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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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頭決闘<5>

 「ねぇ!お兄ちゃん!」


 「ん?なんだよエヴァン」


 "僕"の人生はずっと、それは丁寧に積み上げられた壁がこれでもかというほど鬱陶しい程あった。


 「わーっ!!!」


 「コラッ!」


 「ハハッ!

 お兄ちゃん、逃げよ!」


 木を整えてる平民を驚かせては、逃げる。


 「エヴァン殿下ー!

 スヴェン殿下ー!」


 いつも王宮で生活するのなんて嫌!

 つまんない!


 勉強、作法ばっかり!

 外に出るなって言われたりするし。


 でもねでもね、勉強の時に先生が言ってた。

 

 "今はずっと絶え間なく戦争しているから僕達は外に出ちゃいけないって"


 「おいエヴァン!

 あっち見ろよ!」


 使用人たちの目を掻い潜り、僕達は王宮の外に出る。

 

 「うわぁ⋯⋯!」


 晴れた"太陽"に、並ぶ店。

 

 「行こうぜ!」


 後光に照らされたお兄ちゃんを見る僕。


 「うん!!」


 





 「うっ⋯⋯!」


 バタンバタンと倒れる僕達よりも年上の子供たち。


 それを後ろから眺めていると。


 「久しぶりだな!」


 お兄ちゃんが声をかけると倒れている中で一人突っ立っている人。


 ──その人が、僕達唯一の友達。


 「ん?

 スヴェンとエヴァンか」


 振り返ると血塗れの拳を拭いて僕達を見下ろす。


 「ッたく、俺の立場も考えろよな」


 「だってケテルってスラム街の人なんでしょ?


 ほら、ごはん!」


 いつものようにケテルにパンを渡す。

 すると少し頭を掻いては黙ってパンを齧る。


 「ま、飯くれるしな」


 ケテルは凄いんだ!

 一人で武器もなしに挑んでくる人たちをみんな倒すんだ!


 ⋯⋯まさに物語の主人公のヘラクレスのようだ!


 「なぁなぁ!

 ケテルの戦い方教えてくれよ!」


 お兄ちゃんの問いにケテルはこめかみを軽くかいて笑う。


 「なんでお前らに必要なんだよ。


 貴族様だろ。

 ⋯⋯黙って守られてろよ」


 「カッコイイ!」


 「⋯⋯カッコイイだぁ?」


 「ケテルは俺達の英雄なんだ!」


 お兄ちゃんと同じだ。

 僕達が前に困った時、その拳で僕達を守ってくれたんだ!


 「母上と違って、またかっこいい!!」


 「テーラ王妃様か?

 比べる対象が悪すぎだろ」


 母上は毎日セラフィム様に祈っている。

 正直かっこよさは分からない。


 ⋯⋯でも、ケテルはカッコイイ!

 力で征服して、一人で生きている!


 「別にコレが特別って訳じゃねぇ」


 ケテルは雑に床に座って齧る。

 

 「お前らも聞いてるだろ?

 現国王の病死が迫ってるって」


 「「⋯⋯うん」」


 「もしかしたらこうして外に出れることも少なくなるかもしれねぇ。


 警備も今以上に酷くなるだろ。

 なんだか俺は好かれてるみたいだから、まぁ遺言。


 だから、これだけは言っておく」


 一通り遊んだ僕達に放った言葉。

 その言葉を生涯忘れることはない。

 

 ──"どんな行動も、言動も、理由を持て。

 悪童にはなっても、カスにはなるな"


 「理由?」


 僕もお兄ちゃんもわからなかった。

 

 「ガキの頃なんてやること成すこと⋯⋯理由なんてねぇだろ?


 歳を取れば理由が出てくる。

 金だ、家族だ、生きる為だ。


 お前らは貴族だ。

 俺らみたいなのよりも高貴な存在だろ?


 そんな奴らの決めた事なんて従うのが神の導き同然。


 まぁ色々あるが、お前らのやること成すことは、羨望の目で見られれば、呪いを受ける事もある。


 並の精神状態じゃ何も持たんだろ。

 ここスラムじゃ当たり前だ。


 人を殺す。

 人から物を奪う。

 人の女を奪う。

 人の男を奪う。

 人の家族を奪う。


 それらに理由がなければただのカス。

 だがな、理由があるとそれは、人の目を引く。


 どんな奴なのか。

 どんな思考回路をしているのかってな。


 ま、少なくとも自分の国民をカスみてぇな理由で捨てるなよ⋯⋯そういうこった」

 

 「「うん!!」」


 「わかりゃいい。


 お前らが目指せばいいのは悪童だ。

 お貴族様の考えることなんてわかりゃ知らんが、征服したいなら、片隅にでも置いておけ」







 それからすぐのこと。

 僕達は本格的に外に出れなくなった。


 「暇だな」


 夜。

 僕とお兄ちゃんは階段に座って、近くの大きな窓を開ける。


 開けると夜風が吹いて僕達を満点の星空へと導いてくれる。


 「これもセラフィム様のおかげだね」


 「⋯⋯かもな」


 父上が病床に伏している。

 僕もお兄ちゃんも、口から発することはない。


 けど、分かっている。


 "王位継承"がある。


 「なあ、エヴァン」


 僕を呼ぶ声に、星から滲む雨のような輝きが込もっている。


 「どうしたの?」


 「俺達はいつも一緒だったよな」


 「⋯⋯うん」


 前髪が夜風に吹かれ、夜に輝く蒼目には色んな感情が入っているように僕には見えた。


 「派閥の奴らはなんて言ってる?」


 僕達にはそれぞれ応援してくれる大人が付いている。


 それらはみんな──お兄ちゃんを殺す為の策を考えているのは薄々気付いていた。


 「お兄ちゃん」


 「⋯⋯分かってるよ」


 どんな気持ちなんだろうか。

 僕を見て笑うお兄ちゃんが悲しそう。


 「この世界はなんで狭いんだろうな」


 「うん」


 「母上は俺達の状態に介入できないから、ただ手紙でやり取りしてる。


 ただ、ごめんなさいって」


 母上。

 何も悪くないのに。


 「エヴァン」


 僕を見るお兄ちゃん。


 「気にするな」


 「お兄ちゃん?」

 

 「俺達は同じ■■の星の子だから⋯⋯またいつか巡り合う。


 約束だ」


 何かが遠くなるお兄ちゃんとの心の距離。

 目の前にいるはずなのに。


 「離れていても、俺達は兄弟だ。

 それだけは忘れないでくれ」


 「何処かに行っちゃうの?」


 「⋯⋯フッ」


 そう言うとお兄ちゃんは困ったように鼻で笑って、外を眺める。


 「エヴァン、一緒に眺めよう」


 人の数よりも多い星空。

 ⋯⋯そうして見上げたのが。




****




 「ハァ⋯⋯ハァ!!」


 強え。

 

 「なんで倒れない?」


 まじでコイツ──見上げた根性だぜ!

 俺達と同じくれぇの魂の震えがあんじゃねぇのかよ!


 ⋯⋯最っっ高じゃねぇか!!


 ──天王仁降臨。


 すげぇな。

 なんだあれ?


 夜がまるでコイツを支えようとしている?

 そんな性質なんかないはずってラオンが。


 「はは」


 てか、アイツ⋯⋯マジで強え。

 俺達二人なはずなんだがな。

 

 「"お兄ちゃん"!!」


 "俺"だったっけ?

 あれ?なんか変だな。


 何か、何かあったはずだが。


 「おぉラオン」


 そう見ると、俺の怪我を見たラオンがしゅんとしてる。


 ⋯⋯そんな顔すんなよ。

 俺達は。

 

 「な、なんで拳を?」


 「⋯⋯なんとなく」


 突き出した俺の拳を顎で差す。

 

 「僕達は負けないよ?」


 なんて言って、ラオンは返してくる。

































 ──エヴァン。


 「⋯⋯っ」


 「お兄ちゃん?」


 思わず振り返る。

 なんだ?"誰の名前"だ?


 「いや、なんでもねぇ」


 空を見上げる。

 "あの時"と同じだ。


 「綺麗だな⋯⋯ラオン」


 「ん?うん。

 本当にどうしたの?」


 ⋯⋯フッ。


 「俺達は二人で無敵」


 「そうだよ?」


 俺の人生数年⋯⋯ずっと目の前には邪魔なモノばかりだった。


 「なぁ、エオ」


 「⋯⋯⋯⋯」


 「見上げた根性だぜ。

 認める⋯⋯このリオン兄弟が、お前を同格と認めてやる!!」


 この世界に落ちてから、本当にうっとおしい事ばっか。


 「それは有り難い。

 今からでもナシにしたいんだけど⋯⋯なぁ、なんて」


 「無理に決まってるだろ。

 俺達とお前の考えは──埋まらねぇ」


 殴って、奪って。

 泣かせて、怒って、ぶつけて、蹴って。


 「ラオン」


 横に並ぶラオンと肩を組む。


 「⋯⋯ありがとよ」


 「お兄ちゃん?」


 なんかに気づいたのか、ラオンは言う。


 「お兄ちゃん、夜が」


 「んァ?」


 おぉ、なんか足元からすげぇ出てる。


 「何やったの!?

 こ、これ大丈夫!?」


 「ん、ん、ま、まぁ?」


 別に何も感じねぇけど。

 なんつって振り返ると、周りは俺の夜の風圧で何も見えてねぇ感じだ。


 「──行くか」


 自分の夜の音でアイツの声なんか聞こえちゃいねぇ。


 だが。


 ──悪童になっても、カスにはなるな。


 「俺には理由がある」


 そう。

 腕を上げて、吠える。


 「このクソッタレみてぇな世界に、足向けて寝るためだっての!」


 踏ん張る足に、いつも以上の力が込もる。

 それに思わず下を見ちまう。


 「雷⋯⋯」


 エオ(アイツ)と同じ。

 いや、今はいいか。


 走る。

 

 「⋯⋯フぅ」


 走る。

 それはまるで、目の前のうっとおしい壁をブチ抜くように。


 フッ。



 ──"ブチ抜け"。


 「ラァァアアアア!」


 ──"ブチ抜けッ"。


 「ラァァアアアア!!」


 やって来る奴の拳。

 ラオンの夜が通じんが、命がけで時間を作ってる。


 ──"っ、ブチ抜けッてんだ"。


 「ラァァアアアア!!!」

 

 今までの全ての言葉が、頭の中を巡る。


 「想起せよ(クオリア)


 足で踏ん張る。


  「「「「頭ー!!!!!」」」」


 聞こえる。

 俺を呼ぶ声が。


 この、俺を呼ぶ声が。


 "想起せよ──悪童高潔の一撃(テーラセフィラム)兄弟の英魂(ガノン)"


 今までとは違う。

 ⋯⋯夜を感じる。

 

 心臓から全身にかけて。

 今なら、イケる!!!!


 「Get out of my way!!!」


 あーちくしょう。

 







































 「──いいから、ブチ抜けってんだよォォォクソが!!!!」


 変えてやる。

 この俺が!


 俺達が!!!

 ⋯⋯世界を、変えてやる!!

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