」


 「あァ?いいだろぉ?


 てめぇは食い過ぎなんだよ、俺はイイ女じゃねぇと食わねえ性格だからよ」

 

 優しく手を離し、若干の苛立ちを見せるドン・ゴを察した虎獅子は豪快に脚を組んで同じように見下ろす。


 「んで?アレか?お前が言ってたのは」


 「⋯⋯ええ」


 「用意周到だな。

 わざわざアレ終わってから行こうとするなんてよ」


 そこへ一人の側近⋯⋯ガイルクが飲み物を静かに手渡す。


 「ん、悪くねぇ」


 「ありがとうございます」


 手を軽く払うと、ガイルクは一礼して後ろに控える数十人の部下たちの中へと溶け込む。


 「ところであいつら⋯⋯いいのか?

 どっちも半端ねぇぞ」


 「貴方の言ってることはごもっともです」


 周囲数キロ吹き飛ぶ程の夜の衝突である。

 衝撃で二人の前髪が軽く浮きそうになるほどの。


 「もう一段階に入ってるアレが、もう二段階まで向かってる⋯⋯あんなの、俺達が若い時にはなかった事だ」


 「傑作です」


 「間違いねぇ」


 身を乗り出し、虎獅子は頬を吊り上げる。


 「いいのか?

 あの夜⋯⋯間違いなくこの先強くなるぞ」


 「⋯⋯その為の、貴方だ」


 横目で見合う二人。

 その視線のぶつかりは山と山が正面衝突しているような圧迫感があるほどだ。


 「そもそもお前が言ってきた条件があるかはわからねぇがな」


 背を預け、虎獅子は呟く。


 「居ます」


 「ん?」


 「──必ず、居ます」


 「本当だろうな?」


 「えぇ」


 







 「ど、ドン・ゴ」


 「あの時ぶりだな、ガキ」


 「⋯⋯エオ」


 一瞬で状況を察したグランが耳元で求めてくる。


 「僕が飛ばされて最初に見た人。

 多分凄い怖い人」


 その一言で全員に状況のまずさが一気に広まる。


 「いやぁ、見事だったよ」


 建物から一人軽やかな足取りで降りてくる。

 全員がその武器を手にしようとしているが、まだ誰も手が出せないでいる。


 「実に熱い」

 

 パン、パンと。

 その拍手は決して祝っているような表情ではない。


 「夢、希望⋯⋯素晴らしい」

  

 顎を上げて、そう言う。

 見ているだけで僕を嘲笑っているのが分かる。


 唇を結んで馬鹿にしている。


 「夜も凄い。

 あの時と別格だ」


 「何の用ですか」


 確かあの時は⋯⋯トリスさんを見て何かを思い出していたような。


 「そうだな。

 一言で言えば予定変更だ」


 「予定変更?」


 「⋯⋯あぁ」


 そう鼻で笑ってその場を行ったり来たりし始める。


 「俺の予想は⋯⋯最初からお前ではなく、あの兄弟が勝つと思っていた」


 足が止まり、ドン・ゴの睨みが僕に向く。


 「──言い切る、確実に」


 「っ、」


 「能力、人望、意思。


 どれも頭になる為には必要。

 他の奴らと比べれば明らかに突き抜けていた」


 ドン・ゴは嗤う。


 「だかお前は、勝った」


 笑って横目で僕を見る。


 「俺の中では兄弟を制圧して南を確実な盤面にする鍵がお前だけだったのだが⋯⋯」


 僕が、鍵?


 「あの時から気づいていたよ。

 お前には、異常な点がいくつかあると、な」


 身体が動くドン・ゴに二人が僕の前へと出る。


 「「エオ」」


 「なーに。

 お前らなんぞ戦力にすらならん」


 「馬鹿にしていると後で痛い目を見るぜ?」

 

 「そうだよ!」


 「やめておけ。

 世の中を知らなすぎるのは毒だ。

 

 ⋯⋯そもそも最初からお前たちを、"今"殺ろうと思えば初めから出来ていた」


 「「「⋯⋯⋯⋯」」」


 「それくらい経験値が違う」


 「ではなぜ」


 ──恐る恐る訊ねる。


 「それは簡単だ。

 この世界に信用や信頼などという言葉がないように、俺が確実に勝てるという要素だけで進むのは危険だからだ」


 近くに置かれた椅子にドン・ゴは座る。


 「答え合わせだ。


 お前、そしてあの兄弟⋯⋯まず間違いなくこの"南"に、そして"同時期に生まれた"のは奇跡と言っていい」


 前のめりになって断言するドン・ゴ。


 「まだまだ知らないことはあるだろう。

 しかし現時点でも、お前達が⋯⋯お前の後ろにいるお前に付いてきた人間たちを見ても逸材と言えよう。


 ⋯⋯そればっかりは褒めるところだ」


 近くの一人の女の子が怯えながら葉巻を渡している。


 あ、あんなに汚れて。


 「だが、それだけだ。

 お前たちガキどもを騙すなんてのは簡単。


 何故なら村にいるから、現実を知らない。

 情報が如何に武器になるかを知らない。


 あの兄弟とお前とで戦力を減らしてくれて大いに助かった。


 予定通り。

 だが、お前が負けて、兄弟になったところを絡め取る俺の戦略が──まさかお前が勝つとは、な」

 

 鼻で笑い、僕は煙が空へ登っていくのを見上げる。


 「ここまで筋書き通りだったのになぁ。

 お前を騙すのはかなり難航するのは目に見えている。


 "知性"を持っている。

 世情に疎く、知識が足りなくても、お前はきっと見つける。


 だから予定外と言ったんだ」


 ⋯⋯僕達の戦いが筋書き通り?

 

 それだけが、僕の頭に怒りを打ちつけてくる。


 ーーエオ!


 「⋯⋯⋯⋯」


 彼らの想いが筋書き?

 僕らの願いが筋書き?


 「フンッ、何やら言いたいことがありそうな顔だな」


 だけど、それを言葉にしてはいけない。


 ーーエオ、これから君が通る道のりは常人では耐えられない険しいモノだ。


 「⋯⋯⋯⋯」


 僕は今、"頭の候補"としてここにいる。


 「まぁ」


 ここにいる何百人、もっと居る人たちの頂点になろうとしているんだから。


 「怒りを沈めるとはやはり異常な精神性だな」


 「予定外だとして、僕達になんの意味があって?」


 無言でただ、手を僕に差し出す。


 「下になれ」


 「⋯⋯⋯⋯」


 「お前ならば、意味が分かるだろう?」


 「貴方の言う事を聞いて、ただ働くだけの?」


 「いいや?

 お前の願いは多少聞いてやれるし、好きなものをやろう。


 これ程の面子が揃っているんだ⋯⋯位もやれる」


 「──なら、難しいですね」


 ドン・ゴの顔が冷めていくのが分かる。


 「沈めたはずだが⋯⋯まだまだ青いな」


 この人にとってはそうなのかもしれない。

 けど、違う。


 僕がなろうとしているのは、"そこ"ではない。

 もっと、もっと大きなモノだ。


 「貴方は南の頭になりたい」


 「⋯⋯そうだ」


 「何故?」


 僕には理由があった。

 リオンたちにも、理由があった。


 なら、この人はどんな理由があるんだろう。


 「今日死ぬかもしれないガキ共だ⋯⋯良いだろう」


 風が吹いた。

 一瞬、空気が殺す。


 「"上"に行く為だ」


 「上?」


 「俺に言えるのはここまでだ。

 だが、俺としてはそもそも"ここ"で、頭になるということが悲願なんだよ。


 ──600か?

 いや、実質的に言えば900年以上空いたこの"南の座"を」


 600?900年?

 一体どれだけの⋯⋯


 「まぁいい」


 ⋯⋯その時だった。

 僕は初めて、死を感じた。


 ──ドン!


 それは死が近付いてくるようで。


 ──ドンッッ!!


 僕達は息すら出来ず、ただ、その徐々に迫ってくる大きな音に腰が抜けそうになるのをただ抑えていた。


 「おおっ」


 夜は黒い。

 本の中には色々な色があったし、記憶で他の色を初めて見た。


 黒いのは当たり前だ。

 けど、赤い色の夜を見るのは初めてだった。


 遠くから赤と黒の⋯⋯家を衝撃で破壊してくるナニカがやってくる。





































 








 「オオっ、少年」


 大男だ。


 暗闇から出てくる紅い瞳。

 猛獣のような浮いている髪。

 上裸で、短い下を履く大男。


 全身に何か文字が彫られている?

 なんて書いてあるんだろう?


 だが、そんな思考を許さない──圧倒的な夜の威圧がそこにはあった。


 「ガキ共はいい。

 まだ世界が広いと言うのを知れるんだからなァ」


 そう空を見上げながら発する大男は、僕を見て笑っている。


 「虎獅子だ。

 お前がエオだろ?」


 全員がハッとするのに風が二回吹くまで気付かなかった。


 「あっ、ぼ、ぼくがエオです!」


 「東の総大将⋯⋯いや、少年が分かるのは頭か。


 ま、これからもしかしたらちょくちょく会うかもな」


 「ちょ、ちょくちょく?」


 「南の頭になるんだろぉ?

 そこのデブに勝って、番狂わせがあるかもしれねぇ」


 そんな衝撃的な初対面を迎えた僕は、ただ困り果てていた。

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