喋
⋯⋯あれ?
「ここは?」
見回すと、そこには何もない空間。
「よっ」
「っ、わぁ!!」
突然肩を叩かれ、振り返るとそこに──
「エオ、見てたぞ」
同じようで、同じではない⋯⋯人。
「スヴェンだ。
まぁ心の中は穏やかじゃねぇけど」
なんて笑って、唇を尖らせて手を差し出してくる。
だから僕もそれに応える。
「みんな友達⋯⋯か」
また違うところから、お兄ちゃんではない、彼が居た。
「僕はエヴァン。
こんにちは」
「こ、こんにちは」
「エヴァン、あまり驚かせるな」
「はーい」
と、二人は何もなさそうな所に座る。
「見てたぞ。
友達⋯⋯難しいぞ〜?」
「そうですね」
自分でもそう思う。
「だが──」
スヴェンが見上げる。
僕もそれに合わせて見上げると、そこには、あの時の星空が見えた。
「そう⋯⋯なれたらいいよな」
じーんと来る、彼の途切れ途切れに吐く、言葉。
僕に入ってきたのは断片。
記憶と、誰かが話していた所だけ。
⋯⋯それにどんなに悲しい事があったのかは分からない。
「お兄ちゃん、僕達」
「言うな。
俺はお前と最期まで居れて幸せだった」
どんな結末だったのだろう。
二人の顔を見れば分かる。
「なぁ、エオ」
「ん、ん?」
スヴェンは僕を見上げる。
「俺達人間は──善なる生き方は出来ないのか?」
一切の迷いを感じない問いと、目。
まるで僕を測ろうとしているような。
「一言で言い切るにはあまりに難しいのではないでしょうか」
「そりゃあ、な」
足を組み直し、スヴェンは小さく吐きながら言う。
「でもお前はどうする?
この世界はお前のような奴はいない。
で──お前は言った。
"みんな同じで、悪い奴も良い奴も受け入れる"⋯⋯ってな」
「嘘をついてはいません、はい」
「どうするつもりだ?」
嘘をつきたくない。
「今はまだ、形にもなっていません。
だからまだこうと決まったものを出せる自信がないです」
「ハハッ、ねぇのかよ」
「良いから聞きなよ」
手で制して兄弟で何か言ってくれている。
「でも」
ふっと僕は二人を真っ直ぐ見た。
「悪い事をしているのが悪いことなのでしょうか?」
二人の顔が固まる。
「何?」
「確かにそうです。
人を殺めてしまったり、物を奪う、悪い言葉をいう。
どれも確かに、考えてみれば"悪い事"です。
しかし、です。
僕は考えるんですけど、悪いことをしない人間は──」
──"本当に人間でしょうか?"
「「⋯⋯⋯⋯」」
僕の問いに二人は何も言えずにいた。
「お二人も昔、悪いことをしていましたよね?
スラム街の⋯⋯」
「待て」
手で僕を遮り、目を見開きながら言う。
「なんで知ってる?」
「え?」
「俺達はなんとなく通じているのは知ってるが、過去を知っているのか?」
「なんとなく⋯⋯は?」
すると二人は大きく深呼吸をして困ったように笑っている。
「まぁ良いじゃないですか」
「「良くはない」」
「あります。
お二人も昔街へと繰り出していました。
善な生き方というのは、そういうのも駄目です」
「線引きは必要だ」
「──そうではありません」
今度は僕が遮る。
「ん?」
「あの時お二人が外に出ていなければ。
あの男の人と喋っていなければ、二人の生き方は大きく変わっていたはずです」
「「⋯⋯⋯⋯」」
「考え方も、その時必要だった感情も。
つまり、お二人は今のお二人だからそう言えるだけで、あの時のお二人にとっては必要なことではないのでしょうか?」
何も言い返してこない二人に僕は謝る。
「すみません。
別に押し付けたいわけでは⋯⋯」
「いや」
スヴェンは僕を見てはにかむ。
「──そうだな」
「なんだか申し訳ないです」
「エオはまだ若いのに、凄く物事を深く見るんだな」
足をブラブラさせて笑うスヴェン。
「個人としては、善も悪もあるからこそ、人間だと」
「でも、理想は必要だよな」
「それははい!
ですが、人は悪いことがなければ成長しないと思います。
だから本にも書いてあったんですけど⋯⋯山があって谷があると昔の人は言ったんだと」
「それ、聞いたことある」
ニヤけて笑ってくれるエヴァン。
「もちろん、悪いことはいけないです。
しかしながら、僕達は善なる行動や生き方が全てではない」
それは、色々なことを通して学んだ。
「その人たちに合った事を言わなければ、真に成長しないと学びました。
戦争をしている僕達に、戦争は駄目だと言ったところで解決しないですよね?
ですがどうでしょう。
二つの国にそれぞれ解決出来るような方法を考えるのが一番良いとは思いませんか?」
「⋯⋯まぁ、理想だな」
「はい。
ですからまずは対話をするべきです。
拳は最後でも悪くないですよね?
みんな、疲れてるんですよ。
だってそうでしょう?
毎日生きるために戦っている。
満足にねれない。
食べれられない。
飲めない。
そんな中でどうやって人の気持ちに寄り添えるんでしょうか」
「「⋯⋯⋯⋯」」
「だからっ」
ああ、なんだか恥ずかしい。
「みんなで同じように作ろうって。
色んなものを。
分け合って、みんなで送り合うんです。
そうすれば、お腹が満たされたら、少しだけ話す気になると思うんです!」
「⋯⋯満足だ」
「え?」
二人は立ち上がり、僕の肩を叩く。
「未来の頭──頼むぞ」
「スヴェン?」
振り向くと、二人の顔はリオンとラオンに変わっていた。
「アイツら馬鹿で、熱だけはあるんだ」
「はは」
それを聞いているラオンが笑う。
「そうですね。
エオ、後は頼みます」
瞬きをすると、二人は見たこともない本の中の主人公のような装飾されている礼服を着ていた。
「エオ」
エンと同じ時が浮かぶ。
まただ。
「待ってください」
「「⋯⋯?」」
「まだ」
──そう。
「まだしっかり⋯⋯」
「なーに言ってんだ」
肩を組むフリをして僕の首を巻きつける。
「く、くるじい⋯⋯」
「ハハハハハハッ、エオ」
「ば、はぃ!?」
「救ってくれて⋯⋯ありがとな」
「え?」
「俺の中はいつも、先が見えない壁ばっかだ」
「それは僕もです」
「だが、お前なら大丈夫だろう」
腕は解かれ、二人は僕の先を歩く。
それは永遠のように感じた。
歩く二人は何処か、満足げで。
後悔すら見えない。
僕はふと上を見ていた。
あの時見た空。
僕達の生きる場所ではない⋯⋯土の粒のような星々というもの。
そんな空の下、二人は僕を向かず、背中だけを見せてくる。
「俺達さ、最期まで飯が食えなかったんだ」
「けど、最期はお兄ちゃんと二人だったから」
「「幸せだったんだ」」
僕の方を振り返る。
なんて美しくて、儚くて、色が消えていく。
これが⋯⋯死。
二人が今までにないほど笑い。
そして──人の色が消えていく。
細かくなって、音が消えて、心が消える。
エンとは違う⋯⋯。
「なんて──綺麗なんだろう」




