各地勃発
それからすぐに数日、子供たち全員が集まり、僕も含めてベルさん達からの話を座って聞く。
「南の五十番通り全てで今、勢力の争いが行われている。
その内の大きい所の二人がリオン兄弟に潰された」
リオン兄弟。
話には聞いていたけど、相当強いんだろうなぁ。
「リオン兄弟の勢力は日に日にその数を増やしていて、彼らの目標は南の座を完全にその手に収める事にある。
よってこの隠れ家も長いこと使えていたが、その内戦争が始まればこの場所も割れてしまうだろう」
ベルさんの、短いが圧倒的な破壊力がある言葉。
「つまり、もう少しでこの場所が静かではなくなるってことですか?」
グランの質問に、ただ無表情に頷くだけだった。
質問したグランの顔は中々のものだ。
「ベルさん、強いんでしょ!?」
「⋯⋯そんな人たちやっつけてよ!」
飛び交う子供たちの純粋な助けの声。
「そうだね。
私は君達よりずっと強い。
だけどね、私の病はもうかなり進行していて、みんなが居なければ私はとうに死んでいた身なんだ。
助かる方法はない」
残酷だ。
僕達はまだ抗う術があるはずだが、ベルさんにはただ死を待つことでしか行えない無力さ。
「そんな⋯⋯」
「でも俺、大人じゃないから夜っていうのが使えないよぉ!」
「そうだね。
だけどここにはトリスも含めてエオやグラン、ニバ。
新たな大人がいる。
タダでは終わらない。
⋯⋯仲間もいるしね。
みんなに勉強させたのは、もしかしたらこの本棚にある全ての情報が戦いによって焼却されてしまう恐れがあったからなんだ」
そんな理由があったのか。
ある意味僕の行動がベルさんと同じ意思を踏んでいたのか。
「エオのおかげで、通常よりも早く子供たちの勉学への方向性を変えてくれた。
⋯⋯ありがとう」
「いえ!」
「この場所はいずれバレるだろう。
そこでこの農場の食糧はかなり減らし、食糧庫の大規模移動を始める。
トリスはその為しばらくこの場所から動けないから、具体的な行動や伝達、それらをこれから多くなるであろう──」
その視線は、僕に向いた。
「エオ。
⋯⋯君に託す。
これからトリスに変わって君がこの組織の目となり共有、時には実行してもらう事になるよ」
重い。
あまりに重い。
「はいっ!!!」
「緊張するなっていうことは難しいけれど、これから頭を目指すエオには晴れ舞台だ。
この世界では良い踏み出し方だろう」
⋯⋯ベルさんたちの世代は一体どんな踏み出し方があったのか⋯⋯そっちの方が気になる。
「とにかく、何度も忠告しているけれど、戦争が既に街では大量に行われていることはもうすでに確認している。
遊びで外に出ることは決して行わないように。
そして、日々の鍛錬を忘れず、目の前の先輩達をしっかりと敬うように⋯⋯いいね?」
凄まじい熱量の返事がこの場には響いた。
「では解散!」
全員の足跡はそれぞれに散っていく。
「エオ」
立ち尽くしている僕に、ベルさんが笑って手招きをする。
「少し話そうか」
*
「最初の頃が懐かしいね」
「はい。
最初は三人でした」
僕の視界の端に映る、崖。
最初は登るのも出来なかったなぁ。
「たった二年と少し。
けれど──」
「その時間はとても重いものです」
常識や歴史、この世界の事。
まだまだ沢山あって、僕が知っているのもその内の一つでしかない。
「特にエオはそう思うのかもね。
私は""""そういう生活""""に疎かったから」
「疎かった⋯⋯?」
「ん?
いや、気にしないでくれていいよ」
「あ、はい」
空を見上げるベルさん。
「エオが来てから全てが動き出した。
南は今まで絶妙な均衡状態だったんだけど、まさか戦争が始まるなんて」
そうだ。
構図としては頭は頂点である一点物。
しかしその下は様々な幹部が用意されていて、複雑に派閥が出来上がっている所も多数ある。
「まるで私の止まっていた時間が動き出したみたいだ」
「ベルさん、それは死の時間を僕が動かしたみたいになってしまいます」
止めて。
酷いくらい罪悪感ある。
「ッハハハ。
そうだね。
確かにその表現は良くない。
だけどね、私としては⋯⋯エオ」
「はい」
「私にも、贖罪の時間だったよ」
「贖罪⋯⋯ですか?」
深く数回頷きながら、ベルさんは柔らかい顔で笑う。
「うん。
私はかつて、この勢力を作った時は数百人以上の幹部がいた」
「数百人⋯⋯」
「しかし全員今では殺された」
「ころ──」
「私の掲げた"世界を平和"にしたいという壮大な目標のせいで」
いつもはニコニコ笑うベルさんの唇は、今にもはち切れそうなほど固く結ばれている。
「若かった。
どうにか私が全てを手に入れて、再分配すれば⋯⋯それで叶うと思っていた。
だが違った。
私は最悪の教祖などとイカれた名前を貰い、十三族に目を付けられ、私は全ての力を失い、呪いを受け、地獄の烙印を押された」
「⋯⋯⋯⋯」
「あまりに浅はかだった。
高尚な願いや想いは人に伝わる。
行動はあとからでも伝わる筈だと。
でも、帰ってきたのは信じた俺達が馬鹿だったという部下たちの声だった。
今でも寝ている時に彼らの怨念が伝わるよ。
それが嘘か本物かは⋯⋯もう分からない」
「⋯⋯⋯⋯」
「エオ」
僕に向けられた表情は、死へと着実に歩きながらも輝き、それでも踏みしめる時間を消費しながら儚く散る人の顔。
「エオは少し私に似ている部分がある。
だがソレは、強さや能力、一つの感情に囚われて失って欲しくはない。
今は天心に煌めく君の魂。
しかしその魂も少しでも注入されてしまえば、深刻になる。
⋯⋯私の呪いのように」
「⋯⋯はい!」
「私が死んだ後、トリスやサヴァンをよろしく頼む。
私の後継者はエオ⋯⋯君しかいない」
「そんな事言わないでください」
そうだ。
まだ死ぬと決まったわけじゃない!
「まだ貴方は生きているべき人間です!」
「⋯⋯そう言ってくれて嬉しいよ。
けれど、時間は残酷だ。
トリスもサヴァンも、次第に弱くなっていく。
あれで私の最期200年ほど支えてくれた傑物だ。
どうか頼む」
「ベルさん⋯⋯」
「この戦い。
恐らく私が肉眼で見れる最後の戦いになるだろう。
どんな結果になろうと、私はこれから咲き誇るその種が輝く瞬間をこの眼で見続ける。
だから、精一杯やろう」
「はい」
必ず。
⋯⋯必ず!
「やり遂げてみせます!!」
「頼むね。
私はいつでも君の背中から見ているよ」




