始まるかもしれない
それから約二月が過ぎたある日。
僕達が起きてすぐの事だった。
「エオ、話があるから来てくれ」
トリスさんが真剣な口調の時はかなりまずい事があったときだけだ。
何も言わずにすぐに向かう。
ベルさんの部屋。
中に入ると、かなり複雑な顔つきで僕を待っているようだった。
「おはよう」
「おはよう⋯⋯ございます」
目の前には紙に何かが書かれている。
何やら線を引いているようだけど。
「とりあえず現状を話そう」
座り、ベルさんの話を僕達二人は黙って聞く。
「結論から言うと、もうすぐ南で戦争が起こる可能性が非常に高い」
──戦争。
その単語の意味はトリスさんも分かっているだろうから顔つきが重い。
「既にその筋から得た情報によれば、南で今主に活動していて座を握ろうとする勢力は大きく分けて5つある」
・リオン兄弟
・ドン・ゴ
・オル
・ジンブ
・アルステ
「この他にも小さい通りで活動している勢力を含めれば数え切れない程ある。
だが、座を目指し、精力的に活動しているのはこの5つ。
特に気をつけていかなければならないのが⋯⋯」
紙のある部分を差して、ベルさんが言い切る。
「リオン兄弟、そしてドン・ゴだ」
「そんなに強いんですか?兄貴」
「情報だと、かなり人望も厚く、勢力的にはかなり上位の組織だと言える。
それに強力な夜を抱えている可能性もかなり高い。
食や土地の方も徐々に制圧している部分もあるし、この兄弟の魅力が類稀なるモノだと言えるね」
リオン兄弟。
どんな人たちなんだろう?
「夜は見た限りでは薄い膜のようなモノを生成し、相手の攻撃を受け付けないような効果を発揮しているというところが観察された⋯⋯一部能力のようだね」
「防御系統の夜ですか」
「あぁ。
特殊の部類に入る。
もう一人の方があまり分からない状態ではあるが、近距離の夜で高い戦闘力を持つ者と防御系統の夜を保有していることは間違いない」
「一ついいですか?」
「どうした?エオ」
「トリスさんは強いですよね?
なぜ新参者の若い奴らに負けることはないのに、一人で行かないんでしょうか?
何か理由があるんでしょうか?」
「それは簡単だ。
まず、夜の器だね」
「器⋯⋯」
「血の量と考えればいい。
血はすぐにぱっと増えるものではないが、徐々に戻るよね?
それと一緒で、夜は戻るのにかなりの時間がかかる。
トリスは強いが、器と能力が比例しない事がほとんどだ。
それに器の量は大幅に動くことはないから、技を使えばかなりの消耗を強いられる事になる。
防御しながら耐える事は強者であっても至難の業だ。
だが器がデカイなら話が別だ。
──私やエオのような存在だ。
トリスには悪いが、容量が決められた枠の中でしか戦えないのなら、我々にも戦える余地がある、ということだ」
あっ。
トリスさんがいじけてる。
「つまり、器が一番大事⋯⋯ということですか?」
「優先度で言えばそうだね。
しかし、器と能力が比例しないとはいえ、一度は使えるレベルの器であることは間違いないからこそ、質と数は安易に比べる事はできない。
この世界は広い。
1度しか使えないがとても強力な夜を携えている可能性もあるし、何度も使えるが弱い可能性もある。
トリスは努力型と言えばいいかな。
サヴァンはそうだね⋯⋯才能型で、勤勉さもある、という感じだ」
サヴァン先生の夜は本だったよね?
どういう能力だろう?
「とまぁここまで話した通り、結論から言うとリオン兄弟の存在が高まっていることと、様々な勢力が現在、かなり活発に動き出している。
──長い間空白だった絶妙な均衡状態が今、崩れようとしている。
これも運命か。
もうすぐ地獄が始まる。
ここもそう遠くない内に狙われる事になるだろう。
彼らにとっても、私達にとっても、土地の奪い合いは必須だ」
世界は広いけれど、この農地も戦いに含まれるのか。
少し複雑だ。
笑顔があった場所まで奪われかねない。
⋯⋯強くならなければ不可能、か。
「現在様々な案で潜伏させている仲間が情報をくれているが、そろそろ帰ってくる。
その時になればある程度は大丈夫という状態にはなるが、絶対はこの世界には存在しない。
如何なる事でも必ず油断を作らないということを忘れずに」
「「はい!」」
「我々も今回の戦争⋯⋯参戦はする予定ではないが、必然的に守る為に戦わなければならないことが多い。
今はまだ発展途上の新しい子供たちがいるが、成長の為にも参戦させるべきだし、戦いとは何か。
生きるとは何か。
相手はなんなのか。
それらを知る為にもやるべき事があるだろう。
エオも、お使いで様々な事を知れただろうが、本物の戦いというのを経験しておくべきだし、むしろ遅いまでもある。
座をとにかく狙わなければ、我々の浪漫は達成できない。
これからかなり厳しい戦いが始まるが、恐れずに、己を信じて──これから生きよう」
「「はい!」」




