閑話:攻防一体
「あぁ⋯⋯もうやめてくれ」
南、十九番通り。
そこのある一角の酒場を営む店主の顔は天に召される寸前だった。
目の前の光景には言及出来ず、ただ彼の憩いの場所であった場所は今、若者たちによる抗争によって荒れ果てていた。
「ここは俺達──ルンデルバーンが貰うぜ!」
──ドォン!
数枚の壁をぶち抜く一閃とも言える突き。
一人のオールバックの少年が歯を剥いて、隣にいる少年に声をかける。
「ラオン、俺達が──この世界の頂点に立つんだ!」
「ねぇお兄ちゃん」
だが。
その返す刀は研ぎ師のソレよりも鋭かった。
「これ壊したのお兄ちゃんのせいだから、直すのお兄ちゃんがやるんだよ?」
「⋯⋯え?」
一瞬、静寂が包み込む。
ポク、ポク、チーンとでも言いそうな高速瞬きが彼を襲う。
「だから、お兄ちゃんが直すんだよ?
見てよ、ここお兄ちゃんの領地になっただけで、ここで働いているのはあそこのお兄さんだよ?
お兄さんはただ普通に僕達のせいで迷惑がかかってるの」
「え?そうなの?」
店主に尋ねる。
「え?あ、あぁ⋯⋯えーっ」
「だからお兄ちゃん、そう答えられて変な答えをされたら殺されるかもしれないと思って答えられないでしょ」
「ん?そんな事するつもり無い」
「だからそれは信用ないって言ってるの。
刃物を喉元に突きつけられて殺さないから⋯⋯なんて、信用する?普通」
二人の兄弟の会話に、後ろで整列しているまた同じく少年達はボソボソと話している。
「ラオン様、リオン様の手綱をしっかりと握っておられる」
「リオン様を止められるのはラオン様だけだ」
殴った動きから一転。
リオンは不動に立ち尽くして店主を見る。
「スマン!
俺がここはきっちり直す!
すぐにとは言えねぇが、戦争が終わったら間違いなくここからなんとかするから!」
「あ、あぁ」
店主の反応に背後の少年達はウンウンと頷いている。
「俺達の頭はしっかりしてて偉い!」
「これさ、本当にこのまま南の座を奪えるんじゃないか?」
そんな少年のたちの言葉を背に。
「オイオイ」
バキッと破れた破片を割る一人の威圧的な波動。
振り返るリオンとラオンの視線は瞬間的に最大まで殺気がこもる。
「⋯⋯誰だ」
「すげぇなぁ。
まさか頭候補が二人も殺られちまうなんてよ」
そこに居たのは、長くこの南で幅を利かせていた⋯⋯ドン・ゴだった。
その見つめる先は、候補だったジンブとアルステだった肉塊。
「まぁまぁ。
俺のことはどうでもいいのさ」
二人の警戒レベルは最大。
リオンの拳には、黒い燃え上がる炎が湧き上がる。
「俺と一戦殺る気か?ガキ」
トリスに派手に負けたが、それは本気だったのか嘘だったかは⋯⋯本人のみぞ知る。
「⋯⋯お兄ちゃんは強いですよ」
フン、とラオンに視線が向くドン・ゴ。
「まだまだ大人になったばっかだろ。
能力の使い方、夜、大したことない」
ソレよりも燃え上がる⋯⋯ドン・ゴの掌を包む黒い炎。
「俺も残念ながらお前らより強いもんでねぇ。
殺るなら受けて立つぞ?
──分かりきった勝負に賭けたくはねぇが」
自信満々に嗤うドン・ゴに、二人の瞳は揺れる。
相手の強さが計れない。
だが燃える炎の強さは本能的に分かるものだ。
強いな、アレは。
リオンは隣の弟を見下ろす。
いつかはこうなるとは思ってたが。
⋯⋯村で生きてきた時はこうなるとは考えてもなかったな。
構えるリオン兄弟と、自信満々に嗤うドン・ゴ。
睨み合う膠着状態が続く。
「ッ!!」
先に動いたのは──リオンだった。
「ハハッ、無謀なこった!」
空いた距離。
ソレを一瞬で詰めてくるリオン。
なんだコイツ、夜は使える癖に、防御はからっきしか?
掌に燃え上がる黒い炎。
それをチラ見し、ドン・ゴは笑う。
「てめぇも所詮は拳だけの雑魚かぁっ!」
炎が分裂する。
「⋯⋯っ!?」
「俺の能力は言わねぇぞ?
ただ火を出すだけじゃねぇからな」
終わりだ⋯⋯このガキが。
ドン・ゴはほくそ笑む。
折角傘下に入れてやろうと思ったのに。
まぁ、コイツらの傘下を見る限り、従う気はなさそうなのが見え見えだ。
どの道排除することになりそうだったから問題はねぇか。
──ゴォォォォ!!
強烈な風を一心に浴びる中、ドン・ゴの前には大振りを構えるリオンの姿があった。
──それはまさに黒い若獅子。
一発当たればドン・ゴもタダでは済まないと直感させるほどの黒い炎。
「ん?」
視界の何処にも、コイツの片割れがいねぇ?
動き出していたドン・ゴの視界にはラオンが映ってはおらず、技は既に繰り出されている。
まぁ、どの道終わりだ。
まさに嗤った──その時だった。
──ガァァァァァン!!
「⋯⋯ッ!?」
何故爆発しない?
そうドン・ゴの頭に浮かんだ直後。
視線の先には、薄い膜を張ったラオンが背中を見せてドン・ゴとリオンの間に立ってその一撃を"防いで"いた。
「何!?」
「デブ大魔神が⋯⋯俺達の魂──見せてやるぜ!!」
若い獅子の咆哮が響き渡る。
「──想起!!!」
──"悪童高潔の一撃"!!!!
一撃必殺。
その一撃はドン・ゴに直撃し、周辺にある数件の建物は吹いた笹のように消し飛ぶ。
「ッタァァァァ!!」
爆発の余韻。
大砲でも打ち切ったような構えから、直立へと戻る。
「やっぱ俺達は無敵だな!!ラオン!」
守りのラオン。
攻めのリオン。
この若き二人で一人の頭候補。
他の候補を差し置き、圧倒的な強さを見せつける。
「うん!」
拳を固めたリオンが一切見ずに真横にいるラオンへと突き出す。
それに合わせ、ラオンも突き返す。
「俺達二人が揃えば、どんな困難も超えられる」
「⋯⋯ハハハハハハハ!」
「「っ!?」」
遠くから、聞こえる悪魔の笑い声。
「いやいや。
まさか下調べもしていなかった俺のせいでもあるが」
「嘘だろ⋯⋯」
目の前には、全くの無傷に近い状態のドン・ゴがいた。
「他の候補が殺られる意味が分かった。
攻撃力はそっちが。
防御となればひ弱な方が。
なるほどなるほど。
コイツはいい」
「「⋯⋯っ、」」
まだ殺る気か?
⋯⋯そう言わんばかりに二人が構える。
「フンッ」
二人への返答は鼻で笑い飛ばし。
「折角久しぶりにおもろいものが見れたんだ、今殺すには惜しい。
その内また来るから⋯⋯その時もう少しだけ強くなっておけ」
「どういうことだ!?」
「なーに。
本気でお前らを殺すつもりだったら、一人でくるわけ無いだろ?」
さっきとは違って、目を細め、二人を見つめるドン・ゴ。
「色々出してくれて助かったよ。
まぁ、事実上俺がこの南の座を握るからな。
俺の下になるやつの顔を拝んどきたかっただけだ」
手を上げ、この場から去るドン・ゴ。
「「⋯⋯⋯⋯」」
まだ、戦争は始まったばかり。
二人の顔は、恐怖よりも、興奮と高揚が確実に勝っている。
「ラオン」
「どうしたの」
「やっぱり⋯⋯この世界は良いな」
「なんで?」
「俺達が登れる階段は無限にあるってことさ!」
終わりのない果てしない笑み。
だがそれを地獄とは思わず、むしろ感謝をする者も──ここにはいるのである。




