南戦争<4>
三十九番通りと三十八番通りの間で、渦中の戦争を繰り広げる2つの勢力を見下ろす黒いローブを羽織る者たちが二人。
「ダドマ様」
「⋯⋯⋯⋯」
「始まりましたね、遂に」
側近が手に持つ聖書。
ページを捲り、そこに書かれた言葉を読み上げる。
「光の世界。
きっかけは小さいことに過ぎない。
砂粒のような事に気が付き、自身を知る。
使命を知る。
背負い、世界の真理を知り始める。
全てが始まる。
神はその力を覚する時、見えない何かに押され、世界を豊かにする」
『行けー!!
俺達で世界を変えるぞ!!!』
片方を喩えるならば、激しい津波と嵐が融合したような⋯⋯まさに激流のような勢力。
『みんなー!!!
頑張ろー!!!』
片や未熟故、頼りない勢力。
しかし──背中を追う者たちの表情は柔らかく、そして確固たる意志がそこに宿っているのが見える。
「⋯⋯世界は変わるぞ」
苦笑して、ダドマは鼻で笑う。
「ダドマ様?」
村での生活は良かった。
あの時、まだ覚する時ではなかったが、片鱗はやはりあったようだな。
「"ファンダル"家も準備をするぞ」
「え?」
「十三族も、いよいよ始まる時だ」
「なんの話ですか?」
歩き出すダドマ。
その歩みを止め、側近へと振り返る。
「──内部分裂と、光の時代に合わせた貴族改革だ」
ローブを靡かせ、カランと甲高いを音を立てる屋根を歩いて離れていく。
「ファンダル家の次期当主として、語り継がれた聖なる書と口伝を忠実に守ってこそ、誇り高き貴族としての在り方というものがあるだろう」
まだまだ⋯⋯次世代の王となる者たち。
視界が揺れ動く中、ダドマの瞳には数千人の殴り合う光景がゆっくりと見える。
頭の中、そこには未来に迫る言葉が浮かぶ。
"次世代の王はこれから生まれる新しい生命である"
"その時、頭は食い止めようとするが、王というのは誰かの一存では止められない生き物なのである"
叫ぶ者たち。
自身の願い、想い。
憎しみ、悲願。
⋯⋯全てが込められたモノを体現する。
誰に付いていくかというその熾烈な競争の中でも最も醜く、そして最も──人間らしい世界を創るかという話。
「私達はこれから、ソレをこうして生で見れるのだから、これ以上の喜びはない」
「ダドマ様!?」
「そうは思わないか?」
「な、なんの話ですか!?」
「貴族という上位存在。
私はかの人間と同い年でありながらこの世界に""""産まれた純粋な人間""""として、これから生で世界が変わる光景を見れるのだ。
これ程甘美で、醜美で、心躍るモノはないだろう?」
「私にはなんだか⋯⋯」
「考えても見ろ。
今まで情報としてしか学んでこなかった世界の歴史が今、ここで!」
両手を広げダドマは嗤う。
「文字通り変わるんだ!
私達はソレを眺めることが出来る!
これは上位に位置する私達貴族の特権であり、"上に行くための手段"である」
*
「始まったな」
一番通り、そこにそびえ立つ堅固な城。
その中でも玉座の間を彷彿とさせる椅子に座り大量の女を侍らせ、爆発しそうな腹にデカイ男が下卑た顔でうっとりしていた。
⋯⋯そう、ドン・ゴである。
「頭、こちらを」
幹部であろう一人の青年の能力によって、生中継に近い現象を引き起こしていた。
「ふん、やはり出てきたか」
あの時の少年。
やはりただ者ではなかったようだな。
顎髭を触りながら、数年前を思い出す。
「場所は?」
「三十七番通りです」
「フンッ、あんなど真ん中で殺りおって」
だが。
"私もここに入りたいです!!"
突如としてドン・ゴの脳裏に浮かぶ、過去の自分の言葉。
ーー知らねぇよ。
お前みたいなん受け入れたところで意味ないんだから。
ーーまぁまぁ。
この子も色々あったんだろう。
⋯⋯私は■■■。君の名前は?
「──どうも引っかかる」
あの時といい。
この少年といい。
「おい」
手招きをして別の幹部を呼びつける。
「今すぐに連絡を取らせろ」
「相手の指定がないと⋯⋯ですね」
「あの虎を呼べ」
ジジジ⋯⋯。
能力によって知られている遠距離の会話。
『おぉ、いつまで経っても頭になれねぇドン・ゴじゃねぇか』
「その呼び方は癪だが」
『まぁまぁ本題は?』
「保険を掛けたい」
『保険?』
「あの迷信が事実になりそうな気がしてならんのだ」
数秒の後、相手は笑い出す。
『ハハハッ、あぁあの迷信か』
「笑い事ではない」
『ん?そうなのか?』
「今じゃ南の戦争が最終段階に行こうとしている。
私が頭になる為にはここで終わったあとに介入し、頂くのが最も近道であるが⋯⋯」
『お前は何か気になってんだな?』
割って発する。
あまりに図星な一言である。
「あぁ、だから虎獅子⋯⋯あなたの力を少しだけ頼んでもいいか?
条件は諸々あるが、何よりも」
と、ドン・ゴは何かを虎獅子に言いつける。
すると途端に話はトントン拍子に進んでいき。
『分かった。
本当だろうな?』
「あぁ、取引も行うし、加えての話だ」
『いいだろう。
まぁたまにはこんくらい緩い感じでも許してやるよ』
一体なんの会話をしたのか、それは当人以外知ることはない。
プツン、と遠距離の回線は切られ、ドン・ゴは嗤う。
「私が頭になるのも時間の問題だ」




