調査<1>
「ここが、五十番通り」
山を駆け、扉を乗り越え。
僕はとある建造物の上に着地する。
少し歩いて、周りを見渡す。
ーーエオ、本で読んだとは思うけど、南は全部で五十番通りまで存在している。
今回の調査は生の意見を聞くためであり、エオたちが動く時に必要になるからだ。
広さは想像のかなり斜め上になると思うが、慎重にね。
「広い」
僕がいた場所をもう少し大きくすると、ここが五十番通り。
「っ、あっちは空き地なのかな」
かなり密集しているはずの中で一つの場所だけ凄く空いているところがある。
「気になるけど、あまり問題を起こさないようにしないと」
*
駆ける。
──また、駆ける。
強い逆風を浴びて進むこの気持ちは、爽快だ。
猟犬の人達もこんな感覚だったのかな。
建物から建物へ。
移ろっていきながら、しっかり貰った貴重な紙に書き込んでいく。
「それにしても」
書き込むのをやめ、僕は荒れ地と化しているこの場所を眺める。
「戦争ってやっぱり⋯⋯酷いな」
下の方では猟犬同士が歪みあっている。
普通に生きている猟犬ではない人達も、明日の食料がないことを知ってとにかく争っている。
そしてその気持ちを、僕はよく知っている。
お腹が減ったら⋯⋯自分が自分でなくなるように。
自分で何もできないと分かると、人から奪う事しか出来なくなる。
"人は皆、「あなた」であったが、「あなた」は皆からあなたを奪っていく"
エフィリア、ミゲッタさんの著書──"人類史から知見"という中で言われていた言葉だ。
この言葉は、元々全員は同じモノであったが、原罪によって人から奪う事でしか生を謳歌出来ない自分たち人類に対して盛大に皮肉を並べている事の中で言われていた一番最初の言葉だ。
自分が今恵まれているとかはあまり関係ない。
ただ、この光景はとても。
「⋯⋯辛い」
僕達はいつからこんな事になってしまったのだろうか。
『おい!寄越せぇ!!!』
僕達はいつから⋯⋯自他を分けてしまったのだろうか。
『貸せよ!!!』
僕達はいつから──自分と同じ見た目の相手に何かをぶつけても問題ないと、思っているんだろう。
「この人達が全員⋯⋯笑えていたらと思うと、なんとも言えない」
かと言って。
じゃあお前に何かできるのかと言われると、何も出来ない。
⋯⋯今の僕はそう答えるしか方法がない。
なんとも悲しい。
「変えたい」
あの時子供たちに伝えたように。
ここにいる全ての人が笑えるように。
『これ、どうぞ!』
『あぁ、ありがとう!』
みんなが幸せになれるような世界を創りたい。
──ミゲッタ先生。
「僕、原罪はあってもいいと思うんです。
しかし、どうにか全てが安定した世界を作れないんでしょうか」
*
「らっしゃい!」
「あっ、この牛の肉をお願いします」
「おっけー!
てかお客さん、文字読めるんだねぇ!
もしかして貴族の人とか?」
「違いますよ」
それから。
近くにあったお店に入る。
将来頭になった時にこの辺りで店を開いている人達がどんな人かも把握しないといけない。
「先にもらうよ!」
「この食物で平気ですか?」
と、僕はちゃちゃをいくつか取り出して渡す。
「⋯⋯ん?これはジャイ?
珍しいものを持ってるねぇ?」
「珍しいんですか?」
「おぉ。
最近見ないからねぇ。
いいよいいよ。
じゃあジャイ5つね」
交換は終わり、肉を焼き始める店主さん。
中には僕と数人だけだったのだが。
「おーい、ここ空いてる?」
「お兄ちゃん、だからこんなに大人数で入ったら駄目でしょ?」
誰だろう?結構大勢だ。
「先に払えるかァ?」
「あぁ!
タレイス玉50個ある!」
あーあの緑色の。
「おっ、それなら構わんね。
奥に座りな」
凄いな。
50個とはいえ、何人いるんだ?
「お兄ちゃん、今日は壊した勢力は6つになりますから、しばらくは止めましょう」
「はぁ?何言ってんだ!
俺達が頂点に立つまで続けるぜ?」
まさかこんなところで勢力がいるなんて。
問題を起こさないでくれよぉ?
本当に。
「なぁ、そこのお前!」
ん?誰だろう。
「そこのお前だよ、なんでキョロキョロしてんだよ」
ん?僕?
「そうだよ。
なんで自分に指なんか差してんだよ」
あぁ。
どうやら僕を呼んでいたのか。
「どうかしました?」
穏便に。頼むから穏便に。
「お前何処か勢力に入ってんのか?」
自分たちのところって、勢力なのかなぁ?
奪うことはしないし。
「一応?」
「一応ってなんだよ。
まぁいい、俺らはルンデルバーンっていうんだ。
近い内にこの南で頂点に立つんだ」
南で、頂点。
「てことは、その内──会うかも」
申告はしておかないとね?
何かある前に。
「へぇ、俺達ルンデルバーンを前にして平然としてるなんていい土俵してるなァ!」
「お兄ちゃん、度胸です」
「ん?
あ、あぁ、度胸してんな!」
凄い。押してきた。
「負ける自信を持っていたら、最初から挑む必要がなくなってしまいますから」
すると背を向けていたもう一人もこちらを向いて言ってくる。
「素晴らしいですね。
あなたのような心意気がある方に是非入ってもらいたいですがね」
「ありがとうございます。
負けた時は、その時に」
「はいお待たせー!」
僕の分が目の前にやってくる。
おぉー!
凄い。
お肉に汁がもう大量だ。
──齧る。
「⋯⋯っ、」
美味しい。
なんだこれ。
トロトロ柔らかい汁が水みたいに流れ込んでくる。
これが新鮮な肉ってやつか。
「オイあいつのくそ美味そうだな、店主!
俺の分だけ早くくれ!!
なんでかしらねぇけどアイツに負けたくねぇ!」
「やば⋯⋯美味っ!」
あれ?調査だったはずなんだけどな。
そう正気になるのに、食べ終わるまで気付いていなかった。




