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地獄で生きたければ。  作者: どら焼き戦線バルハザーク
大人編・南

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南戦争<2>

 「さて、これはいよいよと言った感じかな」


 ベルさんとトリスさん。

 三人で、向こう側に見える煙の上がる街を見下ろす。


 「早いですね」


 「エオ、見ておきなさい」


 ベルさんの表情が、研がれた剣だ。


 「これが戦争で、慈悲も命の価値も消し飛ばす地獄の戦いだ」


 「はい」


 煙は上がり、いつもは風の音がよく聞こえるこの場所にも、倒壊する建物の音が聞こえ、誰かの悲鳴が。


 ベルさんの言葉にそう返事を返すものの。

 ──僕は何処か落ち着かない。


 それはそうだろう。

 僕はあの時から薄々⋯⋯感じている。


 今戦っている人々も、もしかしたら誰かの生存の記録だとしたら?


 そして、今も尚、何かを歩もうと懸命に進む者たちが集まるこの場所で、僕が平和をという一つの指標を掲げるべきなのかどうか。


 揺れている。

 価値観の軸がズレているということではない。


 それは断言できる。


 今も自分の浪漫が間違っているだなんて思ってはいないし、やり方も間違えてはいない。


 だけど。

 エンさんとのやり取りが⋯⋯忘れられない。


 ──本当に殺すべきなのか?


 そして、もしかしたら"僕"にもそんな記録が残されているのかも?という、信じられないような迷信。


 いや。

 もう迷信ではないのかもしれない。

 

 死の間際に見える迷信。

 それは誰かの記録を他ならない本人が感じ取っているだけのこと。


 それが何故か僕には見えた訳で。


 「エオ?」


 「っ、はい!」


 「どうした?

 なんか調子悪そうだぜ?」


 「すみません。

 ちょっと考え事をしていて」


 「⋯⋯オイオイ頼むぞ。

 一瞬の判断が命取りになるんだからよ」


 「はい!」


 「エオ」


 ベルさんが見下ろしながら、僕の方を見ずに言う。


 「はい?」


 「自分の浪漫を信じなさい」


 短いけど、今までのどんな言葉よりも信念が伝わる言葉。


 ⋯⋯っ。


 「──はい!」


 「相手の事を理解しようとしても、難しい事だってある。


 犠牲は必ずかかるものだ。

 それは全員理解しているだろう。


 ただそれが、自分だと気付いたときに人生に絶望するだけのことであって、誰も自分が犠牲になるとは思わないだろう。


 ⋯⋯仕方のないことなのだ。

 それが我々の生きる道であり、それが個性であるからだ」


 「⋯⋯刻みます」


 「私にとっても集大成だ。


 二人にはここまで尽力してもらった。

 エオには短期間ながら世界を変えるような考え方も教わったしね」


 本当に僕が革新的だったとは知らずに、思わずどういう顔をすればいいかわからずにいた。


 「兄貴は死なないです」


 「⋯⋯どうかな」


 肩まで上げた手は、僕の頭に乗る。


 「私はできる事なら、新しい芽の血肉となって散りたいが」


 「兄貴っ、」


 「君もそうだろう?

 ──トリス」


 「っ、」


 二人の間で、なんとも言えない間が続く。


 「生きるのも、あまり長いと良い気がしない。


 昔を思い出すからね。


 ⋯⋯私も未だに眠ると碌な夢を見ない。

 悪夢ばかりだ。


 清濁併せ持った夢だとしてもね」


 「⋯⋯⋯⋯」

  

 「600年と言っても、十分だ。

 まぁ尤も、私ももっと長いが。


 私達が先頭に立って世界を変えようとしたことは間違いではない。


 ⋯⋯が、私達は頑張り過ぎたのかも、しれないな」


 「⋯⋯兄貴」


 「さて、戦う前からこんな姿勢では、笑われてしまうな」


 と、ベルさんの背後に、一人の人間が片膝をついて現れてびっくりする。


 「敵の勢力は?」


 「既にもうここへと向かってきています」


 「そうか。

 勝てそうかい?」


 「半分かと」


 「理由は?」


 「私達の残党が交戦中ですが、上手く削ってはいるものの、核までは攻められていません。


 それに、頭の能力がかなり厄介です」


 「二人組の兄弟だって言ってたね」


 「かなり手強いです。

 並では相手になりません」


 「昔の私が聞いたら酷く怒っていただろうね」


 一体昔のベルさんはどれだけ凄かったのだろうか。


 ⋯⋯想像する事すらできない。


 「ベルさん!!」


 振り返ると、そこには完全戦闘態勢のグランやニバ、他にも子供から大人になって訓練を終えたみんなが立っていた。


 「俺達⋯⋯戦えます!」


 「今回は駄目だ。

 若い戦力を投入するのは最後まで抑えるつもりだ」


 「この場所を壊されたくないんです!

 ⋯⋯みんなの思い出だから!」


 「そうです!

 俺達だって戦えます!」


 「ここで若い命を枯らすわけにはいかない。

 まだまだみんなには未来があるのだから。


 今散っている老いぼれ達の命は、君たちのために血肉と化しているんだよ」


 「ベルさん」


 僕は呼ぶ。


 「どうしたんだい?」


 「今回の頭となる候補の人⋯⋯恐らく強いんですよね?」


 「そうだね」


 風すら介入を許さない間。

 

 「──僕がやります」


 その言葉に、全員の視線が集まる。


 「⋯⋯エオ、何言ってる」


 「殺らせてください」


 相手は分からないけど、僕の浪漫が通じるのか。


 ⋯⋯試したい。


 「理由は?」


 「ここで死ぬようなら、そもそも僕は価値がそこまでだったというまでです」


 「けどまだ、夜は使えないよ?」


 「ベルさんの貰った力で戦えないようなら、この先希望はありません」


 「⋯⋯⋯⋯」


 本心だ。

 聞けば相手は僕と同じ⋯⋯年上だがそれなりに強い力を持ち、若いという。


 同じ条件で僕が敗れるのならば、いずれ似た勢力に潰されるに違いない。


 「いずれ敗れるのなら、厳しい現実を子供たちに見せるべきです」


 「⋯⋯意思は堅そうだね」


 「ベルさんを死なせたくもありませんし、何よりも火の手がこちらまで迫っていて何もしないなんて⋯⋯僕には見てられないから」


 「分かった」

 

 驚いた。

 反対されると思っていたのに。


 「兄貴!?」


 「仕方がない。

 一部分かる部分もある」


 「と言ってもですよ!?」


 「仲間の体力も少ない。

 今まで表舞台に立てていないんだ⋯⋯温存していても意味がない」


 ベルさんは笑ってくれたけど。


 「けどね、エオ」


 やはり厳しい顔つきで僕を見てくる。


 「頭となる者はいずれ耐えなくてはならない瞬間が出てくる。


 多くは言わない。

 仲間の犠牲、愛する時間、場所。

 上に立つ者は浪漫を掲げながらも熱く、やるべき事をやり、人を辞めるような判断をせざるを得ないときもある。


 そしてそれを実行できる冷たい心臓も持ち合わせなければならない。


 熱い心臓と冷えた水のような心臓⋯⋯両方を持たなければならない。


 ⋯⋯それは分かるね?」


 「はい!」


 「だからこれは勉強だと思いなさい。

 その活力は次から指揮に回すこと」


 「はいっ!!!」


 「行っておいで。

 今から数人選びなさい。

 若い衆はエオについていくように」


 歩き出す僕の両隣には。


 「行こうぜ!!

 女かっさらおう!」


 「⋯⋯グラン。

 ニバがいるじゃないか」


 「ちょっとエオ!?

 私はグランなんか嫌いなんだけど!?」


 戦争。

 文字通り何が起こるか分からない。


 ──けどやるんだ。

 わからないなりにやることが1番大事だってこと⋯⋯僕が一番理解しているだろうから。

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