※一応念の為注意です!軌跡
「連〜、今日から出勤でしょ〜?」
「うーん!!」
母さんの声に目が覚める。
起き上がって鏡の自分を見つめ、ヨシと頷く。
階段を降りると、キッチンには母さんと父さん。
「似合ってないな」
チラ見する父さんがいつもの無表情で言ってくる。
「しょうがないじゃん。
今日からなんだから」
誰だって初めては似合わないもんでしょ。
「いただきまーす!」
両手を合わせて、朝飯。
「いいか、連」
食事中、新聞を読む父さんが声を掛けてくる。
いつもなら、朝食の時は父さんが話しかけてくる事はない。
「ん?」
「最初は誰だってミスをする。
恐れるな」
「どうしたの?突然」
「今日から社会人。
学生の時とは違って、周りは優しくない。
サボれば周囲から見えないところで汚物扱いされ、仕事に失敗すると怒られる。
⋯⋯努力しました、頑張りました。
そんなモノは誰も受け付けてはくれない。
だが、努力した結果は自分に一生残り続ける。
諦めず、食らいつけ。
最初はそれでいい」
らしくない──父さんの言葉。
父さんとは言えば、ガミガミ言ってくる母さんと違って、ほとんど口を出してこない多分珍しい家庭だ。
「⋯⋯うん⋯⋯うん!」
「最初は苦労するだろうが、金を稼ぐというのは大変だ。
何かあったら言いなさい。
相談くらい乗ってやれる」
「そうよー?
ママも会社員やってたんだから」
台所からも母さんが声を張ってそう言ってくる。
なんで二人ともこんなに話しかけてくるんだろうって⋯⋯今まで思ってたけど。
⋯⋯そっか。
俺緊張してんだ。
「ありがとう。
母さん、父さん」
立ち上がって俺、鈴木連は初出勤へと向かう。
「「行ってらっしゃい」」
「──行ってきます!」
*
最初は大変だった。
「鈴木、こことここ、書式がズレてる!」
「っ、はい!」
「鈴木、こんなやり方で売上が立つと本気で思ってるのか!?」
「改善します!」
しかし、徐々に慣れていき、時には両親に相談しながら、俺は順調に社会人をやれていた。
数年が経ち、社内でも彼女もできて、仕事でも結果を残し、みんなからは順風満帆⋯⋯そう思われていた時だった。
「──この人痴漢です!!」
え?俺?
満員電車。
その中で思わず自分?と指を差してしまった。
「押さえて!!」
「待って!!
俺なんもやってない!!」
電車から放り出され、知らぬ変なオバサンに訴えられてせいで、俺の人生は唐突に終わりを迎えた。
「うちの息子はそんな事するはすがありません!!」
「そうです!
連は真っ直ぐで学生時代は文武両道で!」
身内は全員味方してくれた。
当たり前だ。
だって俺はやっていないんだから。
けれど。
「なんで俺が⋯⋯」
結局逮捕されてしまった。
俺は何もしていないんだが!?
勾留か。
こんな檻の中⋯⋯。
「俺はどこで間違えたんだよ」
ただそう呟いただけなのに。
「犯罪者はそうやってみんな言う」
歩いていたここの見回りする人間に上から言われる始末。
「ふざけんなよ!
冤罪だ!」
「冤罪?
まぁまぁ、やってるやつがわざわざ自分からやってます!なんて言うわけ無いだろ」
⋯⋯なんなんだよ。
勾留とか言って。
こんなん実質俺が犯罪者みたいな扱いじゃないか!!
「アンタ、俺が犯罪者じゃなかったらどうすんだよ」
「そん時は謝るさ」
──判決。
被告人は、"有罪"。
⋯⋯は?
「なんでだよ」
相手のババアを見ると、何故か嬉しそうに俺を見ていやがる。
「そんな面白いか?」
男なのがそんなに悪いか?
俺がお前に何をしたよ?
「被告人」
「なんなんだよ。
ふざけんなよ」
「被告人!!」
人の人生メチャクチャにしておいて。
「早くあの性欲の権化を押さえて!!」
「てめぇ⋯⋯絶対にブチ殺してやるからな」
何がおかしいんだよ。
こっちは胸張って生きてんだよバカ野郎が。
*
「あ、あの⋯⋯違うんです!!」
「何が違うんだ?」
黒い部屋の密室で、俺は横たわる針を抜いて生返事を返す。
「あ、あの時は色々あって!!」
「⋯⋯色々?」
「そ、そう!
しゃ、借金をしてたの!!」
「だから?」
「だ、だから?」
「それで、本当はしていないのにしたと言ったんだろ?
⋯⋯テメェの都合で」
グニュリと抜いた針を適当にポイ捨てし、俺は横たわる肉塊を蹴り上げる。
「屈辱だよ」
「⋯⋯え?」
何度も。
何度も。
「や、やめて!!!」
「だったら最初からあんなことしてんじゃねぇよこのクソババァが!!!!」
コイツの家族を全員ここで拷問して殺してやった。
⋯⋯目の前で。
「なぁ?知ってるか?
俺さ、普通の人生を歩んでたんだよ」
ロープで繋がるババアの前にしゃがみ、俺は淡々と言う。
「調べたぞ。
阿野清美。
現在46歳。
当時大のホスト狂い。
ナンバーの為に借金のし過ぎだったんだろ?」
「っ、⋯⋯あ」
「俺さ、普通に社会人やってたんだよ。
そんで⋯⋯檻から出たらよ?
周りの目はもう俺がやってる前提で見てくるから視線が気持ち悪いんだよ。
彼女もいたのに、出所したらこんなやつ知りませんなんて言うし、知らん新しい男と結婚してたんだよ」
「っ、」
「なぁ?
会社はクビ。
両親は鬱。
⋯⋯お前が勝手に作ってきた借金で俺がこんなになる理由ってなんだ?」
横たわる誰かだった顔を踏む。
踏む。
踏む、踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む──
「女だからって舐めてんじゃねぇぞクソガッッァァァ!!!!」
「キャァァァァァ!!!!」
俺の人生⋯⋯なんだったんだよ。
俺が何したんだよ。
自分の肩の震えが止まらない。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
「お、お父さん!!
か、顔が⋯⋯!!」
「黙れよ」
「ァ」
「俺の両親はなぁ?
今病院通いなんだよ。
てめぇのせいでなぁ!!!」
絶対にコイツはただでは済まさん。
こいつに関連する奴全部ブチ壊してやる。
「あー!!!!!あー!!」
「女ってのはどいつもこいつも他責ばっかしてんじゃねぇよクソがよ!!」
滅多打ちだ。
我ながらひどい。
「クソがよ」
──チッ。
「19人」
「へ?」
「お前の関係者をここで一人一人地獄の果てまで拷問した人数だよ」
「ぁぁ」
「絶対に許さないからなァ?」
魂なんぞあの時捨てた。
「お前の精神ブチ壊れるまで続ける」
「ァあ」
───
──
─
「え?何⋯⋯コレ?」
僕の頭に突然浮かび上がる、謎の言葉と記憶。
僕の手に抱かれているあの男は、朦朧とした意識のまま、何かを僕に言おうとしていた。




