弱者な不良
エオ⋯⋯!
俺は、ただ傍観する事しかできない。
「エオ⋯⋯大丈夫だよね!?」
「ッダァアアアアアア!!!」
静かだ。
全員が寝ているような。
その中でエオの咆哮がこの場を支配する。
あまりに異常なこの感覚。
向こうの奴らは何も感じないだろうな。
ああいう奴だ──そこまでだろう。
だが、俺達の頭に成ろうとしている奴は違う。
「わかんね」
黒い破壊的な夜ってやつが曲がったり周囲の建造物を抉る。
だが俺は、ただ一人内心呟く。
──アイツは、ただの一度も悪い言葉を発することはなかった。
──常に自分よりも周囲の人間を優先する奴で。
──誰よりも人間というものを愛し。
──その人間に伝わるような言い方を心掛けるような心優しい人間だ。
あんな獣みたいに叫んだりはしない。
つまりそれだけ⋯⋯アイツは追い込まれてる。
ガァン!と鼻で息する間に何度も聞こえてくる。
夜の稲妻が駆け抜けるのが。
素直に思う。
エオはすげぇ。
「ねぇ、エオって本当に能力ないんだよね?」
「らしいな」
だがどうだろうな。
アイツは何か隠している。
何か重要なものなのかもな。
⋯⋯だが関係ねぇ。
「全員、最後まで目を離すな」
そう。
俺達の頭は、これから世界を変えようとしているんだ。
自分の事を"未熟"だってアイツは言うが、俺達はお前の言ってることの十の内イチも理解できちゃいねぇ。
なんだよ。
発する言葉には魂が宿るって。
アイツの考え方は独自の物過ぎて、誰も理解できちゃいねぇ。
トリス師匠まで同じ顔をする。
ただ一人、ベルさんだけがいつも驚いたような顔で聞いてる。
死ねと言ったらそれまでだろうが。
そこに意味はねぇっての。
なんだよ。
いくら悪い事をしても、最終的には人間は同じになるってよ。
あぁ、こんな時にエオの言葉が聞こえてくる。
ーー大丈夫。
悪人はね、まだ気づいていないだけ。
いずれわかるよ。
今はまだそれが必要なんだ。
殴られてしまう人にも意味があって、殴る人にも意味がある。
酷い話だよ。
けどね、僕達人間はみんな同じ。
差はない。
ただ気づくのが人によって違うだけなんだよ。
本当は凄く強いのに、周りを見ているせいで弱く感じているだけなんだよ。
僕はただそれを言いたいだけ。
だから魂はいずれ揃うから。
グランもみんなも、僕のことを凄いって言ってくれるけど、僕はただ気付いただけなんだ。
──みんな、いつか僕の言ってることが分かってくれてるって⋯⋯待ってる!なんちゃって⋯⋯えへへ!
「⋯⋯⋯⋯」
今となっては恥ずかしい話だ。
『ねぇ、そこの君!』
俺が村についてすぐのことだった。
アイツは俺に、少ない食べ物を分けてくれた。
まぁ、それが始まり。
あるのは、死体と、殴り合って自分の物だと主張する奴らの集まり。
自分の身は自分で守る。
まぁ、それくらいなら出来た。
けど、それと食いもんは別だ。
腹が減る。
周りを見ると、俺と同じように飢えてる奴と、食えてる奴。
俺とこいつらは何がちげぇんだ?ってあの時は思ってた。
殴って奪ってる奴らを見て、俺も真似をした。
⋯⋯簡単だ。
勝った奴が正義だからだ。
そんな世界。
だが何か違った。
『ねぇ、良かったら食べない?』
たった一人。
この場所に似つかわしくない⋯⋯明るい独特なモノを持ってる奴。
エオ⋯⋯だったか?
群れやがって。
自分が弱いからああするしか出来ねぇんだろ。
俺は見下していた。
毎日コイツは、俺の所へ来て少ない食いもんを俺に分ける。
ただの飯当番だって。
そう思うようにした。
"独角"が基本。
(※この世界の言葉。
一人で強く、全てを享受するという意味)
──だが。
『おい、お前』
『うるさい!!
僕がやるって言うんだからやるの!!』
ある日の事だ。
あいつがあげた一人の子供を狙い、奪おうとする奴がいた。
それをあいつは、止める。
まぁ当たり前だわな。
だが、多分あいつは強くない。
いつもは隣に化物がいるから問題はないが、たまたま近くにはいない。
当然⋯⋯負けるわな。
『テメェ⋯⋯いつもいつも舐めやがって!!』
後が心配になりそうな勢いであいつら殴ってる。
──だが。
どれだけ殴られても、
どれだけ蹴られても⋯⋯やつの顔は変わらない。
絶対に目の前の人間を救うという全く躊躇のない眼。
初めて見た。
血を吹き出しても、髪を掴まれても、一切ブレない。
『僕達はみんな一緒なんだよ!!!!』
泣かず、
怒らず、
ただ一心になんかわけわからん事を叫ぶ。
『何意味わかんねぇこと言ってんだよ!』
だが止めない。
そしてあいつも止まらない。
食料を奪おうにもコイツは動かない。
色んな人間を見た気がするが、初めてだった。
何かが。
俺の直感みたいな奴がコイツをこう定義付けた。
"コイツは何か他とは違う"って。
明らかに何かが違った。
コイツから発するものが。
『絶対に⋯⋯』
そう。
多分あの時ハッキリ──そう。
『僕は⋯⋯』
近くにある誰かの"""剣"""を握り、身体が動いた。
『君達も同じにするから!!!
待ってろ!!!
みんなご飯を食べられるようにするからな!!!!』
寧ろアイツは動けないのにも関わらず、相手の胸掴んで張り上げながら喧嘩を売った。
そんなあいつを周囲は馬鹿にする。
⋯⋯"自分の身も守れないやつが?"。
だが、俺にはそう──"笑えなかった"。
──スパンッ!!
『あ、あれ、君は』
二人を斬り、俺は黙って背を向ける。
『黙ってろ。
めんどくせえこと増やすな』
⋯⋯あの時既に、認めていたのだと思う。
こういう人間が"居た"のかと。
「ッァァァァ!!」
「オラァァアアア!!!」
二つの黒い夜がぶつかる。
衝突して、ぶつかり、弾けて、墜ちる。
「頼む」
「⋯⋯グラン?」
何度も攻撃を喰らっても⋯⋯仰け反るあいつ。
あの時と同じ。
喧嘩をしているが、内容はいつも⋯⋯誰かを助けようと張り上げている。
見てみろ。
「ッふんんん!!!!」
顔から大量の血を噴き出し。
それでも、戦っている。
地に倒れる事を自身が許さない。
ただ、あいつは。
──頼むよ。
ーーグラン!
友達になろうよ!!
『なんで俺が』
ーー⋯⋯なんでだろう?
でも、グランが一緒にいたら、毎日が楽しくなるから!
『俺は男なんか趣味じゃねぇよ』
ーーんー!!!
はい!!
『あ!てめぇ!勝手に手ぇ繋ぐなよ!!』
ーーはいこれで友達ね!!
お空が見てたからもう無理だねっ!
頼むよ。
誰か。
⋯⋯誰かアイツを勝たせてやってくれよ。
アイツ、ただただ良い奴なんだよ。
そんな奴が進む道を応援してやりてぇんだよ。
だからよ。
「やっちまええぇぇぇ!!!エオ!!!!」
俺はただ、見るしか出来ない。
だが、声を上げる事はできる。
頼む。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
頼む。




